第11話 覚醒。

サンバの防護壁を飛び出したクオーの目の前は一進一退。

ゲーン探索団は皆傷だらけだが手足の欠損も無ければ死んだものもいない。


今はダムレイ達が遠くで戦っている。

クオーは防護壁そばでダムレイ達を見守りながら自分の持ち場を守っている少女、ケーミーに「ケーミー、済まない。状況と敵のカケラを教えてくれないかい?」と声をかける。


「クオー?終わったの?」

「いや、まだだ。今も刷り込みをしている」


この言葉に目を丸くして「痛くないの!?」と聞くケーミーにクオーは赤く光る左手を見せながら「痛むさ」と言うと「だがゲーン探索団の皆が大変なのを見てられない。痛みなんて我慢すればいい」と続けた。


「…凄い。あらかたの敵は大物を諦めてせめて良いものをってそこら辺に取りに行ったから今は連合決死探索団の連中が攻め込んできたの。弱い奴らはダムレイとマリクシの連携で潰して残りはハイクイのお兄さんって言われているプラピルーンとソンティン。

プラピルーンは火使い。カケラは火龍の猛炎、威力はキロギーの上位版って思って。

ソンティンは風使い。カケラは風神の刃、遠くまでは飛ばないけど近距離だと剣を切り裂く威力だよ」


クオーは「そこまで教えてもらえるとは心強い。ケーミーは博識だね」と感謝を告げるとケーミーは少し照れ臭そうに「ううん。私のカケラ、覗き眼鏡の悪魔が教えてくれるの」と言う。クオーは照れるケーミーに兄のような顔で「では私のカケラも目覚めたら名を見てくれるかな?」と聞く。


「うん。やるからね。でも戦えるの?」

「やれる。私は帰ってコイヌの髪を埋葬するからね。行ってくる。皆を頼むね」


クオーが歩みを進めると皆がクオーに気づきカケラが目覚めたのなら撤退出来ると思ったが未だに刷り込み中だと聞くと痛みを抑え込む精神力に言葉を失う。


「なんか出て来たよ兄貴」

「新入りって奴だな。あの武器はカケラか?」


この言葉に気付いたダムレイがクオーを見て「バカ!?何やってんだよ!終わったなら撤退するぞ!」と声を張るが「まだだ。ダムレイの意志は私が受け取った!ハイクイには殺させない。私が殺す」と言って鉄塊を構えた。


この言葉にソンティンが「何アイツ?刷り込み中なの?」と言い、プラピルーンが「確かに左手が光ってるな。あれでよく動ける。ここに来る前に捨てて来たうちの新入りなんて泣き言ばかりでダサいよな」と言って呆れ笑いをした。


見た目は確かにハイクイにも似ている部分もある。

右の男の目尻なんかはハイクイに似ているし、左の男は耳の形がハイクイに似ている。


「君たちに恨みはない。だが邪魔をするのなら殺す」

クオーは鉄塊を右手で構えると振り回して右の男を狙う。

左の男が「ソンティン!」と言うと右の男は「ダムレイを近づかせるなプラピルーン!」と言った。


「名前を知れたよ。感謝する!風使いだな…問題ない!」

クオーは鉄塊を振るうとソンティンが右手をかざす。

起きた風によって鉄塊の端が綺麗に切断されるがクオーは恐れることなく一歩踏み出してソンティンを鉄塊で殴り飛ばした。


ソンティンは「ガハッ!?」と言ったままきりもみして飛んでいく。


突き出していたことで右手を折られたソンティンは激痛に苦しみながらのたうち回り悶えている。

プラピルーンは後ろを振り返り「ソンティン!?」と名を呼ぶがソンティンは苦しむだけで返事はない。


「マジかよ…」「ヤバ…刷り込み中なのに」と口にするダムレイとマリクシにクオーは「ダムレイ、済まない。痛みを抑え込みながらの片手では殺しきれなかった」


一撃で殺す気だったクオーに若干引きながら「お…おう、マリクシ!」と指示を出すとマリクシが「わかった!」と言ってソンティンにトドメを刺す為に駆け出したがプラピルーンが巨大な火の玉を放つ。

マリクシだから回避できたが他の者ではかわしきれずに死ぬものも出てくる。



「…ダムレイ、マリクシ、今度は私がプラピルーンを倒す。ソンティンを頼む」

「…いや、無理だろ?ソンティンは動けないから3人がかりなら?」


ダムレイの提案にクオーは首を横に振って「マリクシは速さが売りで私ではまだ連携が出来ない。ダムレイと戦うべきだ。ソンティンを頼む」と言った。


言っていることは間違いではない。


ダムレイがマリクシの方に向かうのを見てクオーがプラピルーンに向かう。

プラピルーンはダムレイを迎撃したいがその隙はない。あのクオーの攻撃力を見ると捨て置いていいモノではなかった。


舌打ちをしたプラピルーンはクオーに向けて火球を放つ。

直撃コースで回避する気もないクオーを見て鼻で笑ったプラピルーンだったが次の瞬間には目を丸くした。

火龍の猛炎で生み出した火球はそこら辺の炎とは一線を画す。プラピルーンに言わせれば必死の炎なのにクオーはそれを打ち返した。


打ち返した方向にはダムレイとマリクシが居て「ダムレイ!ヤバい!」「はぁ!?ふざけんな!」と言いながらかわして着弾点が轟々と燃えている。

火のそばのソンティンは痛い熱いと呻いている。


一瞬気を取られたプラピルーンだったがクオーは止まらずに向かってくる事で背筋が凍る。

背筋の凍ったプラピルーンだったが直ぐに余裕の表情になると「その武器はもう壊れる!次は打ち返せねえよ!」と言いながら再度火球を放つがクオーは気にする素振りもなく打ち返す。


プラピルーンは飛んできた火球を相殺しながら改めてクオーという男の危険性を認識したが同時に勝利を確信した。


鉄塊は壊れて芯棒が剥き出しになっていた。


「お前にはもう打ち返せねえよ!残念だったな!ハイクイでも呼ぶか!?まあ役に立たない顔をしてたから捨てた弟が役に立つワケもねぇ!」

「鉄塊の有無は関係ない。それよりも我が仲間を愚弄したな?その口を破壊する」


失速せずに真っ直ぐに芯棒を構えて向かってくるクオー。

鉄塊と違い質量こそないがあの剛腕から繰り出される鉄棒による攻撃を喰らえばタダでは済まない。

つい回避を選びたくなるが気を取り直して火球を放った。


クオーは回避を選んでいた。

芯棒を破壊するわけにはいかず二歩進んでは一歩下がる状況に苛立ち始めている。


プラピルーンは牽制出来ていることに気をよくして距離をとりながらクオーが力尽きるのを待っていた。回避の分だけクオーの方が消耗が激しい。自身は手の向きを変えて火球を放てば痛くも痒くもない。

さらにクオーは刷り込み中で満足な力を発揮できずにいる。


「ザマアねえ!ハイクイに助けでも求めろっての!アイツはゲーン探索団では山鬼なんて呼ばれて調子付いてる山猿だから呼んでも意味ねえけどな!」

ハイクイをバカにするプラピルーンにキレたクオーは「また私の仲間を愚弄した。お前は許さない」と言って突進する。


「バカ!突っ込むな!」とダムレイの言葉が聞こえてくる。

ソンティンは近付くものに風の刃を放って近付かせないようにしている為にダムレイとマリクシはトドメをさせずにいた。



「我が左手の赤い光よ。いい加減力を貸してほしい。私は仲間を愚弄した敵に一撃を入れたい。口惜しいが今の私は無力!鉄塊が無くなりあの猛火を防ぐ手立てがない!頼む!」


左腕に呟きながら駆けると急に身体を駆け巡っていた激痛が消えた。


そして左手に力強い何かが生まれた時、「これは攻撃の力だと」「火球に負けない力だと」クオーは確信した。



防護壁の横でクオー達の戦いを見ていたハイクイは「ケーミー、クオーのカケラは何?目覚めたよね?」と声をかける。ケーミーが「うん。ハイクイ待っててね……!?」と言って驚きの表情をする。


「ケーミー?」

「初めて見た。魔神の身体…。能力は身体を補うカケラだって…」


「何それ?Aランク?」

「だと思うよ」

「凄いや」と喜んだハイクイは「ケーミー、俺が警戒するから撤収準備を始めよう」と言う。


「でもリユーは?」

「クオーかサンバに抱えてもらおう。あの時間…リユーも大物だから早く最後の希望に帰ってズエイの旦那に守ってもらわないと」

ケーミーは「了解。インニョン!手伝って」と言って防御壁で警戒をしているインニョンに指示を出しに行く。


その間もハイクイはクオーを見ていた。


「クオー、クオーには聞こえているよね。魔神の身体が使い方を教えてくれるから力を振るうんだ」


ハイクイの見ている景色には火球が間近に迫ったクオーが居たがなんの心配もなく傍観していた。



「わかる。この力は身体を補うモノ。欠損ではない。強化だ」

クオーはそのまま「この芯棒はわが一部!覆え!」と言うと芯棒を中心に真っ赤な光が先程まで纏わりついていた鉄塊のようになる。


「光!?」

プラピルーンが驚いた時には時すでに遅く、火球は打ち返されることもなく光によって霧散した。


そのまま前に出たクオーの両腕から放たれた本気の一撃はプラピルーンを一瞬で肉塊に変えてソンティンの元に打ち飛ばした。


クオーは「ふぅぅぅぅぅっ」と息を吐くと「まず1人。ダムレイ!マリクシ!待たせたね!」と言った。


「…マジかよ」

「すげぇ」


ソンティンは痛みと熱さに悶えていたが横に転がった兄の死体を見て慌てた。

あの兄に勝てる奴が居るとは思っていなかった。


ゲーン探索団はカケラをカネに変えて本土に逃げる腰抜けで本当に強いのは自分達だと思っていたが今眼前で兄は恨めしそうな顔で死んでいる。


「来るな!来るな!!」

叫びながら風の刃を放ち近くの物を切り刻むソンティンだったがクオーは何も気にせずに前進をすると塊を振り上げた。


ソンティンは必死になって過去最高の風を吹かせたが塊は切断される事はなかった。

塊は傷一つつかずに一気にソンティンに向かって振り下ろされてソンティンを肉塊へと変えていた。

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