第4話

 『不眠』のおかげで寝てなくても眠くならないし、体が重くなることがない。つまり人が睡眠に当てている時間を他のことに使えるのだ。


「強いですね」

「お世辞だと思いますがありがとうございます」


 俺は王直属の執事ニディールさんと稽古をつけてもらっている。

俺が目指す戦闘スタイルは短剣と格闘を混ぜた近接であり、執事であるニディールさんぐらいしか稽古をつけれる人がいないのだ。


「そうですか、騎士団長と同じくらいなのではないでしょうかね」

「ならまだまだですかね」


 というか騎士団長よりも執事が強いのか、これはテンプレなのかな。


「少し聞きたいことがある」

「なんでしょう?」


 明るくなってきている月光が差し込む訓練場で戦いのスピードは上げているが二人とも余裕がある。


「人工勇者を作っている教団はいつからそんなことをし始めた?」

「知っていたんですね、教団が存在を確認したのが20年前、この国でも確認されたのが15年前ですかね。いつから作っていたのか知りませんが」

「なるほど」


 調べたものと考えると、人工勇者を作り始めたのは大体16年前か。


「しかし惜しいですね」

「?」

「人質の件ですよ、もっと稽古して最強になってほしかったですね」

「やはり自分か」

「クラスメートともっと仲良くしとくべきだったのでは?」

「過ぎたことはいいかな、でも俺があっち側に着く可能性も考えているのか?」

「考えてしませんよ、私はあなたが強いことを知っていますが他は知らない」


 ニディールさんは警戒しているのか、でも他の人は考えていない。

スキルが不眠であるのでここまで戦闘ができると考えていないのだろう。


「他にスキルを隠しているんですね」

「!?」


 危な!

動揺して回避のタイミングずれてしまった。

しかし他のスキル内容を聞いてこないのは俺が言うつもりがないことがわかっているのだろう。当たり前だよな他のスキルを隠しているのに。


「そうですか、より一層あなたとは敵として会いそうですね」

「ニディールさんとは戦いたくないですね」

「私もそう思っています」


 二人は体力が無尽蔵なのか疲れる様子を見せない。互角であるので隙ができたらと互いに思うが隙が一向に見えない。


「勇者様のパーティに入ってほしいですね」

「もう遅いな」

「ですね」

「もう時間か」

「...騎士たちが起きてきますね」

「終わらすか」


 俺は『一瞬』を使いニディールさんを地面に叩きつける。


「私の負けですか、最後の振りは見えなかったですな」

「それは嬉しい」


 俺の勝ちということで、俺は自分の部屋に小走りで戻っていく。





「ニディール、あんたが負けるところなんて初めて見たわ」


 ニディールは訓練場で少し休憩していると影のところから誰かが出てくる。


「リオンですか、もう起きたのですね」

「メイド長が他の人よりも遅く起きるのは示しがつかないからね」

「そうですか」

「しかし『近接戦闘』を持つあんたを負かすのは相当強いわね、この国最強じゃないか」

「そうかもしれませんが、リオンはどこから見ていましたか?」

「勇者パーティに入ってほしいとか言っていたあたりだ」

「なるほど、最後私が地面に叩きつけられるところを見ているということですか」

「そうだが」

「最後、彼はスキルを使いました、それはスキルを持っている私でも防ぎようがない速さで、正直あの速さは生物では無理です」

「人ではないと言いたいのかい?」

「いえ、彼は人ですが、なぜそれほど強力なスキルを隠しているのでしょうか」

「...考えれるのは二つか」

「そうですよね、敵で手の内をバレたくないのか、なにかのために自身を弱く見せているのか、でも今回ので後者だということがわかりました」

「そんなのが明日、人質になるのか」

「ええ、そうです」

「まずくないか?」

「ええ」


 彼がもし魔王側についてしまうとこの国はほぼ終わりでしょうね。最悪なことに彼は彼自身、魔王側に着く可能性を言っているので間違いなく魔王側に着く。それをさせないためには人質の件を他の人に変えること。


「変えれるか?」


リオンも気付いたようですね。

 もう遅いですが。


「無理ですね」


 他に変わろうとする人は出てこないでしょう。事情を話しても信じてくれないのと、人質を選ぶ時も誰かが彼だと言い張り、そうなったのですから。

 最近、魔王の幹部クラス、つまり四天王クラスの人型の魔物が感知されている。魔物といっても亜人なども魔物と感知されるので敵とは限らないが今回のは四天王クラスなので間違いなく敵だろう。しかし攻撃された形跡はない。

 そして彼の明らかに人質に選ばれる行動を考えると、彼は四天王の誰かと関わりがあるということだ。さらに彼と関わりがある四天王は吸血鬼のエキドナで間違いがなさそうだ。人工勇者のことはこの王城のとある場所以外では言ってはいけないので彼は他のところから情報を得たことになる。四天王の中で人工勇者を作っている破壊教団と関わりがあるのがエキドナだけだ。


「リオン」

「なに」

「彼のバックにはエキドナがついています」

「なぜそうと?」

「魔物が感知されたことと破壊教団について知りたがっていたからですね」

「...なんとなくだが、破壊教団とは彼戦わないよな?」

「あなたの予想通りだと思います」

「なら今の彼では勝てない」

「私を引退させた化物が教祖なんてしていますからね」

「止めないのかい?」

「止めません、の彼では勝てないだけなので」

「そうかい、あんたが言うのなら仕方ない」

「時間なので失礼します」

 

 主が起きてくる時間なので向かいましょう。

 ニディールは一瞬にして訓練場から去っていった。


「とんだ厄災が現れたもんだね」


 リオンが明けてきている空を見ながらそうつぶやいた。

本当にあの男は厄災なのかわかりようはないのに。





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