第29話 葬儀。

コイヌの葬儀は1日かけて盛大に執り行われた。

ジン家には厳粛な礼拝堂も完備されていて、部屋は漆黒で蝋燭の火が熱く感じられる中コイヌの葬儀は始まった。


神父が祈りを捧げてクオーの両親もコイヌの遺髪に向けて手を合わせる。

その遺髪はとても綺麗な箱に入れられていた。


「コイヌ。遅くなったね。ここが私の生まれ育ったジン家だ。皆コイヌの話を聞いて会いたかったと言ってくれたよ。私のような破壊者は二度と父にはなれないから弟のズオーの子としてでも生まれてきてくれたら嬉しく思うよ」

クオーが遺髪に語りかけてハイクイとインニョンも「良かったねコイヌ。コイヌは凄いね。クオーはキチンとコイヌのお父さんだね。あの日クオーを信じて懐いたコイヌは本当凄いや」「コイヌ、私もお姉ちゃんで来られたんだよ。島の皆も来たかったけど今はカケラを育ててるから来られないんだ。クオーがいいよって言ってくれたら今度は皆でお墓参りに来るね」と語りかける。



式の最後に神父がコイヌの事をコイヌ・シータと呼んだ事をハイクイが気にした。


「クオー?シータ?」

「ああ。ズエイ・ゲーンが感謝と投資と言って用意してくれていたんだ。欲望の島で戸籍が無いコイヌは手続きすら無かったからそれを逆手に取って戸籍を作ってすぐに亡くなった事にしていたんだ」


これにはインニョンが心から喜んで「コイヌもシータになれたの!?」と聞き返す。

クオーは「本当だよ」と言ってズエイから貰った戸籍の写しを見せるが「字は読めないよぉ。本当にコイヌの?」とインニョンは聞く。


「本物だよ」と言ったクオーは「こんなものしか贈れずにすまない」と言って遺髪の箱に戸籍の紙も折り畳んでしまう。


コイヌの墓はリユーの横に用意されていた。

墓穴の前でクオーは「父上、母上、ありがとうございます」と当主の父と母に礼を言う。

本来戸籍もない子供、本土からすれば犬猫や獣達と変わらない子供の遺髪をジン家の敷地に埋葬するのは異例中の異例だがジン家の危機を救ったクオーとクオーを奮い立たせた者としてコイヌは理由を得てジン家の敷地に眠る事を許されていた。


「お前の子は私の孫。気にする事はない」

「ご先祖様達も皆迎え入れてくれますよ」


クオーの見ているところで使用人達が墓穴を掘って掘り上がるまで神父とシスターが祈りを捧げる手筈だが、ここでハイクイが「クオー、クオーが掘ってあげれば?コイヌも喜ぶよ」と言う。


クオーは名案だと喜んでハイクイに感謝を告げると大蛇の束縛を変則的に使って一度に人二人分の大穴を開けてしまうと大切そうにコイヌの箱を埋めてしまう。


インニョンはそんな気はしていたがと驚きながら「あの箱高そうだよ!?」と言っていたがクオーは「家族の命より高いものなんて存在しないよ」と笑っていた。




翌日は改めてリユーの墓参りをする。

「リユー、見事にジン家は救われたよ。本当なら2人で凱旋したかったね」

「リユー、風神の乱気流は俺が育てたから安心して」

「リユー、もっと話とかしてみたかったかな。仲良くなれたかな?」


皆で言葉を送った後はズエイと島に帰る最終日を待つだけだった。

折角だからと散策と文字の勉強に時間を使ってみた。

散策ではハイクイはスリに来た子供をひと睨みで黙らせてインニョンは「ダメダメすぎ。勉強代だよ」と言って華麗に掌の骨を折ってから追い返す。

勉強では老メイドが「ふふ。リユー様より熱心で立派ですわ」とハイクイとインニョンを褒める程でハイクイはあっという間に「ハイクイ・シータ」と汚い文字でだが書けるようになって書いた紙を「クオー、お願いなんだけどこの紙を俺にくれないかな?宝物にしたいんだ」と言った。



このまま平和に過ぎると思ったが事件があったのは4日目の夜だった。

やはりジン家の客でもマナーも何もないハイクイ達は異質そのもので、クオーが欲望の島に旅立ってすぐに雇われていたメイドが洗濯室で何度洗っても臭いが取れず洗う度にボロボロになるハイクイとインニョンの服に悪態をつき、そのままハイクイとインニョンの悪口を始めてしまった。


古参達はクオーの穏やかな表情や優しさとは別の破壊者としての恐ろしさも知っているので「やめなさい」と制止するが、ただの優男と思っていた新人メイドは「なんで?私はこの4日間ずっとあの女の子の世話係と洗濯しかしていない。あの子綺麗にしたら見られた顔だけど髪の毛なんて鳥の巣みたいにガビガビだったのよ?浴槽のお湯だって一度で濁ったし奥様が入れるように清掃もしたのよ!」と言う。


そもそもメイド達が新しくなったのはジン家存続の危機に中堅のメイド達が給金が貰える間に辞めて行ってしまった事が原因だった。


周りのメイド達は古参から我先にその場を離れ、同時期に入ったメイド達も先輩方の態度から危険を察して「やめなって。やばそうだよ?あの若様って人はニコニコと穏やかな顔をしてるけど欲望の島で生き抜けるくらいなんだよ?墓穴だって一瞬で深いのを掘ったんだよ」と言うが熱の入ったメイドは「なんで?まだ拾った野良犬の方が綺麗なのよ!それに葬儀って何?訳わかんない」と言った時、新人メイドの背後には爺と呼ばれた老執事と破壊者の顔をしたクオーがいた。


メイド達はクオーをクオーと気付かずに居たほどで「爺、申し開きはあるか?」と口を開くと「申し訳ございません。若様が出立された後の者とは言え若様の御客人に対する態度の悪さには申し開きも救いようもありません」と頭を下げる。


言い訳を始めようとするメイドだったがクオーは全て見ていたと言って、問題のメイドを制止していた2人のメイドを不問にするとインニョンの世話係をした問題のメイドに「私はツミビトになっても今ここで君を八つ裂きにしてしまいたい。ジン家として我が家族を愚弄するものを許したくない」と殺気を隠さずに言い放ち魔神の身体のせいでクオーは赤く光る。


殺気を浴びただけで腰を抜かし死を覚悟するメイドは「助けて」「許して」「ごめんなさい」とうわ言のように言い続けている。


ここに老メイドを呼びに行った古参のメイド達が現れて代表で老メイドがクオーに「若様、若様のお怒りはごもっともで御座います。ですがここでこの者を殺めれば悲しむのはハイクイ様やインニョン様。若様のお話くださったコイヌ様は心優しき方、御葬儀の為に若様がジン家に戻られて人を殺めたとあれば悲しみます」と言うと少しだけ怒気が晴れるクオーだったがそれでもまだ我慢したくないとクオーが言いかけた時にズオーが現れて場を取り成す。

ズオーはキチンとクオーに「兄さん…兄上が僕を未来の当主と言ってくれるのであれば僕が責任を持ってこの者を処刑します」と言うと持ってきていた剣を抜く。クオーは「ズオー・ジン!破壊者は私で十分だ!お前はジン家の誇りを胸に抱いて家長として皆を守るんだ!」と慌てた様子で言う。


ズオーは「ならばここで不問に処して後の事は僕と爺とばあやに任せてください」とハッキリと言うと少しの間の後でクオーは「…わかったよズオー。皆のものも済まなかった」と言って穏やかな顔に戻った。


穏やかな顔になったクオーはもう一度皆一人ひとりに謝ると最後には破壊者の顔に戻って問題のメイドを睨みつけて「命拾いしたな」とだけ言ってその場を去り、メイドは夜中にも関わらずクビになりジン家から放り出された。



翌朝、インニョンはメイドが変わっていてクオーに「昨日のお姉さんが居ないよ?」と聞く。


「うん。昨晩急に故郷のご両親に何かがあったらしくて屋敷を後にしたんだ」

「そうなんだ。サヨナラが言いたかったな」


残念そうなインニョンにクオーが申し訳なさそうに「インニョン、ハイクイ、済まないのだが」と謝り、あのメイドが洋服を綺麗に洗おうとして破いてしまい新しい服をズエイ・ゲーンに頼もうと思うと言うと「もうボロボロになってだったからいいよ」とインニョンは言い、ハイクイは「うん平気。でもさクオー」と言ってインニョンに聞こえないように「服くらいで殺しちゃダメだ。あの女は間違ってないよ。でもありがとうクオー」と言った。


驚いた顔でクオーが「ハイクイ…、君はもしや?」と言うとハイクイは「何の話?とりあえずクオーは優しいから俺達のボロキレでも破ったら怒りそうだから言っただけ」と言った後で「今日はダムレイ達の名前を教えてよ。書いて持って帰りたい」と言って笑った。

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