七人の仲間

 ハンナとの別れを終えると、ジェイコブは、やはりマイケルの肩を借り、最初にマイケル達に出会った場所へと戻って来た。

 そのすぐ側には、マイケル達の住処があるのだ。

 その住処は、ジェイコブが思っているよりも立派だった。

 と言っても、もちろん上等な家ではなく、広い小屋の様なものだ。


「ボロ小屋を勝手にもらったんだ。元の持ち主は知らないけど、もう何年も住んでるけど追い出そうとする奴はいないよ」


 小屋を見渡せば、ありとあらゆるところに修繕の後があった。

 そして、小屋の中は物で溢れていたのだ。


「使えそうなものはなんでも拾ってきてるんだ。ほら、このスコップだってゴミの山から拾って来た物なんだぜ」

「それは、俺が拾って来たんだぜ!」


 実際に、ボロボロのスコップはゴミなのだろう。

 しかし、そのゴミが、今回はジェイコブの役に立ったのだ。


「マイク。もう限界だろう。飯を食わせて休ませてやれよ」

「ああ、そうだな」


 そう言うとマイケルが、小屋の食材を保管しているところから缶詰を持ってきてジェイコブに渡した。


「ほらよ、肉の缶詰なんてごちそうなんだぜ。そこに座って食ってくれ」

「俺、金が……」


 ジェイコブは母以外の物は全て置いてきてしまったのだ。

 

「馬鹿。仲間だろ。今日はそれ食って寝ろ……俺のベッドを貸すからさ」

「えー!じゃあマイクはどこで寝るんだよ!」

「ははっ!そりゃお前と一緒のベッドだよ」

「やっぱり!」


 マイケルは、仲間達と楽しそうにやり取りをする。

 ジェイコブは、それでも、食料には手をつけれないでいた。


「どうした?ああ、スプーンならあるぜ。錆びてるけどな」


 マイケルが半笑いで、錆びたスプーンをジェイコブに渡す。

 ジェイコブはそれを受け取ると、勢いよく缶詰を食べたのだ。

 缶詰は特別旨いものでもなかったが、ジェイコブには特別なごちそうのような味がしたのだった。


「よし!全員今日は特別に缶詰にしとくか!」

「わーい!」


 マイクがそう言うと、皆はそれぞれ歓喜の声を上げて、ジェイコブと一緒に食事を始める。

 いつも母と二人で食事をしていたジェイコブにとって、こんな人数で食事をするのは初めてであり、それはとても楽しかった。

 だが、食事の量は少なく、全員すぐに食べ終わってしまう。


「じゃあ、おやすみ」


 そして、ジェイコブはすぐにベッドへと押し込まれ、疲れからすぐに寝てしまったのだ。

 あまり綺麗とは言えないベッドではあったが、それはジェイコブの元居た場所も同じで、ジェイコブはぐっすりと眠ることが出来たのだった。

 


     ♦



 翌朝になり、ジェイコブは目を覚ます。

 起き上がれば、いつもの朝とは違う場所であり、やはり昨日母が死んだことは夢ではなかったことを、ジェイコブは実感する。


「早いのね」


 そう言ったのは、仲間のうちの、二人いた少女の片割れだった。

 ジェイコブが辺りを見回すと、まだ彼女以外には起きていないようだった。


「ああ」


 ジェイコブが短くそう答えると、しかし、そのまま沈黙は続いた。


「トイレならそこにあるから。手作りだけどね。水は水道管を勝手に繋いでるから使いたい放題よ」


 沈黙に耐えかねたのか、聞かれてもない事を少女は答えた。


「ああ」


 ジェイコブが短く答え、そして、やはりまた沈黙が続く。


「ん?なんだ、もう起きたのか」


 別の声が響き、その沈黙が破られた。

 また一人、起きてきたのだ。


「おはよう。相変わらず早いなエミーは。それにジェイクも早いんだな」

「っ……」

 

 ジェイクと呼ばれて、ジェイコブは少しだけ反応した。


「すまん。嫌だったか?」


 ジェイコブの反応を見て、男はすぐに聞く。


「いや、いい」


 母親以外にジェイクという愛称で呼ばれたのは、ジョイコブからしてみれば初めてであった。

 それは、違和感こそあれど、悪い気分ではなかったのだ。


「もう紹介は済ませたのか?エミー」

「まだよ」

「そうか。じゃあ全員俺が紹介するよ」


 少年は、ベッドを降りるとジェイコブの傍へと来る。


「まずは俺だな。俺はイーサン・ジョンソンだ。一応ここでは一番年上だ。多分な」


 多分と言うのには理由がある。


「こいつら自分の正確な歳がわからないやつもいるからな。でも、俺は15歳だから多分俺が一番年上だろうよ」


 イーサンは無駄に多分というのを強調して喋った。


「まっ!ここでは歳なんて関係ないんだけどな。よろしく」


 そう言ってイーサンがジェイコブに手を伸ばすと、ジェイコブも釣られて握手をした。

 続いてイーサンは歩いて、ジェイコブよりも先に起きていた少女の元へと歩いて行った。


「この子はエミリー・ブルーだ。マイクも驚いてたけど名前に色が入っているのは、マイクとジェイクとエミーだけだな。って言っても7人いて3人もいるんだから偶然だよな」


 そう言ってイーサンは肩をすくめた。


「エミーはジェイクと同い年なんだ。あまり喋らないけど恥ずかしがり屋なだけなんだ。仲良くしてやってくれ」


 そう紹介されたエミリーだが、特に挨拶などはしてこなかった。

 そして、ジェイクも特に挨拶などをしないのだった。


「ジェイクも無口だよな。意外と気が合うんじゃないか?」

「そんなことないわ」


 しかし、エミリーはそこにはしっかりと反論したのだった。


「で、次はジョシュアだな。こいつは……まあ普通の奴だ。苗字はない。親がいなかったからな。13歳だから俺の次に年上だな。自称だけど」


 イーサンはジェイクの返事も待たずに次々に紹介をしていく。


「こっちはマシューだ。こいつも苗字はない。一番年下だし、チビだろ?でもチビって言うなよ?コンプレックスなんだ」

「おい、酷いじゃないかよイーサン」


 紹介されたマシューは、ちょうど目を覚まして反論をした。


「悪い、悪い、起きてたのか」

「チビって聞こえたから起きたんだよ!」


 そう言ったマシューは、本気で怒っている様子ではなかった。

 信頼関係があるからだろう。


「それで、もう一人の女の子のオリビアだ。苗字はなくて、11歳だ。元気いっぱいだけど……色々あったんだ。優しくしてやってくれ」


 そう語るイーサンの顔は少し険しかった。


「それで最後に、俺達のリーダーのマイケル・ホワイトだ。覚えてるだろうけど、お前を助けようって言いだしたのはマイクなんだぜ」

「ああ、感謝してる」


 これまで喋らなかったジェイコブだが、突然口を挟んだ。

 そのジェイコブの様子に、イーサンは微笑む。


「マイクには人を惹きつける何かがあるんだ。だから年上の俺じゃなくて、マイクにリーダーをやってもらってる」


 そして、全員の紹介を終えると、イーサンは再びジェイコブの元へと戻って来た。


「それで、最後の仲間はジェイコブ・ブラウンだな」


 芝居がかったようにイーサンが言う。


「ははっ!こりゃあいいや!」


 マシューが笑った。

 言うまでもないが、ジェイコブの紹介をジェイコブにする必要はないからだ。


「実はジェイクの事は俺も良く知らないが、これから知って行こうと思う」


 そう言われて、ジェイコブも少し笑った。


「これからは仲間だ。よろしくな」


 そして、再び手を取り合ったのだった。

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