第5話 父と娘。
水場は共存の為にも不可侵にされていてどんなに抗争が激化しても水に毒を入れる事は許されていない。
そして裏切り者が出ない為にも水場は最後の希望の端に用意されていて兵士達がそれを見守るテイで街の入り口から見ていた。
同僚からバカにされ苛立つ所に現れたコイヌ。
コイヌがダムレイの所の子供だと言うのはすぐにわかった。
他のガキ共より肌艶はイイ。
そしてニコニコキラキラとしていた。
以前見たコイヌは何か物欲しげに自分達を見てきて睨みつけると怯えて逃げていたがこの日のコイヌはそれが無かった。
それはクオーとの接触で父性欲が満たされていたコイヌはクオーとの繋がりを…クオーの膝の上、腕の中で食べる菓子を楽しみにし、汲んできた水を飲んだクオーが「ありがとうコイヌ。とても旨いよ」と言ってくれる事を夢見て張り切っていた。
ガキ共はビクビクオドオドしてろよ。
そう口走った兵士は水を汲んで走るコイヌの腹を蹴り上げた。
突然の衝撃。
鉄で補強された靴で蹴られたコイヌは血を吐き苦しむ。
近所の連中が「ダムレイ!お前の所のコイヌが兵士に蹴られて死にそうだ!」と言ってくれたからこそ間に合ったがコイヌは腹を抱えてうずくまり血を吐いていた。
ダムレイが慌ててハウスに連れて帰ってズエイに医者を頼む。
そもそも医者は高価で普通の子供達ならこのまま見捨てられる。
だがズエイは投資を怠らない男ですぐに医者を手配した。
医者の見解は助からない。薬で痛みを誤魔化すことしかできないと言った。
その時インニョンが前に出ようとしたのをハイクイが止めて首を横に振る。
「私…コイヌを…助けたいよ」
「ダメだ。インニョンには出来るけどやっちゃダメだ。まだ聖女の囁きは育ってない。今使えばインニョンが死ぬよ」
ダムレイが何がどうなってこうなったのかを調べに外に出ている間に、薬で痛みのまぎれたコイヌが目を覚ましてクオーを探した。
クオーは努めて穏やかに「目覚めたかい?」と声をかける。
コイヌは涙を浮かべながら「クオーお兄さん…抱っこして。お腹…撫でて?」と手を伸ばすとクオーは「ああ、ああ…任せるんだ」と言ってコイヌを抱く。
「ダメ…だよ?毒針…」
「構わない!ジン家にはリユーが居る!刺すなら刺せばいい!」
クオーはコイヌを抱きかかえて腹を撫でると「あたた…かい…よ」と言いながらコイヌは更に泣く。
「死ぬ…の…怖い…よ」
「何言っている!治るだろう?治すといい!今日は私の膝の上で食事をするといい!また菓子を食べるんだ!私は甘い物は好かない!コイヌが食べてくれたら助かる!」
必死に語り掛けるクオーに「本…当…?」と聞き返すコイヌ。クオーは「頼んだぞコイヌ!」と言って目に涙を浮かべて真剣に頼む。
「私…、お父さん…も…お母さんも。知らない…お父さん…クオー…お兄さん」
「私なんかがコイヌの父なのか?嬉しいな!私は女性に好意を抱かれないから是非なってくれ!父も母も皆喜ぶ!」
「……本……と………う?」
「コイヌこそ本当だな?私はもうコイヌが娘に見えてしまっている。今更嫌だと言わないでくれ!」
涙ながらに話すクオーにつられるように「お腹痛いよ」「死にたくないよ」「怖いよ」と泣きじゃくるコイヌ。
「怖くない。父がここにいるんだ!抱きしめるから!1人ではないから!」
「あったかい…お父さん……お父さん」
クオーとコイヌの時間を見ていた皆泣いて怒っていた。
ゲーン探索団はクオーとリユーを抜いて12人。女児が4人、男児が8人。
女児達は1番下の妹が死にかけて苦しみながら必死になってクオーを父と呼んで泣いている事に耐えられずに泣いていた。
コイヌの次に年下のインニョンは赤ん坊のコイヌを育てた時にあまりの可愛さに、当時のリーダーに欠員の出たゲーン探索団に入れて欲しいと頼み、ズエイが許可をした。
涙を流すインニョンの肩をサンバが支えている時、リユーはハイクイに「少しいいか?」と言った。
「今?」と言いながらとても迷惑そうに時と場合を知れと睨むハイクイに「兵殺しは罪か?」とリユーが問う。
「へぇ、アンタは俺達とは仲良くする気のないお綺麗な奴かと思ったけどそんな気があるんだ」
ハイクイの意外そうな顔にリユーは首を横に振る。
「俺はジン家の再興しか考えていない。今の問題はクオーだ。あれはあの娘が事切れた時に抑えられなくなる」
「キレるの?」
「ああ、手がつけられない」
「アンタでも?」
「本当に恐ろしいのはクオー・ジンだ。アイツが女に好意を抱かれないと言ったがそれは違う。アイツの愛が重いから女は遠慮をする。前にアイツに好意を伝えた女が、女を慕っていた男から襲われた際には、その男は文字通り八つ裂きにされていた」
リユーの言葉にハイクイは「…外に出る前に抑えないと面倒になるな…。今は大人が外を歩けば襲われる。兵士は証拠のない行方不明にすれば不問。他の兵士の前で消せば捕まる。俺たちに人権はないから何やっても因縁付けられたらその場で殺されるよ」と説明をした。
「了解だ。ジン家は受けた恩も受けた怨も忘れない。恩義には恩義を、怨念には怨念を向ける」
「わかったよ」
ハイクイとリユーが話し終わってすぐにコイヌは一際苦しんで死んだ。
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