第24話 10日間の義勇兵。

早朝、王国の馬車が迎えにくる。

それに乗り込むハイクイとクオー。

見送りに来ていたズエイは「済まないなハイクイ」と言い、クオーに言葉を送ろうとして逆に「王国の一員として仕事をして来ます。ありがとうございますズエイ・ゲーン!」と言われて返事に困ってしまう。


後でダムレイから話を聞いたズエイは案外クオーの足止めは簡単なのではと思ってしまった。



「馬車で半日。途中で魔物が出て来たら俺とクオーで倒そう。今回は乗り合いもなしだからさ」

「わかったよハイクイ。所で乗り合いという事は他の者も来たりするのかい?」


「うん。あんまり居ないけどレギオンの所の奴らとかは報酬が良いからってたまに行ってる。何回か一緒に仕事をしたよ。あ、忘れてたけど今だけは王国兵と同じ位置付けらしいから仲間内でのトラブルは厳禁。喧嘩を売られても買ったらダメだよ」


王国兵と同じ位置付けと聞いて嬉しそうに「…任せてくれよ」と言うクオーにハイクイは呆れながら「クオーって兵士になりたかったの?」と聞く。


「ああ、ジン家は武門に秀でた一族だったからね。だが今は統制を重んじていて私やリユーが戦いに赴いてしまうと周りが私達に合わせて動く事が難しいからと出兵させて貰えなかったんだ」

話を聞きながらハイクイは確かにクオーとリユーの2人ならカケラがなくても部隊の一つくらい壊滅できそうな気がする。


その2人に合わせられる兵士も限られてくるし、兵達にクオーと同じものを求めるのは酷で、逆にクオー達を兵士レベルにしてしまうのは勿体ない。

なんとなく理解をして「そっか。なら今回が良かったらまた来ようよ」と言う。


「ありがたい!是非もないよ!何とお礼を言えばいいか…」

「んー…、お礼はいいよ。ケーミーもイーウィニャもインニョン達も重くなってたからお礼のお返し。皆が重くなったのはクオーが来てからだから俺達こそ感謝してるよ。クオーはもう家族だよね」


「家族…。いいのかい?私のような破壊者が…」

「家族だよ」


「ありがとう。嬉しいよ。必ず皆の役に立ってみせるよ」


クオーはこの言葉の通り獅子奮迅の活躍をした。

前線のキャンプはそこそこの大きさで、クオー達にはハウスに比べたら立派なテントが用意されていた。

到着するなり出撃したいと言い出し、兵士の中に怯え狼の耳と言うカケラを持つ者が居て、周囲の探索が得意な事から保育士の気配を察知するとクオーとハイクイは駆け出していき一気に4人の保育士を肉塊へと変えて持ち帰る。


「クオー、張り切り過ぎ。今日から10日もあるんだからペース配分してよね?」

「済まない。つい嬉しくて3人ほど倒してしまったよ」


「半分こしてくれないと俺のカケラが育たないから頼むよ」

「注意するよ」


こうして始まる保育士狩りは順調に進んでいく。

3日目からは怯え狼の耳を持つソーリックという兵士が帯同して一度に二部隊を壊滅させて戻るなど精力的に活動をしていく。

途中からクオーは「保育士を持ち帰るのが煩わしい」とボヤくようにもなっていた。


だがいくらクオーとハイクイでも一度に倒せる敵の数に限度はあるわけで逃げ出す者を捕まえ損ねることもある。


これまでも何人もの保育士が狩られることはあっても3日で失うには決して少なくない人数に帝国は危機感を募らせる中。逃げ帰った敵保育士はクオーを白髪混じりの魔人と称してホワイトデーモンと呼び、ハイクイを風と共に切り裂く者と称してウインドリッパーと呼んだ。


その話から7日目には保育士狩りをするクオー達を狩る兵達が投入され、これまでのレギオン達ならば保育士を守る兵士達が出てくると、様子見をしたり、保育士を狩りにくくなった理由から早期撤退をするのだがクオーは「ふむ。ソーリック殿、一ついいですか?」と声をかける。


「何かな?」

「この仕事は保育士狩りで、兵士達では報酬にならないのだろうか?」


「…戦うつもりか?」

「出来るなら…、まだ4日ほどありますし…」


ソーリックはキャンプリーダーの元に行きクオーが交渉している旨を伝えるとイヤラシイ痩せ顔と言った感じのリーダーが出てきて「倒せると?」と聞いてくる。


「…帝国兵の練度を知りたくお願いしました」

「成程、偵察というわけか…。兵を倒した功績は我々、報酬は保育士と同額で良ければ認めてやろう」


普通なら悪条件だと返すがクオーは「感謝します」と言ってハイクイと飛び出して行く。


その後ろ姿を見たキャンプリーダーは「あれは戦闘狂。化け物だな」と言って呆れ顔でテントへと戻って行った。


帝国兵も通常であれば護衛を増やし、警戒を強めれば保育士狩り達は居なくなるので油断していたが一直線に攻め込んでくるクオーとハイクイに目を丸くした。


「何だアイツら!?」

「迎撃!迎撃!!」


その姿を見たハイクイは「クオー、なんか慌ててるね」と言い「確かに、攻め込まれる事を想定して居なかったのだね。ザッと12…6ずつだ。よろしく頼むよハイクイ」と言って魔神の身体を纏わせた鉄塊を構える。


ハイクイも「了解。じゃあ俺は退路を塞ぎながら切り刻むから、何かあったらよろしく」と言うと風神の乱気流の力で12人の上を飛んで着地と同時に近くにいた兵士を細切れに変えてしまう。


帝国兵達がハイクイの方を振り向くとクオーが「余所見はいけないな」と言いながら鉄塊を振り抜いて2人の人間を肉塊へと変えてしまった。


退路を塞がれた帝国兵達はなす術なくハイクイとクオーに蹂躙されて瞬く間に殺されていく。



「…終わったねクオー」

「ああ、やはりハイクイは凄いね。私はあんな風に空を飛ぶことはできないよ」


「俺こそあんな2人同時に殴り殺すなんて出来ないよ」

「それはありがとう。じゃあ敵を持って帰ろうかね」


出て行ってすぐに戻ってくるハイクイとクオーの手には頭陀袋に入れた帝国兵達の死体が入っている。キャンプの王国兵達はそれを見て驚きの声を上げ英雄扱いをしていた。


夕食は別々で食べていたがソーリックは話を聞きたいと言ってクオー達のキャンプにやってきた。


「話とは?」

「なんでもいいんだよ。君達の事を知りたくてさ。とりあえずハッピーホープの兵達とは指揮系統が違うから君達の事をよく知らないんだ」


こうして始まる交流でクオーは前線キャンプがカケラを集める為に必要な防衛線だが魔物も出て来て帝国兵に攻め込まれる可能性がゼロではない為に過酷な仕事だという事を聞き、帝国のキャンプも歩いて1時間半の処にある事を聞いた。


「攻め込んで倒す計画はないのですか?」

「それは出来ないんだ。代わりに帝国もできない事を理解しているから攻めてこないんだ」


その理由も簡単で闊歩する魔物達は今のところ帝国兵の方にも攻め込むので何とかなっているが王国が増員できない以上滅ぼしてしまうとすぐに王国も壊滅してしまい、この前線を取り戻す事が大変になってしまうし、万一帝国が前線を押し出してくると領土が減ってしまうので今の状況が最良だと言う話だった。


「成程、よく分かりました。ありがとうございます」

「いえ、あなたは大人なのにこの場にいて王国の事にも詳しいので話が早くて助かります」


ハイクイは話がつまらないのか食べるとサッサと眠っていた。

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