第1話 プシノフの誕生
第1話 プシノフの誕生
――ローレンシア超大国 首都ペテロ――
あれは本当に育てるのが大変だった、けれど亡くなった兄のことを思えば生きてくれるだけよかった。そう話すのは、プシノフの母だ。
プシノフの母は熱心な無産党員で父は北方聖教会員であった。ローレンシア超大国は、無産党の一党独裁であり社会主義国家として世界で最も巨大な国家であった。無産党は無宗教を掲げており、北方聖教を弾圧していた。そんな2人が結婚しており、親戚は大層不思議がったと言う。プシノフの父の帰りは毎日遅く、一体なんの仕事をしているか、小学生の頃のプシノフには全く見当もつかなかった。
プシノフが中学生になったある夜。いつも通り夜遅くに父が帰ってきた。
「ただいま。すまないがプシノフ、靴を脱がせてくれんか。」
また酔っ払って帰ってきたのかと、プシノフはうんざりしながら玄関に向かうと、そこには片腕のなくなった父の姿があった。父は、ふっと息を吐き、そして小さく笑った。
「明日から家にいてもいいそうだ。上司から言われた。一生分のお手当はもらえるってさ。」
「それは良かった父さん。靴、脱ぎづらいでしょ。手伝うよ。」
プシノフは、思春期特有の感情のコントロールの難しさからか、狼狽えを隠すように早口で言った。靴だけ脱がせると、すぐに自室に戻った。そしてベッドに横たわり、なぜ突然父がああならなければならなかったのかについて、大粒の涙と共に考えを巡らせた。
父は毎日家にいるようになった。それと同時に父は地下室にあった書斎には行かなくなった。手摺がない階段は怖くて降りられないそうだ。
プシノフは目を盗んで地下室に降りた。そしてそこには、無産党のマークのついたノートやローレンシア超大国の歴史についての本、さらには見たことのないが無産党の期間らしきマークまであった。
手摺の工事が入るまでの2週間かけてプシノフは少しずつ父のことを知った。
父は、無産党員であること。
父は、北方聖教へのスパイであること。
父は、政略結婚をしたということ。
父は、おそらく殺されかけたということ。
父のおかげで、無産党の無宗教政策が功を奏している可能性があるということ。
プシノフはこの時、父は陰で国家を支えていたことを知った。プシノフはこの時に無産党情報組織への応募を心に決めた。
無産党情報組織員として活動した15年間は、彼にとってその後の人生へ大きな影響を与えるものであった。
絶対勝てるはずだった戦争に挑んだら帝国が滅亡した れみおん @remion46
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