第6話

「ホント意味わからないわよ!「君は悪くない。でも僕、他に好きなな人ができたんだ。別れて欲しい」よ!私が悪くないなら別れる必要ないじゃない!」


「大林さん…」


京都市内のカフェ。


項垂れる春彦の妻芽衣子めいこに、真嗣は困り顔を浮かべる。


「大林さん…ご主人は、お金でできる償いは最大限すると申しております。だから…」


「だから納得しろって?!冗談じゃない!!詩人として芽が出ない頃から、私がどれだけ彼を支え愛してきたか!それが何?ちょっと箔がついたら若い女と再婚?!弁護士さん!相手の女知ってるんでしょ?!ちょっとここ呼んで!!」


「お、落ち着いて下さい!私も聞いたんです!でもご主人、交際相手の事になると頑なに口を閉ざされて…」


…そう。


あれから何度か春彦と面談し、交際相手の話をしたりもしたが、彼は相手のことは一切口にせず、いつも芽衣子の自慢話ばかりしていた。


だから真嗣も、正直戸惑っていた。


芽衣子の言うように、そんなに好きなら何故別れたいのかと…


ヒクヒクと泣きじゃくる芽衣子にハンカチを渡すと、彼女はそれを受け取りながらも、キッと自分を睨め付ける。


「私に非はないんですよね?」


「あ、はい。ご主人あなたのことになると本当楽しそうに話すので…」


「なら、離婚はしません。どのみち、彼に責任があるなら、彼からの離婚の申し出に応じる事もしなくて良いんですよね?」


「はあ、まあ…」


「じゃあ、離婚はしません。でも、家は出ます。あの人にそう伝えて下さい。家事なら若い恋人にしてもらえって…」


「お、大林さん…」


そうしてスタスタと去っていく芽衣子の後ろ姿を見ながら、真嗣はフウと息を吐き、ソファに身を沈め天を仰ぐ。


「…まいったな。長期戦の予感…」


ただでさえ乗り気でない離婚案件なのに…


とりあえず、持ち帰って春彦とまた打ち合わせをしよう。


そう切り替えて、真嗣はカフェを後にした。

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