第10話 刷り込み。
マリクシは陣地の確保に注力して敵を寄せ付けないように気をつけながらリユーに「リユー!お前を呼ぶカケラの声を聞け!見つけ出せ!産まれたてのカケラはお前を選んでお前にだけ姿を見せる!」と声をかける。
リユーは瞬く間に5人の敵を斬り殺すと「声!?」と聞き返す。
そして声ではないが「ヒィィィ」と言う音が聞こえてきたので音の方に向かうと地面が光っていた。
「この光か!?」
「生まれたてはお前にしか見えていない!手を出して刷り込みを行うんだ!」
リユーは光に駆けていき剣を持たない左手を翳すと、光が目の前を覆い左手に激痛が走る。
突然の痛みに「ぐおぉぉ!?」と唸るリユーにマリクシが「カケラがお前のものになろうとしてる!耐えて力を示せ!」と声をかける。
何も聞いていなかったリユーは驚きはしたがジン家の人間として故郷で帰りを待つ家族の為に痛みに堪えると次第に痛みは引いて目の前の光も晴れてくる。
「あの苦しみ方!きっと上ものだ!」
「邪魔して奪うぞ!」
「おら新入り!ついて来て奪うんだよ!」
そんな声で3人の子供と1人の大人の男が走ってくる。
マリクシは迎撃を試みるが間に合わない。
だがリユーは未だカケラに刷り込みを行っていて動けない。
なんとかしなければと思った時「お待たせ」と言って走って来たハイクイが右手をかざすと大蛇の束縛で先頭を走る男は転がり、背後の子供達がそれをかわせずに転がった所で追いついたクオーが全員まとめて叩き潰した。
飛び散る肉片をものともせずハイクイが「クオー、ナイス」と声をかけるとクオーも「全てはこの鉄塊とハイクイの連携の賜物。私こそ感謝をする」と言った。
「でもその鉄塊、ここに来るまでも使ったからかそろそろダメじゃない?」
「致し方ない。私の攻撃にここまでついて来てくれて感謝をしている。芯棒のみになった時は壊す訳にはいかないからこの拳と脚で敵を破壊してみせる」
「いや、リユーが終わったらクオーの番だよ。2人同時に刷り込みを行うにはダムレイ達が必要だけど1人ずつなら俺とマリクシともう1人で守るからやって」
ハイクイの指示に「…了解だ」と答えたクオーは遠くを見て「音が聞こえていて一際鮮やかな赤い光が見える。それが私のカケラだね?」と確認をするとハイクイが表情を変えて「赤!?色付き!?」と呟いてクオーに「ここは俺がなんとかする!行くんだよクオー!」と言った。
「ハイクイ!?」
「大物だ!すぐに行かないと機嫌を損ねてよそのやつのところに行く!マリクシ!話が変わる!守るぞ!!」
「マジか!?…やるしかないな。行けクオー!」
クオーは言われるがまま赤い光に向かってリユーがやるように手を翳す。
激しい痛みと赤い光に視界を奪われているが声は聞こえてくる。
「後で余ったのはやるから諦めて待ってろっての!」
「山鬼!ここで殺して名を上げてやる!」
「ハイクイ!一気に動く!そこで足止め!」
「わかった!マリクシ!頼んだ!」
何が起きているのかわからないクオーだったが、あっという間に迫ってきた様々な探索団達、今ハイクイ達は20人からの敵に囲まれている。
ハイクイとマリクシは時間稼ぎを優先していて殺さずに迎撃を繰り返している。
途中、タイミングが良いとハイクイが仕掛けた大蛇の束縛で足止めをした奴を含めてマリクシが黒豹の脚で駆け抜けながら首を狙って斬り殺していく。
クオーはまだ動けない事を歯痒く思いながら自分より先に刷り込みを行ったリユーが動ける事を期待している。
「1秒が長い!」と苛立つクオー。
その間も「敵が多い!?諦めろっての!」と言うマリクシの声に剣が当たる音。「早く来てくれダムレイ!そろそろ攻撃主体のカケラ持ちが来る!」と声を張るハイクイの声が聞こえてくる。
そして何秒過ぎただろう。苛立つクオーの耳に「待たせたな!マリクシ!ハク!」と言うダムレイの声が聞こえてきた。
ハイクイが安堵の声で「危なかった…サンバ!頼むよ!」と言うとサンバが「任せろ、大亀の甲羅、使う」と言う。
クオーとリユーには見えていないがようやく追いついたダムレイ達はサンバが神のカケラで防護壁を張り敵を弾いた。
「よーし、俺たちで相手するからハクとマリクシは少し休め。で、なんでリユーはまだしもクオーまで刷り込み始めてるんだ?」
「色付き、クオーは赤い光が見えたって」
ハイクイの説明に「マジかよ…、引き当てやがったのか」と驚くダムレイ。
「うん。だからそっぽ向かれる前に行かせたんだ」
「あんがとよ。ハク、マリクシ」
ここでマリクシが「でも気になるんだダムレイ」と言う。
「どうしたマリクシ?」
「リユーが長すぎる。まるで大物を引き当てた時みたいなんだ。でもクオーが色付きだからまさかね…」
「確変か?くそっ…タイミングが悪ぃ。諦めのいい奴らはもう近くのカケラで満足しやがったのに、諦めの悪い奴はまだウチを狙ってやがる」
防護壁の中でそんな会話をしていると外からはインニョンの「ダムレイ!ごめん出て!諦めが悪いのの中にヤバいのがいる!」と言う声とキロギーの「プラピルーンとソンティンがいるよ!」と言う声が聞こえてくる。
「くそっ、1番会いたくない奴かよ!今行く!サンバ!後どのくらい耐えられる?」
「プラピルーンの、攻撃で、終わる。再展開、5…完全なのは、10分」
このやり取りにハイクイが「ダムレイ、俺が行く」と言うがすぐに「バカ!ハクは待ってろ!俺たちが止める!」とダムレイが返す。
聞いたこともないダムレイの必死な声。
いい加減待ちきれないクオーが「…ダ…ダムレイ……敵は…何者だ…」と声をかけた。
「はぁ!?クオー?お前!?刷り込み中は動くと激痛が走るんだぞ!?声すら痛いだろ!?痛くないのか!?」
震えながらも「痛み…くらい……力で…抑え込む」と言うクオーを見てハイクイは「凄いや」と言った後で「クオー、敵は俺の兄貴とか呼ばれる奴ら」と言った。
クオーが驚くとダムレイが「…だからハクには行かせられない。いくらこんなクズな場所でも兄弟で殺し合うなんてさせたくねえ。俺が出る」と言って剣を持った。
「…ダムレイ…やれる…のかい?」
「やるしかねえ」
この言葉にクオーは「…わかった」と言った。
「ああ、大人しくハクと待ってろ。マリクシ、悪い、牽制してくれ。殲滅の必要はねえ。リユーとクオーが終わり次第撤退するぞ!」
青い顔で頷いてナイフを構えるマリクシがダムレイと前に向かうとハイクイが「ダムレイ!」と呼んで思い直させようとする。
ダムレイは優しく「いいからハクはクオーを見とけって」と言うとマリクシを連れてサンバの壁を出て戦いに行く。
ハイクイはダムレイの配下として言いつけを守る。
それは次にリーダーになる立場として周りに見せつける必要がある。
悔しそうなハイクイにクオーが「ハイクイ…、兄達…とは?」と声をかけた。
ハイクイが不機嫌そうに「俺には知らない奴だよ。ダムレイは俺より四つ上だからソンティンと同い年。ゲーン探索団に昔いた兄貴分達から聞いたのは、俺達は同じ女から別の父親の種で生まれて来た。女は俺を産んで最後の希望に棄てて本土に帰ったってさ」と説明をする。
「だから…」
「だから兄貴なんて言われても実感湧かない。ゲーン探索団の邪魔をするなら殺しに行きたい。でもダムレイは昔から衝突を拒むんだ」
不服一色のハイクイの声。
壁の向こうからはダムレイの「帰れって!」と言う声と剣の音が聞こえてきてサンバの壁が無事な事でダムレイが頑張ってくれている事が伝わってくる。
クオーは「そうか…。わかった」と言った。
「わかってくれてよかった。それにしても凄いね。痛いはずなのに」
呆れるように褒めるハイクイの声を聞きながらクオーは「任せろハイクイ!」と言った。
クオーは痛みを堪えながら立ち上がる。
あまりの痛みに血管が浮かび上がる中「ふーふー」と言いながら立ち上がったクオーは「私が出る。ハイクイ、リユーを任せたよ。兄達は私が倒す」と言う。
目を丸くしたハイクイが「クオー?痛くないの?わかったって…?」と言うとクオーは「痛みなんか関係ない!力で抑え込む!わかったのはダムレイの想いだ!私もハイクイに兄殺しはさせない!」と言い切ると震える身体で前に歩き出す。
今も防護壁を張るサンバの横を通る時、クオーは「サンバ!壁を越える!」と声をかける。
サンバは凄い顔で「いいの?痛み、左手、赤い」と言うがクオーは「構わん!鉄塊は右で使える!リユーが目覚めるまでだ!」と言うと壁を越えて外へと出ていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます