第32話 蟻地獄。

ズエイは見たこともない怖い顔で「…レギオンの奴ら…な。被害者だと思っていたが逆だったか…道理で最後の希望を探しても見つからねえ訳だ。売人はレギオンに居る。こちらも連合を結成する。レギオンの親をしてるマンニィ・パブークは俺達で押さえ込む。まずはゲーン探索団としてクラトーンを始末だ。もうアイツは元には戻れない。俺達でケジメを付けるぞ」と言ってハッピーホープへと戻って行った。


ダムレイが「ボラヴェン、クラトーンだ」と言うと暗い表情のボラヴェンが「見つけてる。あんまり良くない。すぐに暴るれよアレ」と言う。



「俺が行くよダムレイ」

ハイクイが立ち上がるとクオーが無理矢理座らせて「あの日の失態は我が失態。私にやらせてくれ」と言う。


破壊者の顔になったクオーはボラヴェンから場所を聞いて行くと裏路地の隅に小さくなったクラトーンが手を真っ赤にして泣いていた。


「クラトーン」

「ひっ!?だ…誰!?」


クラトーンはクオーの声すらわからなかった。


クオーが「私だよ」と姿を見せると泣きながら「クオー…。俺…インシンを…」と言う。


「ああ、インシンは死んだよ。君は蟻地獄を飲んでしまったんだね?インシンから聞いたよ。インシンは死ぬ前に君は悪くないと言っていた」


この言葉にクラトーンは震えながら「クオー、俺も死ぬのかな?怖いよ!前に薬を持っていたシーカンを殺した奴は手も足もがれて目も潰されて苦しんで死んでたよ!俺もああなるの!?」と聞く。


間違いないだろう。


「ああ、この街の掟だね」

「や…やだよ!怖いよ!助けてよ!クオーはマーブルデーモンなんだよね!俺だけ助けてよ!旦那に頼んでよ!」


子供の甘い考え。

これはクオーに出会って知ってしまった甘え。



「済まない。ルールはルールだ。クラトーン…君の死は必至だ。だが私が苦しまずに送ってあげよう」

クオーは一歩踏み出すとクラトーンは「嫌だ!」と言いながら風龍の吐息で小規模の風刃を飛ばしてくる。


だがクオーは傷付くことなくクラトーンを抱きしめると「目を瞑りなさい。眠るんだ」と言ってクラトーンの首を折って殺してしまった。


痛みはなかっただろう。


クオーはクラトーンの亡骸を抱いてハウスに戻ると周りの連中が「なんで中毒者を殺した」「罰を与えてから殺すんだ」「手心を加えたのか」と因縁を付けてきたがクオーは怒りに染まったひと睨みでそれを全て封殺するとダムレイに「団長」と声をかけた。


どんな時でもダムレイを団長と呼ばなかったクオーの団長呼びにダムレイが「なんだ?」と聞くと「お願いがあります」と返した。


「言ってみろ」

「私にクラトーンの風龍の吐息をお貸しください」


「あ?大蛇の束縛と魔神の身体はどうすんだ?」

「無論、全て使いこなします」


「バカヤロウ!命を縮めるぞ!」

「構いません。クラトーンを殺めた私はその罪を背負い、恨みの全てを晴らします」


クオーに何も言えないダムレイの代わりにハイクイが「副団長として許すよクオー。家族を汚した連中は皆殺しだ。とびきり酷いのを頼むよ」と言い、ダムレイが「ハク!」と怒鳴ろうが無視をしてクオーはハイクイに深々と礼をして「感謝する!」と言うとクラトーンの亡骸から風龍の吐息を手に取って歩き始める。


ケダモノが無人の野を歩くごとくレギオンのハウスに向かうクオー。

レギオンのハウスは既に包囲されていて逃げ出そうとするレギオンの構成員達は軒並み他の子供たちに逃げ場を塞がれて「やましい事が無ければここにいろ!」といわれていた。


怒りに赤く光るクオーに周囲がどよめく中、クオーは「我が名はクオー・ジン!我が家族クラトーンとインシンに蟻地獄を勧めたレギオンの構成員を渡せ!渡さねば連帯責任として全てを破壊し全てを殺す!」と宣言をした。


いくらなんでも大手のレギオンがここまで言われて黙って売人を差し出すことは沽券にかかわる。


血の気の多い構成員が「んだこらマーブル野郎!」と凄んだがクオーは一瞥と共に「差し出さなければ殺すよ?」と言う。


「知らねえ!帰れクソが!」


そう言った瞬間クオーは構成員の顔を持って持ち上げると「風龍の吐息」と言ってあり得ない量と切れ味の風刃で構成員を細切れに変えてしまうともう一度「今すぐに出さなければ全てを破壊する!」と言った。


その後は早かった。

レギオンのハウスから全ての人間を無力化して外に出すとクオーはキロギーに頼んでハウスに火を放った。


隠れていた数名の悲鳴が聞こえてきた時、クオーは中に入って売人と重度の中毒者を拾ってくる。


「熱くないの?」

「風刃と魔神の身体、大蛇の束縛が有れば数分なら耐えられるようだ」


ハイクイと世間話をしながらレギオンの構成員達を正座させると薬切れを待ち、暴れ出した構成員を片っ端から周りの連中に渡していく。


レギオンのリーダーは大所帯過ぎて何もわかっていなかったと愕然としていて嘘はついてない様子だった。


帝国の売人は2人、完璧に手先に変えられた重度の中毒者は3人居た。


クオーはこの5人だけは欲しいと言うと地獄を見せた。


まず1人、インシンとクラトーンを売人に合わせた末端の中毒者には死ぬまで拒絶しようが力技で無理矢理蟻地獄を飲ませ続けた。


「ほら、まだあるよ?飲むと良い」

「やめ…やめて…やだ!死んじゃう」


「そうだよ。君は死ぬんだ。ウチの家族に蟻地獄を与えたんだから許さないよ」


クオーは命乞いを無視して死ぬまで蟻地獄を投与して殺してしまった。



「まず1人」と言って清々しく笑ったクオーは次の中毒者に向かう。

女の中毒者でも容赦のないクオーは蟻地獄を飲まされて高揚感に包まれている間に風刃で手足を切断する。薬切れで苦しむ中毒者に再度蟻地獄を飲ませて「良かったね。これで痛くないね」と語りかけると中毒者は「本当だ」と笑いながら死んでいた。



「これで2人目」

この声に周りの連中は何も言えなくなっていた。


3人目は逆に手足を砕いて目の前に蟻地獄を置いて薬切れの苦しみの中で悶絶死させる事にする。

薬が切れて禁断症状に苦しむ中、砕けた手足でも蟻地獄を求める様には周りも恐れ慄いたがクオーだけは「へえ、よくやるね」と入って足の裏に杭を打ち付けて手を伸ばしてもギリギリ届かない場所に蟻地獄を置いて狂い死ぬまで放置をした。


それを全て見ていた帝国兵は真っ青になったが大蛇の束縛で捕まっていて自害すらできずに居る。


クオーは2人のうち1人をズエイに渡して「王国の裁きをお願いします」と言う。


「もう1人はどうする気だ?ただ殺すならこちらに渡せ」

「いえ、そんな真似はしません。ズエイ・ゲーン。ビジネスパートナーとして失格なのは分かっていますが私に馬車をお譲りください」


「何をする?」

「コイツと蟻地獄を持って帝国の前線基地を滅ぼして参ります。パワーバランスの件は承知しておりますがここまでされて許せる訳がありません。奴らの基地が無くなって溢れる魔物は私が全て破壊します」


「クオー…、1人じゃない。俺たちだ。俺も行く」

ハイクイの言葉に周りからは「山鬼…」と声が出てくる。


ズエイは損益の計算を済ませつつ周りの経営者連中を抑えると「2人のうち下っ端ならくれてやる。やってこい。だが、滅ぼす以上の成果が得られればそれを優先しろ」と言う。


「成果?」

「仮に指示した隊長なんかが見つかればそいつを連れて来い。そうしたらコイツと交換してやる。好きなように嬲り殺せ」


クオーは嬉しそうに笑うと「はい。全身を風刃で中途半端に切り刻んで溶かした蟻地獄の風呂に入れてやりましょう」と言う。


よくもまぁ拷問官でもないのに次々と思いつくものだとズエイは思いながらも周りに悟らせないように「流石はビジネスパートナー」と言い、捉えた兵士に「苦しまずに死にたかったら全部吐くんだな。まあ噂レベルだが…この街でな、子供の腹を蹴り殺した奴がなんでか生きたまま両脚をグチャグチャにされて両腕と耳は引きちぎられて腹を貫かれて胃袋を握りつぶされて殺されたんだよな。後は贅肉って贅肉を全部むしり千切られて殺されてたやつもいたな。それをやったのは目の前の男かも知れないって噂だがな、まあそれに近い事はするかもな…。怒っているからな」と凄む。


死を覚悟した決死の任務だったが震えて失禁する兵士。

クオーはその片割れを掴んで「さあ楽しい馬車旅に行こう」と言うと馬車の所まで歩き始めた。

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