第4話

「…離婚、ですか。」


京都のオフィス街に拠点を構える「丸橋法律事務所まるはしほうりつじむしょ」。


いつものように仕事をしていると、1人の線の細い中年男が訪ねてきたので応対してみれば、男は既婚者で、妻と離婚したいと言う。


「差し支えなければ、理由を聞かせてもらえますか?」


そう言うと、男はポツリと呟く。


「浮気…になるのかな。他に、好きな人ができたんです。」


「なるほど。身体の関係は?」


「…一度だけ。」


「なるほど。それで、もう奥様には気持ちは残ってないと?」


「…それは……なんて言うか、分かりません。でも、もう、一緒にいられないんです。あの人に、僕は心奪われたから…」


「はあ、ならまあ、離婚の手続きをしていきましょう。えっと、お名前…」


「ああ、申し遅れました。詩人の大林おおばやし春彦はるひこです。」


「えっ!?あの、この間詩集の大きな賞を取られた?」


「あ、はい。恥ずかしながら…」


そう言って照れ臭そうに鼻を掻く春彦に、真嗣は言葉を続ける。


「では大林さん、離婚の件は、奥様には…」


「あ、伝えました。別れて欲しいと…でも、真面目に聞いてもらえなくて…」


「そうですか。まあ、有責配偶者からの婚姻解消は、中々難しいんですよ。」


「有責…」


「ええ、法律上、配偶者のいる状態で婚外性交渉…つまり他の女性と関係を持つのは違法行為なんです。」


「違法行為だなんて!僕とあの人は、そんな人様に後ろ指刺されるような事はしてません!」


「大林さん落ち着いて。あくまで法律の話です。ですから、奥様からは相応の慰謝を、あなたとその女性に求められます。それはご理解下さい。」


「あ、はい。それは重々、お金でできる償いはするつもりです。ただ…」


「ただ?」


「いえ、何でもありません。では、よろしくお願いします。谷原やはら先生…」


「分かりました。取り敢えず、奥様にもお話を聞いて双方の落とし所が見つからないなら、調停になりますので、よろしくお願いします。」


そう締め括ると、真嗣は事務員を呼び、男に帰るように促し、相談室から出る。


「「ただ」…何が言いたかったんだろ。」


どうせ不倫相手が妊娠したとかそんな話だろうと思うようにし、多少の引っ掛かりはあったが、真嗣は春彦の離婚に向けての資料を集め始めた。

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