第5話

 あれから部屋に戻ってきたが、自分がなにをしたいかわからなかった。

人質として魔王側について暴れるのか、人質になる前に逃げるべきなのか。

 一昨日までなら前者の行動に決まっていると考えていたのに、人工勇者を作っている教団、破壊教団が頭から離れない。

違和感があるのだ。なぜ教団なのかと。いくら調べても破壊教団には人工勇者のことしか載っていなかった。普通、教団ならなにを信仰しているか、信仰に乗っ取って人工勇者を作るのなら多少無理矢理な理由をつけてそう記述できる。しかし実際はなにを信仰しているのかすらわからなかった。


 ここから推測できるのはこの世界にある一つの宗教組織が破壊教団なのではないかと。それなら破壊教団の教団という側面からの情報がないのに納得がいく。だって破壊教団に教団としての情報がバレるとその宗教が破壊教団であることを明かすことになる、そんなリスクは負いたくないはずだ。


 人質の期限は明日までだ。余裕を持たせるためにのんびりと過ごすか。


そう思い、気分転換で城下町に行ってみることを決める。

しかし今からだと早すぎるのでもう少し明るくなるまで寝ることにした。



起きると机の上に朝食が置かれていた。朝食を済ますと城下町の方へと向かった。偶然にも誰とも出会わなかった。

 なぜなのか知っていても引き返すことはしなかっただろう。


城下町には何度も行っている。それでも探索していない場所に向かうことに決めた。

それは城下町の南側に位置するダスダーマ公園だ。特になにもないから、行かなかった。のんびりするために向かうことにした。




「陛下!」


執務室に入ってきたのは直属の家臣であった。ドタバタと明らかに焦っていた。


「わかっておる、城下町の南側は封鎖、交戦の可能性もある、近衛騎士隊を動員させよ」


「はっ」


陛下自身も焦っていたのだ、国民が破壊教団によって誘拐されることに。

 破壊教団らしきものがダスダーマ公園付近で出没したという家臣の通報を受けて対応をしていた。






「うっ、う、うん」


目を覚ます。しかし四肢の自由はなかった。

そう空中に拘束されていたのだ。正しくは四肢を拘束している手錠についている鎖が牢屋の壁の四隅に向かって伸びている。


空中に浮かして拘束することによくしたなと感心していた。


「起きましたか」


俺の牢屋の前に現れたのは明らかに教祖みたいな雰囲気を纏った白色のローブを着て、顔は基調が白色で何かしらのロゴがはいった仮面をつけ、鼻から口にかけて白色の布をつけていた。


「ここは?僕の記憶は?」


「ここは…人工勇者を作っているところであり、あなたの記憶に関しては知りません」


と全身白色男は言うが、記憶に関しては嘘だ、もちろん記憶はある。ダスダーマ公園についたあとすぐに背後から襲われたのだ。

人工勇者を作っているところとなると破壊教団の内部に入れたということか。そして人工勇者がどんなものなのか少しは気になるところ。


「あなたのスキルは『不眠』つまりあなたも人工勇者になれますよ、なりますか?」


そう言うと全身白色男は牢屋に入ってくる。先ほどから護衛がついていないことを考えると教団内で相当強い人物のようだ。

相手のスキルを確認できるスキルを持っているみたいだ。


「まぁ、拒否権はないのですが」


そして俺に手を向けた瞬間、


「ああああぁぁぁぁぁああああ!!!」


と体全身に強烈な痛みが走る。意識が飛ぶほどに。体感二十分ほどに感じた。


痛みが引いた時には全身白色男はいなくなっていた。


俺はすぐにスキルを確認する。


「まじか」


スキルが変わっていてびっくりする。

今の俺のスキルは『刹那』『不眠不食』『スキル偽装』『』になっていた。

スキル偽装を使い、『不眠』だけ表示しておく。

ここからどうするか。どれだけ動こうとも拘束はとれることはない。

このままでは俺も人工勇者の一部となるだろう。

『』という空白のスキルがあることは気になるが今はどうすることもできない。


ただ時間だけが進んでいくだろう。









「エキドナ」


「はっ、何でしょうか魔王様」


魔王謁見間にてエキドナは魔王様に跪いていた。エキドナ以外の四天王もエキドナ同様魔王に跪いていた。


「こちら側に来る予定であった転移者清水が破壊教団に誘拐されたと報告がきた」


エキドナは驚きのあまりを顔を上げてしまう。他の四天王はそうなのかぐらいで流していた。すぐにエキドナは顔を下に向ける。


「毎晩どこに向かっているのかと考えていたが懇意していたんだな…別に構わん、しかしエキドナよ、どうしたい?」


清水を助けるかどうか、助けるなら破壊教団に対して攻撃をし、勇者以外にも敵ができてしまう。魔王様が私を助けてくださった時は破壊教団はまだ成長していなかったので敵にすらならず敵対行動をとらなかった。しかし成長した今、敵になることは明確、しかも人工勇者が可動できる情報も手に入れている。

 この判断によって状況が変わるだろう。

でも…


「助けに行きます」


マーキングまでしたのだ。私のものが勝手に取られて気持ちがいいわけがない。

破壊教団は相手にすると厄介になるかもしれない、しかしそれでも助ける。


「わかった、この件任せよう」


魔王様はニヤッとして言い放った。







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