第25話 マリア・チェービー。
事件が起きたのは寝静まった夜中のことだった。
勝ちムードで油断もあったし、ソーリックがクオーとハイクイ担当で警備巡回から離れていて怯え狼の耳を使わなかった為にキャンプが夜襲された。
すぐにクオー達が対応すると攻め込んできた6人は4人が死んで2人が捕虜になる。
問題は王国側にも損害が出ていた事と敵兵に女がいた事だった。
事態の収集に追われた王国側はソーリックの進言もあって監視と尋問にハイクイとクオーが駆り出されることになる。
内容を聞いたハイクイは「俺達ってこんな仕事していいの?」と漏らすとクオーが「ハイクイはもう王国人だからね。一国民として国に尽くす義務はあるよ」と言って説明をする。
人になる事が良いことだけでは無いと気付いたハイクイは「うわ…人間って面倒臭いね」と言って辟易としながら周りを見回すと、焼き討ちされたテントと壊された柵の修理に追われる兵士達が走り回っている。
「俺、あっちがいい」
「ふふ。ダメだよハイクイ。命を預けるものを人に任せるのは良くないから兵の皆は自分達でやるんだ」
「成程、仕方ないや」
捕らえた兵士のテントに向かう途中、遠くのテントから女の絶叫が聞こえてくる。
杭を持ちながら「あーあ。サディストサディの本領発揮か?」と言う兵士を呼び止めて話を聞くとキャンプリーダーはハッピーホープで店の女を壊して出入り禁止を食らっている加虐趣味の持ち主で「情報収集を頑張りました。でも聞き出す前に死なれました」と言う予定で情報を引き出す事はあり得ないと言う話だった。
クオーは怒りに顔を歪めて赤く光ると「王国兵の誇りはないのか?情報収集をする気がない?恥知らずだ」と怒り始める。
「クオー?」
「なんだい?」
「女を痛めつけるのに怒りとかは?」
「無くはないが、女兵士はいくらでもいるから別に甘くする気はないよ。まあ王国兵の一員としてならいいけど性欲を満たすためによからぬ事をするのは良くないね」
クオーとハイクイがテントに入ると木の杭に縛り付けられている老兵が居た。
クオーを見て「ホワイトデーモン…」と呟きそして横のハイクイを見て「ウインドリッパー」と言った。
「それは私のことかな?拷無駄な問はしたくない。私はキチンと話せる相手とは話をしたい」
「…話す事はない」
その間も聞こえてくる女の絶叫に老兵は顔をしかめる。
それを見逃さないハイクイが興味なさそうに木箱に座って「あっちはサディストのキャンプリーダーがお楽しみ中だって」と話しかける。
辛そうな顔をする老兵にクオーが「話を変えよう。彼女は?何者ですか?普通の兵士相手にその顔はしませんよね?ご家族ですか?」と問う。
暫く黙っている老兵だったが、これでもかと聞こえてくる「ギャァァ」という声とハイクイが「あ、女のテントは離れた所だから。それなのによく聞こえるよね」とタイミングよく呟くと暫くして老兵は「彼女は…この希望の島…、王国側に言わせれば欲望の島の領主の娘…マリア・チェービー様だ」と言った。
領主の娘と聞いて驚くクオーが「何故そんな大物が?」と聞けば老兵は素直に「ここ数日…お前達に殺された保育士の中に幼馴染のサンサンが居た。サンサンを含めた亡骸の回収とこれまでに殺された者達の亡骸の回収をしたいとマリア様が進言してきた」と説明をした。
木箱に座ったままのハイクイが「へぇ、それサディストに言っていい?」と聞くと老兵は「頼む!それだけはやめてくれ!」と声を荒げる。
「確かに今現在も責めが続いているのは名も名乗って居ないからだろう。だが名を聞いて引き下がる道理はない。恐らく本土なら捕虜の引き渡しはあっても欲望の島ならそれはない。元々キャンプリーダーは情報を引き出す気すらなく壊し殺す事しか考えていない」
クオーの言葉に真っ青になった老兵は項垂れると「壊される前にマリア様を殺して我らが基地まで送り届けてくれないか」と懇願してきた。
「クオー?」
ハイクイの言葉に困惑した顔で暫く悩むクオー。
その間もマリアの絶叫と老兵の懇願が聞こえてくる。
ハイクイはため息をつくと「クオー、あの声うるさいから何とかしてよ」と言った。
「ハイクイ?」
「殺すのは良いけど何もしてない奴を痛めつけるのは好きじゃないよ」
クオーは一瞬周りを見て老兵に「質問に答えてくれたら善処します。貴方には死んで貰います。それでも頼みますか?」と聞いた。
「な……!何でもする!頼む!」
老兵の縋る声にクオーは頷くとハイクイに紙を取って来させて老兵に耳打ちして何かを書かせた。
書かせた紙を確認したクオーは「最後に一つ聞かせてください」と声をかけると老兵は「何だ?」と聞き返す。
「マリア・チェービーは兵士の格好で来たと言う事は戦闘力は?」
「…希望の島では希望の乙女と呼ばれる実力の持ち主だ」
だからこんな所まできた。
狭い世界の実力者にありがちな失態。
「彼女を殺し、死体を全て送り届けましょう。遺言は?」
「…先程の書簡に書きました。思い残す事は…マリア様を無事にお父上の元に送り届けられない事だけです」
「ご家族は?」
「とうに本土で死にました」
「わかりました。それでは」
クオーは前に出ると目を瞑る老兵の首を持って一気にへし折った。
クオーは老兵の首から手を離すと「ハイクイ、手伝ってくれるね?」と声をかける。
ハイクイは木箱から降りると「うん。うるさいの嫌だし、あのサディストって好きになれないからいいよ」と言う。
この言葉にニヤリと笑ったクオーは「では私は破壊者を演じてみよう」と言って破壊者の顔になってテントを後にした。
魔神の身体を抑え込む事をやめたクオーは赤く光る。
そして怒りに染まった顔をする。
主に怒りはコイヌとジョンダリの事を思い出して怒っているがその気配は悟らせない。
「ハイクイ、袋は私が持つ!すぐに用意をしてくれ!」
「わかった。ソーリックに袋をもらうよ」
ハイクイは駆け寄ってくるソーリックに「あの爺さんがとんでもない計画を立ててたから俺とクオーで止めるよ。計画にクオーがブチギレて危ないからソーリックは手伝ってよ」と話しかける。
クオーと老兵で立てた計画は前線基地を突破して最後の希望に攻め込む住み幼い子供達、未来の保育士を攫うか殺すかして王国に損害を与えると言うもので老兵達は偵察兼可能であれば前線基地に損害を与えるものだった。
「…そ…そんな」と驚くソーリックにハイクイが「クオーは最後の希望にいるゲーン探索団の皆に危険が及んだからブチギレて老兵を殺しちゃった」と説明をする。
「それでどうすれば?」
「作戦を止めるのは俺とクオーでやるよ。ソーリックはキャンプの復興に力を入れてよ。後はキャンプリーダーにはハッピーホープまで下げて万一に備えて防衛して貰いたいんだ。
後はクオーと俺のやりたいのは向こうの戦意を下げてくるからここ数日の死体を頂戴」
ハイクイの説明中だったがクオーはマリア・チェービーのテントへと向かう。
近づく度に大きく聞こえるマリアの絶叫。
そしてテントの前まで来ると下卑たキャンプリーダーの笑い声。
クオーは段々とコイヌとジョンダリを必要とせずに素直な怒りに支配されていく。
何故こんな男が王国兵で自分はなれなかったのか。
そんな怒りに支配されながら「入る!」と言ったクオーの前には信じられない光景が広がっていた。
全裸で両手両足を横に打ち込まれた杭に紐で結ばれて大の字になった全裸の少女はこれでもかと鞭打ちをされていた。
しかも局部や性器を中心に打ち込まれた鞭の痕と拷問用に痛みを増す為の薬品が放つ刺激物の臭い。更に少女が失禁したのだろう。アンモニア臭もしている。
鞭を張り上げた姿で振り返ったキャンプリーダーはクオーを見て言葉を失っていた。
キャンプリーダーの股間は盛り上がっていて性的興奮を覚えていたのだろう。
これだけでクオーの機嫌が悪くなりキャンプリーダーに「情報は?」と詰め寄る。
真っ赤に光る顔と気迫に身じろぎするキャンプリーダーは「ま…まだだ…この女、なかなか根性があってな」と上ずった声で話す。
「…私は情報を引き出した。これから妨害策に出る。時間勝負だ。貴方はすぐにハッピーホープに行ってください」
クオーは力任せにキャンプリーダーをテントの外に放り出すとマリア・チェービーに声をかけた。
「マリア・チェービー、起きるんだ」
暫くして弱々しく目を覚ましたマリアは赤く光るクオーを見て「ホワイトデーモン」と言って睨んだ。
「睨むのは構わない。あの男に殺されるか?」
クオーに問われても答えないマリアに「あの老兵は君を帝国に帰して欲しいと言っていた」と言うと初めて「シマロン…」と言った。
絶叫以外で初めて聞いた声。
それは絶叫でかすれていたが可愛らしい少女のものだった。
「彼は死んだ」
「殺したのですか!」
「君の命と引き換えに差し出した。だから君は従えば命だけは助かる」
クオーの言葉に訝しむマリア。
「君に一つ選ばせよう。ここで死ぬか、生きて帝国に帰るが死ぬかだ」
訳がわからなかったが「ここで死ぬ訳にはいかない」とマリアが言うとクオーは「わかった」と言って前に出てマリアの両腕を握るとそのまま握りつぶした。
あり得ない激痛にマリアは「ギャァァ」と絶叫を上げ、新たに失禁をして気絶をした。
「殺したの?」
「ああ、剣士としてはね。袋はあるかい?」
「うん。さっき細切れにした奴らと入れれば良いよね」
「頼めるかい?」
ハイクイは頭陀袋にマリア・チェービーを入れるとそこには先程細切れにした帝国兵がいてマリアは血まみれになった。
「…顔だけ出さなきゃ死んじゃうか。あの爺さんの願いだから殺さないようにしなきゃ」
クオーは外に出るとソーリックからマリアについて聞かれたので老兵シマロンの死と彼が作戦を漏らした事に絶望して口汚く王国を殺すと言ったことにクオーは怒り殺してしまったと報告する。
「まあ彼女はキャンプリーダーに拷問をされるよりは良かったと思うよ。それで?」
「これから私とハイクイは敵基地まで行ってきて死体を全てぶち撒いて攻め込めば殺すと脅し、作戦が漏れた事を伝えて辞めさせます。仮に攻め込まれても最後の希望は私が何とかしましょう」
「済まない。割り振れる人員が居ないから頼めるかい?」
クオーは「任された」と言ってハイクイと袋を抱えて歩き始めた。
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