薬物汚染と戦う破壊者。
第31話 最大の危機。
クオーがコイヌの葬儀を済ませて4ヶ月が経った。
その間に一度ダムレイとケーミーをジン家に連れて行き墓参りをした。
クオー自体は戻る気も無かったが、ズエイにビジネスパートナーとして頼まれて、ダムレイ達の進路の為と言われれば連れて行くしかなかった。
やはりダムレイもケーミーもジン家での扱いを経て「俺、クオーと島を出るわ、無理だ」「私も…」と言った。
欲望の島といえば何の問題もなくゲーン探索団は力場が生まれれば出向いてカケラを仕入れて、魔物や帝国兵を狩って育てる日々で平和そのものだった。
ズエイは納品の際に問題の全てをショークに頼んで消し去ってもらっていた。
「申し訳ございません。ハッピーホープに駐在している兵達に一筆お願いをする事は可能でしょうか?」
ズエイは欲望の島では新参に位置していて兵達に支払う上納金も多く、古参の連中に攻撃を受けた時も兵達が買収されると勝ち目がない事を説明して「万一の時はクオー・ジンが島を離れてしまいます」と告げるとショークはやれやれと言いながら書簡を用意してくれた。
これはゲーン探索団はショークの仕事をしているから弊害にならないようにさせるもので、ズエイはこの書簡をハッピーホープの兵士に渡す事で今や無敵の人となっていた。
「本当、クオー・ジンのもたらした利益は計り知れないな」
そう言って笑ってしまう。
さらにサディストサディ宛の書簡には前線基地の兵士達はとにかくゲーン探索団…マーブルデーモンとなったクオーを頼りにしろと指示が出ていて今までなら攻め込ませなかった場面でもクオーの好きにさせた。
結果は上々で皆喜ぶ中、今回はダムレイとハイクイも義勇兵に参加していてダムレイだけは「なんでクオーが居ても帝国の奴らは危険地帯で保育士を使ってんだ?」と言った。
危険地帯で戦う方のが早く成長するが危険は伴うし、今となってはクオーも出没する。
リスクしかないと思えていた。
これにソーリックが「噂では帝国が一大攻勢に出る為に軍備増強をはかっていると言う話だよ」と飲み物を持ってきながら説明をする。
「一大攻勢?」
「軍備増強?」
「詳しくお願いします!」
「うん。クオー氏の戦果は物凄いけど一度に狩れても一個小隊だからね。50人を用意して狩られるのが8人とかなら40のカケラは育つからそれを本土に送るって算段さ」
この説明に赤く光るクオーは「おのれ帝国め!」と言うとクオーはとんでもない作戦に出た。
最早作戦とは呼べず、ハイクイは笑いながら「いいねそれ。旦那に特別ボーナスを頼もうよ」と言い、ダムレイは「バカヤロウ、身体が幾つあっても足りないぞ?」と言う。
ソーリックは立場的に「隊長に確認を取ります」と言ったがサディは「当然認める」というだけで止める事はあり得ない。
結局は進軍が許されたクオーは嬉々として攻め込む事になる。
「ダムレイ!私の背後に!私とハイクイには新たなカケラは無いが今の君にはこの前の力場で手に入れた蜘蛛の意志がある!是非ともそれを育ててくれたまえ!」
蜘蛛の意志はBランクのカケラでダムレイのような指示を出す人間に最適で一定範囲の状況が手に取るようにわかり瞬時に仲間に声を届ける事が出来る司令塔になる為の能力だった。
これはズエイからは「買い取る気はない。お前が育ててお前が使え」と言われたダムレイがサッサと育てる為に前線基地に持ち込んでいた。
「育てるってお前!乱戦になったらいらねえだろうが!」
「あはは、ダムレイが必死だ」
「笑うなハク!」
「あはは」
「笑うなクオー!」
「済まない。楽しくてね。では思い切り行かせてもらおう」
クオーは正面から帝国の前線基地に乗り込んでいった。
クオーの作戦は前線基地を壊滅させるとパワーバランスが崩れてしまうので半壊で我慢をするというものだった。
見張りをしていた帝国兵は青くなる。
本来なら見張り仕事は休憩に等しい。来ても発情期なんかの魔物達が暴走して来るくらいで指示を出して保育士がいれば保育士に任せるし、いなくてもカケラ持ちの兵士たちで倒していた。
だが走ってきたのはマーブルデーモンで「破壊する!この破壊者が心ゆくまで破壊する!」と叫んでいた。
クラクラした帝国兵は慌てて警笛を鳴らす。
三度の警笛は敵襲。
慌てて準備を始めるが即座に外壁は砂の壁のように粉々に砕け散り「クオー!兵士が出てくる場所がある。あの建物を破壊しよう」とハイクイが指示を出す。
クオーは弓兵に恐る事なく前進していき矢は全て魔神の身体に阻まれて話にならない。
そのまま肉薄距離になると一気に鉄塊の一撃で兵士は肉塊へと変わる。
ハイクイは器用に屋根に乗って扉から出てくる帝国兵を細切れに変えたり「多分俺の風神の乱気流なら出来る」と言って窓から手を入れて部屋中に風刃を飛ばしてしまう。
そしてきっちり基地を半壊させると食糧庫から小麦を奪って帰って行った。
帰り道、ダムレイは文句たらたらで「…殺した兵士の証明が出来ねえから金にならねえ。しかもお前たち勝手に動いていうこと聞かねえ」と怒っている。
だが金の部分は偵察が半壊した基地を確認してきて報酬はキチンと支払われることとなった。
当然ズエイは「勿論報酬は払う。良くやってくれた」と言って全員に一律で金を渡しておいた。
そんな生活がある程度続き、結局10人全員がジン家に行き、クオーが島から出るまで島暮らしを続けると言い出した頃、欲望の島には最大の危機が訪れていた。
マーブルデーモンの活躍で疲弊した帝国軍がハッピーホープを滅ぼすべく間者を使い新型麻薬の「蟻地獄」を生み出して蔓延させてきた。
これにはズエイも頭を抱えることになるし最後の希望も存続の危機に追いやられていた。
ズエイの方は客が媚薬を持ち込んで愉しむ事をハッピーホープとして許していたがまさか持ち込まれたものが蟻地獄で女が薬物中毒になり正常な判断が出来なくなり、強烈な副作用で子も成せなくなるとは思っていなかった。
これはズエイだけではなく全ての経営者たちが頭を抱え、飲み屋での薬物の販売を全て禁止してみたが野良での販売が横行して店を一時的に閉めるしか無くなった。
このままではハッピーホープがダメになると思い、経営者たちはシーカンを使い、最後の希望とハッピーホープの全てを監視しようとしたところでシーカンがレギオンの所の若いのに殺されてしまった。
帝国は本気で最後の希望を潰そうとしていて蟻地獄の中毒者に情報と交換に蟻地獄を渡す事でシーカンの事を知っていた。
たった一錠の蟻地獄の為にシーカンは殺された。
蟻地獄を持つ者、使用者はこうなると言う見せしめの為にレギオンの若いやつはこれでもかと罰を与えてから殺された。
新たなシーカンはすぐに見つかるがシーカンが受け継ぐカケラ、視覚神の目は慣れるまでに時間を要するカケラで新たなシーカンは仕事をしきれずに居て、その間にハッピーホープはどんどん疲弊して行った。
ゲーン探索団はまだ被害は無かった。
あるとすればクオーがやりすぎて帝国の怒りを買ったからだとクレームを入れてくる連中がいるくらいだったがクオーは依頼に従っただけで罪はないし、そんな場合では無い。
やっかみは続かずにすぐに消えた。
シーカンだけではなくカイと兵士も参加をしてとにかく水場の部分だけは警備を強化した。
仮に水に蟻地獄を入れられたら最後の希望は終わってしまう。
それは食事に気をつけているゲーン探索団も変わらずに水汲みは2人一組になって行くようにしていた。
治安は更に悪化した。
商売にならないからと野良の魔物が最後の希望まで雪崩れ込んでくる事もあれば飼い主に捨てられた子供達が後ろ盾もなく飢え死にしていき、生きる為に略奪が始まる。
クオーは水汲みに行く若い2人のインシンとクラトーンに「気をつけるんだよ。水は放棄しても構わないから何かあったら逃げ帰るんだ」と指示を出す。
5人の子供たちもまだマシな生活が送れるのはクオーのお陰だと知っているのでクオーの言う事はキチンと聞く。
この日、クオーは着いて行かなかった事を心底後悔した。
一週間後、クラトーンがインシンを殺しかけて逃亡をした。
クラトーンは蟻地獄にハマっていた。
虫の息のインシンが全てを語った。
あの日、クラトーンと水汲みに行った時、レギオンの連中に紹介された男から蟻地獄を渡されていた。
インシンは拒絶をしたが「いいから、これは友達の証だと思ってくれ」と持たされる。
そしてクラトーンは兄貴風を吹かせてインシンから蟻地獄を奪って独り占めをした。
立て続けに蟻地獄を使ったまだ子供のクラトーンは一瞬で重度の中毒者になる。
そして売人から「育ち切った神のカケラと交換してあげるよ」と言われてゲーン探索団に置いてあったダムレイの大蛇の束縛に手を出そうとした所をインシンに止められた。
インシンから「ダメだよクラトーン!団長達に言うよ!」と言われ逆上してクラトーンはCランクの風龍の吐息を使いインシンを傷付けて逃亡をした。
「…そんな…あの日…」
愕然とするクオーにインシンは「ごめんなさいクオー。団長。言わなくてごめんなさい。クラトーンは悪くない…全部蟻地獄が悪いんです」と言って息絶えた。
逆上したクオーは手に負えない。
ダムレイが「待てクオー!何とかしてやる!」と言ってズエイを呼ぶ。
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