第12話 これからの話。

クオーはダムレイに「待たせたね。世話になったよ」と礼を言う。


呆れながら「いや、殆どクオーのお手柄だろ?」と言うダムレイに「いや、皆の力を借りての勝利だよ。ダムレイのハイクイへの優しさにも心打たれた。この後は撤退行動だったね?」と聞き返す。


「ああ、リユーが終われば帰りを狙う奴をどうにかするだけでいい」

「成程、私は一つ君達に恩返しをしたい」


「恩返し?いらねえって仕事だよ」

「そうは行かない」


クオーはケーミーを呼ぶと「ケーミーは育ちきった神のカケラを見抜けるのかい?」と聞いた。


「うん。でもクオーはいい物を見つけたし、人のお古はクセが強いから使いづらいよ?そもそも複数持ちは命を縮めるだけだしさ」

クオーの質問の意味を探りかねていてケーミーは訝しげにクオーの顔を見る。

クオーの顔は先程までの顔と違う優しいコイヌの父の顔になっていた。


「ありがとう。私の事は後だ。ケーミー、教えてくれるね?」

「いいけど…」


「近くにある育ちきったカケラは全部で幾つだい?」

「…82はあるよ」


「よし、それを全て持って帰る」

クオーはケーミーから場所を聞く前にとりあえずと言ってプラピルーンの火龍の猛炎とソンティンの風神の刃を確保した。


普通ではあり得ない激痛をモノともしないクオーには痛覚が無いのかと思う程だが激痛に顔をしかめながら本当に82のカケラを持つと「ハイクイ、済まないが護衛を頼むよ」と言って歩き出す。


ハイクイは一瞬出遅れたがすぐにクオーの横に並ぶと「クオー?無理しすぎだ。なんで倒れないの?倒れるよ?」と心配をする。

だがクオーは「構わない。倒れたら少し寝かせてもらうよ」と言って歩くことを止めなかった。



ヨタヨタと歩き出したクオーはダムレイ達にリユーを任せて最後の希望に帰るとすぐにズエイ・ゲーンを呼ぶ。


ボラヴェンの力で何があったかを見ていたズエイは思わぬ大金星に笑みを隠せなかった。

ハイクイ達から話を聞いたズエイは「これはこれは、魔神の身体か…。それでソンティンとプラピルーンを撃破…。恐ろしい男だな」と言った。


「ああ、投資に見合う活躍は出来ただろうか?」

「それは勿論。そもそも刷り込み中の激痛すらモノともせずに戦うとは恐ろしい奴だ」


「土産です。私からですが私からではありません」

そう言ってクオーが突き出したのは82の神のカケラだった。


「これは?」

「育ちきったカケラです。ケーミーに見てもらったので82個あります。これで今のゲーン探索団の皆は人になれますね?」


「…まさかあの子供達を人にする為に?」

「はい。私には皆からの厚誼に返せるものがありません。せめて彼らの願いを…シータの名をこれでお願いします」


クオーは言うなり倒れ込む。

倒れたクオーを見た後でハイクイが「ズエイの旦那?」と聞くとズエイは「約束は約束、守りはする。だがお前達もここでサヨナラは出来ねえだろ?クオーとリユーを育てる手伝いをしながら次のガキどもを育ててやりな」と言った。


「うん。わかってる」

「よし、なら後はこのバカに感謝するんだな」


ズエイは信じられないものを見る目でクオーを見ながら言うとハイクイは「うん。そうする」と言ってから「ありがとうクオー」と言いながらクオーを担いで歩いた。




クオーはあり得ない無茶の反動で三日ほど寝込んだ。

ようやく起きたクオーは皆の顔が暗いので心配をしながら何があったかを聞いた。


皆が口を開きにくそうにしているとハイクイが「クオー、落ち着いて聞いて。リユーが死んだよ」と言った。


状況が理解できずひきつった顔で「何?リユーが?なんの冗談だい?」と聞き返すクオーにダムレイが「冗談じゃねえ。リユーのバカは俺たちの言葉を信じずに死んだ。そのカケラ…風神の乱気流に殺されたよ」と言ってテーブルに置かれたカケラを指さした。


クオーは未だに信じられずに周りを見回して「では亡骸はどこにあるんだい?」と聞くとダムレイが「死体はない。カケラに食われたんだ」と言ってため息をついた。



まだリユーの死の実感のないクオーは必死になって話を聞いて整理していく。


あの日、刷り込みの終わったリユーは風神の乱気流を手にしていた。


ソンティンの上位互換だったカケラにより黒豹の脚には及ばないが高速機動を手にし、風の刃を放てるようになり帰りを狙った連中をコレでもかと斬り殺していた。


「これでジン家は救われた!」

そう喜んだリユーが根城に戻るとボラヴェンやハイクイ達も湧き上がっていた。


それはクオーがもたらしてくれたカケラ達によって探索団全員が人になってもカケラが余る程であったからだった。



ここでダムレイが「それがリユーには良くなかった」と言う。


「ダムレイ?」

「リユーは直ぐにでも帰ろうとしたがズエイの旦那に止められた」


「何故?」

「俺達は保育士だ。カケラを育てる必要がある。いや、手に入れた以上は育てなければならない」


「それは?」

「カケラってさ、面倒くさいんだよ」


「ハイクイ?」

「俺達は育てる事を止める事も出来るけど、リユーとクオーはダメなんだ。その事実を受け入れないリユーは最後の希望を出てハッピーホープに入ろうとした」


ハイクイの言葉に続くようにダムレイが「俺達は必死に止めたがリユーは言う事を聞かずに街を超えて…」と言い、ボラヴェンが「カケラに食われたんだ」と言った。


リユーはダムレイ達の言葉を信じなかった。

Aランクを手に入れた事で自身を手放したくなくなった、欲が出たと邪推したリユーが街を出た瞬間に手に持っていた風神の乱気流は光を放ちクオーを飲み込んでしまった。

その説明にクオーは風神の乱気流と自身の魔神の身体を見て「何?何故私とリユーはダメなのだい?」と質問をした。


「カケラを育てるのを止める時は等価交換か上位交換しか認められない」

「ダムレイは今Bランクの大蛇の束縛を育てているから仮に大蛇の束縛を放棄してもすぐにソンティンの風神の刃を持てばペナルティは無い。そして風神の刃は育ちきっているから即時手放せる。俺はそれにCランクの山猿の毛だけどもう育ちきっているから問題はないんだ」



「私とリユーはAランクだから…」

「手放せられない。育て切るしか無い」


「リユーは待てず、そしてダムレイ達の言葉に耳を貸さなかったのだね?」と言ってどこか諦めのついた顔をするクオー。


ハイクイが申し訳なさそうに「うん。効率よく育てようと提案したズエイの旦那の言葉を無視して街を飛び出して…」と言うとクオーは「そうか。弟が迷惑をかけたね」と言った。


「弟?」

「言ってなかったかな?リユー・ジンは私の弟。兄として感謝と謝罪をさせてください」


これには皆が目を丸くしてクオーを見た。

クオーが起きた事でズエイ・ゲーンがやってきて「リユーのことを聞いたな?」と言った。


「ええ。弟がご迷惑をおかけしました」

「弟?兄なのか?」


「ええ。言いませんでしたか?」

「…まあいい、この先の話なんかをしたい。ゲーン探索団を全とっかえされるのは困るから徐々に交換だ。女児はインニョンの聖女の囁きは育てさせたいから一年はかかる」


そう言って話された内容はクオーにとっては有り難くもあり、申し訳なくもあり不服な部分もある内容だった。


「ジン家には私からBランクを3つ届けてやる。これはコイツら全員に配っても余った分だから気にするな」

ズエイの言葉にクオーは「感謝します。それと手紙を書かせて貰えないでしょうか?」と言う。


これには全員が「え!クオーって字が書けるの!?」「凄い!読めるの!?」「俺、字を、知りたい」「…教えてって言っていい?」と口々に驚きを口にする。

ズエイが面白そうに「ふふ、この最後の希望では識字率はゼロに等しいから一気に認められたな」とクオーに言う。クオーは子供達を見て「…そうなのですね」と返事をした。



クオーは「皆で覚えよう」と言うとハイクイが「俺も知りたい。でもクオーは手紙に何を書くの?リユーの事?」と聞く。


「ああ、リユーがどのように散ったか、私は魔神の身体を育てる為に帰れないこと、家督は弟のズオー・ジンに頼みたい事、いずれ帰れたらコイヌの埋葬をしたい話、後はカケラを持っていくズエイ・ゲーンに可能な限りの御礼をするように書くんだ」

ズエイが「ズオー?」と聞き返すとクオーは「自慢の弟です。腕力や武力では我らにほんの少し及びませんが家長として人を纏める力には秀でた弟なので安心してジン家を任せらます」と説明をした。


「クオーは帰らないの?」

「一度は帰りたいがコイヌの葬儀を済ませたら戻ってきて皆がシータの名を得て本土に帰るのを見届けたい」


クオーの言葉にハイクイが嬉しそうに「…それ、殆ど終わってるよ」と言って笑う。


「え?」と聞き返すクオーを見て、ズエイは笑いながら「私は仕事が早いんだ。既にカケラの選別は行っていて全員がシータの名を得ている。ただどうしても育て切って貰いたいカケラなんかは残してあるから全員がクオーの魔神の身体が育ち切るまではゲーン探索団だ」と言った。


「…本当ですか?」

「見るか?早速戸籍を作った。後はこれをジン家に行く途中に役所に提出すれば終わりだ」


確かに出された紙にはハイクイ達の名前、名前の後にはシータの名。そして血判がされていて本人確認も済ませられていた。

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