第2話 ゲーン探索団。

リユーとクオーにこれ以上何もしないと言ったズエイは2人を寝かしつけるとまだ明るいハッピーホープを後にして最後の希望に立ち入る。



そのまま一つの屋敷に向かい、ノックも無しに扉を開けると「起きろ」と言った。


すぐに細身でオールバックの少年にも見えて青年にも見える男が現れて部屋に明かりをつけると「なんすか?店でトラブルですか?俺今行けませんよ?」と言う。


「トラブルなんてねえよ。お前の育てた人喰い鬼の牙があるのに刃向かってくるモグリも今じゃいねえ」

リユーとクオーに話す態度と違うズエイに男は「ならなんすか?寝る自由くらいくださいよ」とボヤく。その姿にスエイはニヤりと笑って「仕事だ。上手くやればお前を人間にしてやる」と言った。


男は煩わしそうな態度から一転して「マジすか?何をしろって言うんです?」と喰いついて聞くとズエイは「面白い奴にあってな。明日こっちに入らせる。そこそこ田舎のそこそこお坊ちゃんが2人だ。拾ってやれ。空きはあるだろ?」と言った。


「一攫千金を夢見たバカですか?」

「いや、テイのいい厄介払いを食らったことにも気付かない大バカだ。期限内にBランクが3個かAランクを1個持って帰ってこいって言われてホイホイ来やがった」


この説明に男はバカにするように「マジですか?」と聞き返し、ズエイはリユーとクオーの経緯を話して2人の面倒を見ろと言う。


「なんでアンタはその2人を?」

「番狂わせだな。それで助けて恩を売って金にする。仮にBランクが3個かAランクを1個物にできるなら恩を売っても損はねえ」


「金ってどうやるんすか?」

「アイツらからも貰った上で、アイツらをココに送り込んだ奴の敵に恩を売るんだよ。そうすれば謝礼の一つは固いからな」


「よくやりますよ…。それで?俺はありがたいですがウチの連中は?」

「わかってる。あの2人がいる間は飯に肉と菓子を差し入れてやる」


「へへ、ありがとうございます。喜びますよ」

「いや、しっかり働いてくれ。店の奴らも待ってるからなダムレイ」


ダムレイと呼ばれた男はズエイを見送ると「やってやる。人間になってやる」と言って興奮して眠れないでいた。




翌朝まだ早い時間なのにダムレイは「起きてくれお前達!」と号令をかける。

起きてきたのは12人で「なに朝から?」「眠いよ」「探索?」「力場が開くのって来週でしたよね?」「スポットに出るんですか?」と口々に話す。


「ズエイの旦那から仕事だ…ってハク!ハイクイ!寝るな!」

「えー…、仕事の説明はダムレイが聞いてるんだよね?だったら俺いらないよ」

ハイクイと呼ばれた穏やかな表情が特徴的な男の子の言葉に他のメンバーも「確かに」「眠い」と言っている。



「普通の仕事じゃない。聞いてくれって。今日ハッピーホープから2人来る。ズエイの旦那が目をつけたやつで、旦那からはウチに来るように言っていない。だから何とか死ぬ前にウチに連れ込む」

「えぇ?それ面倒じゃないですかー」


「頑張りましたじゃだめなのか?」

「お前達…、言うと思ったから旦那にはボーナスを頼んだ。そいつらがいる間は肉と菓子が配給されるぞ」


「肉!?菓子!?なにやってんの?行くよダムレイ!」

「キロギー、お前ならそう言ってくれると思ったぜ」

ダムレイはキロギーと呼ばれた子供の頭を撫でながら話をする。


「あとは?」

「…ハク。やり切れれば俺が一抜けだ」


この言葉にメンバーの目の色が変わり先程ハイクイと呼ばれた男の子が「へぇ、やったね。あれ?そうなるとリーダーは俺?」と言い、細身の男が「だな、頼むぞハイクイ」と言った。



朝食はご馳走だった。

芋をすり潰して練った物と安いパン。

そしてクズ野菜で出来たスープ。


「くぅ〜、ここに肉!?しかも菓子!?早く迎えに行こうよダムレイ!」

「わかったよ。キロギー、飯をよくするには?」


「神のカケラを育て切る!」

「よし、わかってんな。今1番上がりに近いのがお前の火龍の吐息だからよろしく頼むぞ?」


「ねえダムレイ?俺の水龍のウロコは?」

「それはお前が持ってて身を守れ、育ちきったらクワガタのハサミをズエイの旦那に上納しような」


「交換していいの?」

「ああ、どうやってもクワガタのハサミじゃ水龍のウロコには敵わないからな」



街の入り口に行くと一目でズエイが言った2人だとわかる連中が居た。


「よぉ」とダムレイが声をかけるとクオーとリユーは身構えた。リユーは剣まで抜こうとしている。


ダムレイは「ははっ、キチンと対応出来て偉いぜ?」と言ってさっさと要件を伝える事にする。


「お前達、ズエイの旦那のところから来ただろ?俺達はゲーン探索団」

元々は隠れて保護をするように言われたが2人の姿を見た瞬間に無理だとダムレイは悟った。


これくらいの軌道修正にズエイは文句を言わない。

ズエイは結果にのみ意味を見出す。


「ゲーン?ズエイ・ゲーン?」

「そうだよ。ズエイの旦那の所に居たんだろ?」


この言葉に厳しい顔のリユーが「ああ、夕飯と朝食で痺れさせてもらった」と言う。

ダムレイは笑いながら「「1番に食べるな、周りを見ろ周りの目を見ろ」とでも言われたか?」と言うとリユーは真っ赤になった。


リユーを遮ってクオーが「君は?」と聞くとダムレイは「名前か?ダムレイだ。今のところゲーン探索団のリーダーをしてる。ウチに欠員が出てそのままだった所にズエイの旦那からアンタ達を迎え入れろと言われた」と返した。


「何故だい?」

「何故?くだらない事を聞くなよ。アンタ達みたいのは明日の朝には路地裏で犬の餌だぜ?感謝しとけって」


クオーはニコニコと「そうやって痺れさせられては困るからね」と言うとダムレイは笑って「成る程、キチンと学んだ訳だな。じゃあ証明してやる」と言った。


ダムレイは最後の希望とハッピーホープの間にいる兵士に「ズエイの旦那を呼んでくれ」と言うと初めは無視をしたがダムレイが圧を放って「顔を覚えられたいかい?」と聞くと兵士は舌打ちと共に消えてズエイと現れる。


「旦那、おはようございます。この2人が俺と旦那の関係を疑いましたので来てもらいました」

ダムレイの言葉に「成る程」と言ったズエイは「お二人に先行投資をさせていただきます。帰る頃には私に感謝をしてジン家から謝礼を頂けると思いました」と営業スマイルで言うとクオーは「わかりました。この2日、あなたはお金のことではキチンとされていたので信じます」と言った。


リユーだけはこの状況が不満で舌打ちをしていた。

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