仲間達の過去

 マイケルがカラーズを設立した日の夜、ジェイコブは母の墓参りに来ていた。

 別に特別な日だからではない。

 近いという事もあり、頻繁にここに来るのだ。


「よう、精が出るな」


 そんなジェイコブに、背後から話しかけてきたのは、イーサンだった。


「よっと!」


 イーサンはジェイコブの隣に座った。


「ジェイクは父親がわからなくて、母親は死んでしまったんだよな」


 正確には、父親も母親もわからないのであるが、ジェイコブですらその事実を知らないのだ。


「俺も両親が死んでるんだ」


 ジェイコブは、ハッとした顔でイーサンを見る。


「親戚もいなくて、天涯孤独になって、でも子供じゃ何も出来なくて……それで、彷徨っている時にマイクに会ったんだ」


 イーサンはさらりと言ったが、そんなに簡単な話ではなかったはずである。


「その時にはもう、マシューとジョッシュもいたんだ。マシューとジョッシュは孤児院にいたんだけど、そこの院長があくどい奴でな。国から助成金をもらって、子供達は放置してたんだ。だから逃げ出したんだと」


 マシューとジョシュアに苗字がないのは、そう言った背景があるからである。


「それで次に会ったのはリビアだ。リビアは、人身売買されそうになっててな。その……色々されたみたいだ」


 それは、とてもイーサンの口からは言えないような事である。

 今の元気なオリビアからは、想像もつかない程の仕打ちを受けてきたのだ。


「だけど、たまたま元締めが摘発されたみたいでな。それで逃げ出せたみたいだ」


 運がいいと言って良いのかわからないが、その部分だけは運が良かったのである。


「次はエミーだな。エミーにはちゃんとした親がいるし、死んでもいない。でも、母親の再婚相手がとんでもない糞野郎でな。エミーを毎日殴ってたんだ。それで、エミーも逃げ出したってわけだ。あっ!」


 急に、イーサンが何かに気づいたように声を出した。


「でも別に、子供好きってわけでもなかったみたいだから安心しな」


 ジェイコブにはその言葉の意味が理解できなかった。

 子供好きじゃないから、子供を殴ったのだと思うのだ。


「ああ、それと……エミーの体に傷が残ってるかもしれないけど気にしないでやれよ」


 それは、やはり、ジェイコブにはわからないのだ。

 まるでジェイコブには、エミリーの裸を見る機会があるかのような言い方である。


「さて……それで最後に会ったのがジェイクだな」


 これで全員である。


「最初は皆驚いたよ。このスラム街じゃ死体は珍しくないけど、這ってまでして死体を運んでいる子供は、流石に初めて見たからな」


 ジェイコブは、その時はただ必死だったのだ。


「あとは、まあ話した通りだな。マイクがジェイクを助けようって言いだして、ジェイクが仲間になって……だな」


 ここまで聞いて、ジェイコブの中では二つの疑問が浮かび上がった。


「マイクは?」

「ん?」


 その短い質問に、イーサンは少し考えたが、すぐに気づく。


「ああ、マイクの身の上話か。それはよくわからん。誰も知らないんだ」


 それは知られたくなくて話してないのか、誰も聞いていないのか、ジェイコブにはわからない。

 だが、わからないものは別にいいのだった。


「なんでこの話を?」


 それは、二つ目の疑問だった。

 話の流れと言えば、それで終わりだが。

 少し不自然ではあったのだ。


「ああ、いや、ずっと話そうと思ってたんだ。俺らはジェイクの身の上を知っているけど、ジェイクは知らないだろ?」


 もちろんジェイコブは、今聞いた話は全て知らなかった。


「だから、知っておいて欲しかったんだ。仲間だからな」


 そう言って、イーサンはニカッと笑った。

 マイケルに似た笑いであり、ジェイコブには出来ない笑いである。

 しかし、ジェイコブも口の端を少し持ち上げ、つられて少しだけ笑ったのだった。


「さて、明日も頑張ろうぜ。俺達はカラーズなんだからな」

「ああ」


 そして、二人は帰路を辿ったのだった。

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