ゴミ漁り

 全員の紹介を終えて少し経つと、全員が起きてきて、凄く少ない朝食を取った。


「朝食を取るのは意外か?でも、少しでも取っておいた方が効率がいいと思ってな」


 怪訝そうな顔をするジェイコブに、マイケルがそう説明する。


「そうそう。これから仕事をするんだからさ」


 マシューもそれに続く。


「もちろんジェイクにもやってもらうからな」


 それは、ジェイコブにとって嬉しいことだった。

 何もせずに飯をもらうわけにはいかない。

 それに、返しきれない程大きい貸しもあるのだから。


「最初は見張りでもいいんだけどな。それじゃあ退屈だろう」

「見張りってのは、この小屋の物を盗まれないようにさ。3人は小屋にいるんだよ。まあ大したものはないけどな」


 イーサンが説明の為に口を挟んでくれる。

 それは、ジェイコブの家でもそうだった。

 このスラム街で家を空にするのなんて、それほどの間抜けはいないのだ。


「だから、ジェイクにはゴミ漁りに行ってもらう」


 ゴミ漁りと言う名前を聞くだけで、何をやっているのかは、ジェイコブにも簡単に分かった。


「まあ、文字通り街中を歩いて使えそうなものを拾ってくるだけだよ。ちょうどジェイクに街も案内出来るからいいと思ってな」

「と言っても、ドリームヒルストリートからそんなに離れてないから、詳しくないってわけでもないと思うけどな」


 そう言われても、ジェイコブはまずここがどの辺りなのかわかっていなかったし、あまりドリームヒルストリートから離れたところまでは行かなかったので、詳しくない可能性の方が高かった。


「それじゃあ、いつものようにエミーとジョッシュとイーサンは見張りで、俺とリビアとジェイクがゴミ漁りな」


 それだとマシューがあぶれることに、もちろんジェイコブは気付く。

 だが、ジェイコブは何も言わなかった。


「じゃあ、行こうか」

「よろしくね!ジェイク!」


 マイケルの合図と共に、オリビアがジェイコブに元気に挨拶をしてくる。

 それに、イーサン達もジェイコブ達を送り出したのだった。


「ああ」


 ジェイコブはそれに短く答え、マイケルの後へついていったのだった。


「そう言えば、ここがどこかわかってるのか?」


 小屋を出てすぐに、マイケルが言った。

 ジェイコブはそれに首を振る。


「ここはファウンテンクロスストリートだよ」


 ジェイコブには、その通りの名前に覚えはなかった。


「知らないの?ついてきて」


 オリビアはジェイコブの手を取って走り出す。

 ジェイコブもまた、オリビアに導かれるままに走りだした。

 そして、マイケルはやれやれと言う感じで、後をゆっくりと追うのだ。

 


     ♦



 ゴミ漁りと言うのは、文字通り路地裏にあるゴミ箱を漁るだけの行為であった。


「使えそうなものなら、何でも持って帰っていいぜ」


 ゴミ箱を漁りながら、マイケルがそう言う。


「そうそう。こういうのとかさ!」


 そう言って、オリビアが、空のペットボトルを拾い上げる。

 そんなものでいいのかと、ジェイコブも真似して、ゴミ箱から空のペットボトルを拾いあげた。


「それは持って帰るなよー。どこでも拾えるからな」


 しかし、マイケルには止められてしまう。


「えー」


 オリビアは、そう言いながらも、空のペットボトルをその辺に投げ捨てる。

 ジェイコブは、空のペットボトルをゴミ箱へ戻すと、今度はネジを拾い上げた。


「ああ、そうそう、そういうのはいいな。ネジは洗ってまとめて売れるんだ。あと壊れた機械とか。エミーが直してくれることもあるぞ」


 マイケルは汚れた手で、ジェイコブの背中を叩きながら褒めてくれた。

 それが、ジェイコブには嬉しかったのだ。


「さて、次の所に行こうぜ」


 マイケルがそう言って、歩き出したのだが、その道を防ぐ者達がいた。


「おお!マイケルじゃねーか!偶然だな!」


 マイケル達の道を塞いだのは、大人の二人組だった。

 その二人は、マイケルの知り合いのようであるが、明らかにその筋の見た目である。


「ああ、ボブさんにウィリアムさん。どうも」


 マイケルはにこやかな笑顔で、二人に対応した。


「なんだ?見ない顔だな?新入りか?」

「ええ、昨日から仲間になったんです」


 二人組の大人はそう言われると、ジェイコブの事をジロジロと見る。


「ガリガリじゃねーか。後で小屋の方になんか渡しといてやるよ」

「いつもありがとうございます。ボブさんとウィリアムさんのおかげで生きていけてるんです」

「相変わらず口が上手いなこいつ!」


 そう言ってボブだかウィリアムだかわからない方が、マイケルの頭で軽くげんこつを回す。


「じゃあな」


 そして、二人組は去っていった。

 それを見送って、しばらくするとマイケルが口を開いた。


「あの二人は、この辺を仕切ってるギャングの一員だよ」


 そうとしか見えない風貌であったし、実際そうだった。


「もちろん俺達も上納金は払ってるよ。でも、他の所のギャングよりましだろ?」


 ジェイコブが元々いた場所のギャングとは、態度が大違いである。


「一番上手くやれそうなところを選んだんだ」


 それは、小屋を探すより前にという事である。


「下手に出てれば悪い事はしてこないよ。むしろ、今みたいに何かしてくれたりするんだ」


 普通のギャングは、下の者からは搾り取るだけで、与えたりはしないだろう。


「だから、どんなに嫌な事をされてもヘラヘラしてろよ?例え心では何を思っていてもさ」


 そう言ったマイケルは無表情だった。


「さて、次に行こうか」


 しかし、すぐにニカッと笑う。

 それが本当の表情は、ジェイコブにはわからなかった。

 


     ♦



 それからもゴミ漁りは続き、昼には一度小屋に戻り昼食を食べて、そしてまたゴミ漁りは続いた。

 だが、ジェイコブには不思議な事があった。


「ここが最後だ」


 回った場所は、スラム街ばかりだからなのである。


「なんだ?なんでスラム街ばかり回るのかって感じの顔をしているな?」


 それは、自然に抱く疑問であろうから、マイケルは先回りして言った。

 それに、ジェイコブは頷いた。


「俺らみたいなのが、まともなとこでゴミ漁りしてたら憲兵団に捕まっちまうよ。それに縄張りみたいなのもあるしな」

「仕方ないんだよねー」


 それもそうかと、ジェイコブは納得する。


「でもここはスラム街だけどマシなとこなんだぜ」

「私ここ好きー。花屋の子とも仲いいし」


 最後に来たところは、スラム街であるが、しっかりとした店が多い所である。

 看板もあり、ホワイトライトストリートと書いてある。


「スラム街だけど、どこもまとも店だし、俺らみたいな浮浪者にも好意的なんだ」


 その言葉の通り、店の人はマイケル達を見かけると、


「よう、ガキども。残飯ならあるぞ」

「おう、穴空いた板ならあるぜ」

「新しい仲間か?」

「リビア!こんにちは!これ、食べられる花の茎よ」


 口々にそう言って、何かをくれたのだった。


「だけど、ここには頻繁に来ない方がいい」


 帰り際になると、マイケルがそう言う。


「あんまりたかりに来ると、相手も嫌になるからな」


 ジェイコブは。マイケルが言うのであれば、それは間違いないだろうと思った。


「それじゃあ帰るとしよう――って、その前に行くところがあるんだった」


 マイケルがそう言い、ジェイコブはマイケルが言うままについていく。

 そして少し歩くと、目的地についた。

 そこは、昨日ジェイコブの母を埋めた場所だった。


「今日あそこに行ったのは、ここが近いからなんだよ。気になってただろジェイク?」


 もちろんジェイコブは今日一日、ずっと気にしていた。

 それをマイケルは見破っていたのだ。


「毎日墓参りに来ていいぞ。墓はないけどな」


 マイケルは自分で言って、「ははっ」と自分で小さく笑った。


「ああ」


 ジェイコブは母に、頭の中で新しい仲間を紹介したのだ。

 リーダーのマイケル、物静かなエミリー、兄貴分のイーサン、お調子者のマシュー、背の高いジョシュア、ムードメーカーのオリビア。

 全員、ジェイコブの大事な新しい仲間だ。

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