魔神の身体を育て上げた破壊者。

娘の葬儀を行う破壊者。

第27話 インニョンと聖女の吐息。

クオーがマリア・チェービーを助けて8ヶ月が過ぎた。

その間も力場を経験したが確変は起きずによくてBランクのカケラが手に入るくらいでクオーとリユーは本当に運が良かったのだと痛感することとなる。

クオーは育てる魔神の身体の影響で赤黒く光ることから、ホワイトデーモンの名は光る赤と頭部にある白髪によってマーブルデーモンに変わっていた。



新入り5人は半年経っても甘い部分が抜け切らずにダムレイの許可が出たのはようやく8ヶ月目に入った時だった。


どうしてもゲーン探索団には周りと違ってハングリー精神が足らず、本人達は気をつけていても油断が生まれてしまう。

この日は水汲みに向かったチェーミーが周りの悪意によって水汲みの順番を飛ばされ続けて乱闘騒ぎになる所だった。それは帰りの遅いチェーミーを心配してクオーが迎えに行って発覚する。


周りの子供達はクオーを見て「マーブルだ!逃げろ!」と言い逃げ出していた。

そして戻ったチェーミーは仔細を説明するとダムレイに怒られる事になる。


連帯責任。

怒られる時は必ず5人一緒に怒られる。


「お前達が無事なのはクオーの奴が睨みをきかせているから、ズエイの旦那が居てくれるからだ!」


ダムレイの怒鳴り声にハイクイが「後はダムレイのお陰だよ」と続け、クオーが「それを言えばハイクイだってサンバだって皆が居てくれるから、我々がゲーン探索団だからだよね?」と微笑んでいる。


顔に苛立ちが見えるダムレイを見て笑ったボラヴェンに「ハイクイ達はダムレイに怒られる前にさっさと保育士狩り行ってきなよ」と言われてハイクイとクオーが「前乗りだから急がないけど行こうかクオー」「そうだねハイクイ」と言って玄関に向かうとケーミーが「あのね。多分そろそろ育ち切るから頑張ってきてね」と見送ってくれた。


「ありがとうケーミー」

「ん、ありがとうケーミー。クオーの大蛇の束縛は?」

「うん。それも育ち切るよ」


この言葉にクオーは喜びを隠せず「遂に我が娘の葬儀が執り行える」と言い「行こうハイクイ!皆!行って参る!」とハウスを飛び出していった。


そして戻ってきたクオーとハイクイは見事Aランクのカケラ「魔神の身体」と「風神の乱気流」を育て切っていた。


達成感で笑顔のクオーとは別の笑顔のハイクイは「クオーってば喜び過ぎ。嬉し過ぎて帝国の前線基地の方まで行こうとして大騒ぎだったんだよ。手持ち無沙汰だと辺りの大型魔物も狩るしさ」と言うとクオーも「ハイクイ、一緒に戦ってくれて感謝しているよ」と礼を言う。


「ん、いいよ。仕方ないし育ったからこれでコイヌのお葬式ができるんでしょ?」

「ハイクイ、ありがとう。もし良かったらハイクイも来てくれないかい?あ!勿論皆も是非来てほしい!」


クオーの喜び様にダムレイ達は呆れながら「気持ちは嬉しいけど一緒に行けるのはハクだけだな。俺たちは今新しいカケラを育てているし、チビどもだけにしておけねぇ」と言う。


心底ガッカリした顔のクオーは「…そんな…、申し訳ない」と言いながらインニョンを見て「せめてコイヌの姉であるインニョンには来てもらいたかったのに」と泣きそうな顔をする。


破壊者の顔からしたら想像がつかない顔。


インニョンはそんなクオーに優しい笑顔で「仕方ないよ。ありがとうクオー。私も頑張って魔物を倒して育てるからさ、お墓参りとかいうのに行けるようになったら連れて行ってよ」と言う。


クオーからすれば10近く年の離れたインニョンに気を遣われて申し訳ない中、ある事が気になって「…インニョン?君のカケラも魔物を倒せば育つのかい?」と聞く。


クオーからすれば聖女の吐息は治療のカケラで人を治さないとダメなのかと思っていた。



「うん。効果の通り治す事に使えばより育つんだけど身体に悪いから使えないし、持って居るだけでも少し育つけど魔物を倒しても育つよ」


この言葉に目を輝かせたクオーが「…ならば!ダムレイ!」と言う。


話の流れが読めたハイクイは嬉しそうに笑い、信じられないダムレイは「…マジかよ。まあ明日はゴブリン狩りの予定だったけど…」と返す。


「違う!今から行ってもいいかい!?」

「あ?今から?後3時間で夕飯だぜ?」


ダムレイは日が傾き始めた空を見て呆れるように返すがクオーには関係ない。


「それまでには戻る!」

「まあ…行くってなら止めないがゴブリンじゃ往復1時間で2時間狩ってもインニョンのカケラは育ちきらないぜ?」


ダムレイの話を聞かずに籠を四つ抱えて籠の中にインニョンを入れたクオーはハウスの外に駆け出していく。


「アイツ…大丈夫か?」

「んー…、平気じゃん。毎日あんなだよ。毎日ソーリックって兵士にカケラで敵を探させて走って皆殺しにしてくるんだ。それで兵士達が数え終わると最終日の前に相手の基地まで死体を棄てに行くんだよ」



容易に想像が出来たダムレイが頭を抑えて「大丈夫じゃねぇじゃねぇかよ」と漏らす。


「まあいいんじゃん?クオーって好きにさせると皆が喜ぶ事しかしないよ」

「まあ…仕方ねえか。どうせゴブリンじゃインニョンはすぐには育たねえしな」

この言葉にハイクイが意味深に「ダムレイ?」と呼びかける。


「んだよハク?」

「クオーだよ?」


ニヤリとドヤ顔で笑うハイクイにダムレイが「無理だって」と言って居たがクオーはあり得ない手段に出た。


3時間後にキッチリと最後の希望に戻ったクオーは血まみれ姿で「済まない!食事の前に素材屋行って風呂に入らせてくれないかい!」と言い出し、その横のインニョンはニコニコ笑顔で「多分終わったよダムレイ!ケーミーに見てもらって平気だったら私これでコイヌのお葬式に行ける!」と言っている。


「終わったぁ?嘘だろ?何してきたんだよ」

ダムレイが呆れ混じりに驚く中、四つの籠いっぱいになった魔物の死骸を見に行ったサンバとボラヴェンが言葉を失い、珍しくハイクイが声を上げて笑っている。


「ハク?」

「これ、ゴブリンじゃなくて人喰い鬼だよダムレイ」


「何!?クオー!?お前インニョンに危険な真似をさせたのか!」

怒るダムレイにインニョンが「違うよダムレイ!」と止めに入る。


「何がだよ!傷は!?怪我は?無事か!?」

必死にインニョンの手足を見て怪我は無いかと心配するダムレイにインニョンは何があったかを説明する。


初めにクオーは最大効果を考えて前線基地を目指そうとしたがそれはやりすぎだということでゴブリンではなく効率的な人喰い鬼を倒しに向かう。


いくら人喰い鬼がゴブリンより効率的でもインニョンを鍛える為には単純に弱らせてトドメを刺すだけではゴブリンと大差はない。


なのでクオーは大蛇の束縛を使いこなし人喰い鬼を逃さない様に捕まえて無防備な状態でインニョンに首と心臓に剣を突き立てさせて殺す。

人喰い鬼の巣穴には片道1時間なので作業時間は1時間になってしまうが、その1時間を流れ作業の様に使って人喰い鬼を蹴散らすとインニョンは「終わった気がするよ!」と言い帰ってくる事になる。

ちなみにクオーが血まみれなのは籠に入らないからと人喰い鬼を細かく引きちぎった事が原因だった。

頭を抱えながら「やりやがった…、バカかよ」と漏らすダムレイの横でハイクイが「凄いな。クオーは凄い」と笑っている。



「もう飯だからクオーとインニョンは風呂入れ!サンバ!キロギーとハクとイーウィニャで籠持って素材屋行ってこい」

「いや、重いし悪いよダムレイ」


「うっせーよ!団長命令だ!」


クオーが風呂を出る頃には皆テーブルに着席していた。

そして今回は亀のスープと羊のステーキを持ったズエイが笑顔でやってきて「よう、お疲れさん」と言い、クオーには「クオー・ジン。貴方には本当に驚かされます」と声をかける。


「異例の速さでのAランクを育て上げ、Cランクながら希少価値のつく育てにくさを誇る聖女の吐息を思いもよらない方法で育て切ってしまうとは…。それにまた前線基地ではご活躍をなさってくださり、サディ隊長から御礼のお言葉も賜りましたよ。後は人喰い鬼の素材もありがとうございます」

「いえ、全ては仲間あっての事です。私の無理を許してくれるダムレイ、過酷な仕事に付き合ってくれたハイクイ、そして帰る場所を与えてくれた皆のお陰です。

当初の予定通り私は一度ジン家に戻り娘の葬儀を執り行いたいのです。後は家族からハイクイとインニョンを連れて行きたい」


「ええ、構いませんよ。ハイクイもインニョンもシータの名を与えた身、今は対等な契約の中に居る者、休暇も与えます。今回も前線基地から引き上げてくださったカケラを王都に売りに行きますので同じ船で本土へと行き、また同じ船でコチラへと戻れればと思います」

「ふむ。では船で往復4日、ズエイ氏が王都に向かい日帰りであれば往復6日、全てで10日の時間があると?」

「王都に1日滞在しますので11日になりますね」


「宜しいのですか?」

「構いません」


ズエイは好好爺からボスの顔になると「そう言う事だダムレイ。11日間は任せる。わかってるな?最低限やる事やって後は大人しく問題起こすなって奴だ」とダムレイに指示を出す。


ダムレイは笑いながら「クオーが居なけりゃ静かですよ」と返し、ズエイも「違いない」と言う。言われているクオーはそんな事は気にせずにハイクイとインニョンによろしくと言っている。


こうしてクオーは明日から11日間程欲望の島を離れることとなった。

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