そして3年後

 マイケルがカラーズという名前をつけてから三年が過ぎた。

 つまり、ジェイコブは15歳となったのだった。

 ジェイコブの心はあまり変わっていなかったが、体は筋肉で大きくなり、背も180センチ後半まで伸びたのだった。


 そして、カラーズの生活は一変していた。


 スラム街の廃ビルの合間で、ジェイコブは、ジョシュアと二人で待っていた。

 ジェイコブも背が伸びたが、ジョシュアは更に背が伸びて、190センチをゆうに超えていた。

 まだ、少年とも言える二人だったが、並ぶと、かなり威圧感があるのだった。


「なあ、ジェイク。こっちに来ると思うか?」


 ジョシュアがジェイコブに尋ねた。

 3年の間に、二人のわだかまりは消えていた。


「来るよ」


 ジェイコブが言い切る。

 その理由は、マイケルがそう言ったからである。


「はぁはぁ……」


 その時、ちょうどよく、誰かが走る音と、その息が聞こえてきたのだった。


「ビンゴ!来たな!」


 ジェイコブ達からはまだ姿は見えていなかったが、ジョシュアが手で銃の形を作って、撃つ真似をした。


 その先で、偶然ちょうどよく、一人の男が角を曲がって姿を現した。

 何かから逃げているように、全力で走っているその男は、ジェイコブ達を見つけると一度立ち止まり、しかし、


「うわあああああ!」


 意を決したように、ジェイコブ達に襲い掛かってきたのだ。

 しかも、その手にはナイフが握られていた。


「おっと」


 しかし、ジョシュアはナイフには全くひるまず、避けると、手でジェイコブの方へ男を押し出した。

 男はよろけ、ジェイコブの元へと辿り――つかなかった。

 ジェイコブはよろけた男の手のナイフを蹴りで落とすと、更にそのまま一回転しながら男の顔へ回し蹴りを喰らわせたのだ。

 男はその一撃で気絶をし、地面へと勢いよく倒れ込んでしまった。

 その様子を見ていたジョシュアは、口笛を吹く。


「ひゅー、やるねえ」

「遊ぶなよ」


 ジョシュアだって、男を倒すことなど簡単に出来たのだ。

 

「悪い悪い、怒るなって……おっ!来たみたいだぜ」


 男に続いて、バタバタと走るような足音が、ジェイコブ達の耳に沢山聞こえてきたのだ。

 そしてそれは、すぐ近くまでになり、先に来た男のようにマイケルとイーサンが廃ビルの角を曲がって顔を出した。


「終わってるみたいだな」


 倒れた男を見て、マイケルが言う。


「悪いな。意外と逃げ足が速くてよ」

「ああ、凄いんだぜこいつ。5階のトイレの窓から飛び降りやがった」


 と言っても、マイケル達は倒れている男が誰かは知らない。

 

「さて」


 マイケルが魔導携帯を取り出すと、連絡を取りだした。


「マイケルです。ええ、捕まえましたよ。どの辺りにいますか?はい、じゃあそこに持って行きます」


 簡潔に電話をすると、マイケルは携帯をしまった。


「もう、すぐそこで待ってるみたいだ。行こうぜ」

「ああ」


 ジェイコブは男を担ぎ上げ、マイケルに言われるがままついて行くのだった。


 そして、言った通りに、目的地にはすぐに着いた。


「ボブさん、ウィリアムさん。助かります」


 その場所には、ギャングの一員であるボブとウィリアムが待っていたのだ。


「おう、ガキ共。早かったな」


 そう言いながらも、実はボブもウィリアムもわかっていたのだ。

 だから、近くで待っていたのだ。

 それだけの信頼が、マイケルにはあった。


 ジェイコブは黙って、気絶している男を地面に投げ捨てた。


「間違いないな」


 そして、顔を確認すると、代わりにウィリアムがそれを担ぎ上げる。


「ほらよ」


 ボブが封筒を差し出すと、マイケルはそれを受け取った。


「ありがとうございます」


 そして、深々と頭を下げた。

 

「じゃあ面倒にならない内に行くわ」


 そう言って、ボブとウィリアムは男を連れてどもかへと行ってしまった。

 あの男がどこの誰かも、この後どこに行くのかも、マイケル達は知らなかったし、知ろうとも思わなかった。

 ただ、ろくなことにならないのは確かである。運が良ければ生き延びれるかもしれない。その程度である。


 カラーズは言わずもがなギャング団となっていた。

 そして、元々上納金を払っていたギャングである、ジェザ・ド・レンから、仕事を受けるようになっていた。

 今回のような荒事はもちろん、中身が何かわからないアタッシュケースの配達や、ただの見張りなど、カラーズは何でも請け負い、ジェザ・ド、レンから信頼を得てきたのだ。


「それじゃあ俺達も帰るか」


 マイケルがそう言うと、


「そうだな」

「ああ」


 皆はそう答え、帰路を辿る。


 カラーズはギャング団へと変わってしまったが、それでも変わらないものはあった。

 それは住処である。

 裕福とも言えなものの、ある程度まとまった金を得ているカラーズは、住処を変えることも出来た。

 だが、未だにボロ小屋を使い続けているのだった。

 それは、ボロ小屋とはいえ、いかにもなギャング団の隠れ家のようであり、愛着もあり、皆気に入っているからである。


「ただいま!」

「おかえり!」


 そしてもちろん、カラーズの団員は、誰一人かけることなく小屋にいるのだった。

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