破壊者の幸せな一生。
さんまぐ
魔神の身体を育て上げる破壊者。
欲望の島に降り立つ破壊者。
第1話 欲望の島に降り立つ破壊者。
青い空と穏やかな海はすぐに終わる。
分厚い雲と荒れた海がこの先を暗示しているようで気が滅入る。
船の行き先は欲望の島。
男達は思いつめた表情で船室に居た。
船室は2等、ある程度の人間と乗合で、横にきた身なりのいい初老の男は「お兄さん達は行き先は決めてありますか?」と話しかけてきた。
1人の男が暗い顔で無視をするともう1人の男が「いえ、貴方とは違います」と答える。
「へ?3等でもないのに?」
3等は船室の話で雑魚寝で一攫千金を目指すゴロツキ達が大量にいる。
「ええ、我が家の存続の…」
ここでもう1人の男が「クオー・ジン!」と注意する。クオー・ジンと呼ばれた男は「ごめん。リユー・ジン」と答える。
ここまでで何となく話の読めた初老の男は「御家存続の危機で欲望の島ですか?まあ話しかけたのも何かの縁。港町ハッピーホープと欲望の揺籠の間にもう一つ最後の希望と呼ばれる町があります。そこで必ずチームに加入する事です。あなた方が良い保育士でまた会えた時はオススメのお店にご案内しましょう」と言う。
この言葉にクオーが「あなたは?」と聞くと初老の男は「私はハッピーホープで手広くやらせて貰っていますズエイと申します」と言った。
初老の男ズエイは手揉みをしながらクオーに笑いかけると自分のスペースに戻って行った。
船はそれから半日かけてハッピーホープに着くと夜になっていた。
夜の闇に浮かぶ街明かりはいかがわしさに満ちている。
緩み切った顔で鼻の下を伸ばして下船していく男もいれば暗い顔で降りていく女や男、中には泣いている者もいる。
「リユー、さっきの男の人が言っていた。最後の希望に行こう」
「チーム?そんなものは俺達が居れば不要だろう?」
「店との渡りなんかもあるからダメだ。これは何日かかるかわからないんだ」
「ちっ、わかった」
薄い茶髪に高身長で中肉中背のリユーと青い髪に高身長で筋肉質のクオー。
更に姿勢も良く目立つ。立ち振る舞いに気品が出ている。
だからこそ少し動く度に呼び込みの男から声がかかる。
真面目に断るクオーと高圧的に睨んで無視をするリユー。
街外れに着く頃には相当な時間を浪費していた。
「今から街を離れるのはおススメ出来ませんな」
そう声をかけたのは先ほどのズエイだった。
「あなた…」
「また会いましたな。これも何かのご縁と思い後を追わせて貰いました。改めましてワタクシはズエイ・ゲーンと申します。我が宿屋に来ませんか?今から最後の希望を目指すのは自殺行為でございますよ?」
ズエイは街はずれを指さして言うとクオーが「自殺行為?」と聞き返す。
「一言で申せば治安なんて言葉はないも同然の猛獣の檻、ケダモノ達の巣穴でございます。何の構えもなく入れるような場所ではございません」
この言葉に苛立ったのはリユーで「何を言う!我らがゴロツキに遅れを取ると言うか!」と言いながら腰の長刀を見せるが、ズエイは涼しい顔で「無理に引き留めません。ですがここで断れば二度とお会いする事もありません」と返す。
ここでリユーを止めたのはクオーで「リユー、焦ってはダメだ。我らはこの島を何も知らない」と言うとズエイに「あまり持ち合わせはない。1番安い部屋にしてくれますか?」と聞く。
「はい。更にこの島に来る経緯なんかを教えていただければサービスも致しますよ?」
この言葉にクオーは「何故そこまで?」と聞く。
「ご興味が湧きました。欲望の揺籠に向かうのに二等船室をお使いになられるご身分、何かのご事情がおありなのでしょう」
「…わかりました。行こうリユー」
宿屋は街の真ん中にあった。
酔って顔を赤くした男どもが薄い服を着た女の肩を抱いて何組も宿屋へと消えていく。
横目で見ていたクオーとリユーに「どうですか?女を買いますか?」とズエイは手揉みをしながら聞く。
「いらん」
「いえ、我々の目的は違います」
「それは失礼を致しました」
ズエイの案内で中に通されたクオーとリユーは「サービスです」と出された食事に手を出して痺れた。
「ふふふ。この欲望の島で油断をするとこうなります」
ズエイはそう言って薬を飲ませると「最後の希望でチームにも入らなければ風上から痺れ薬を撒かれて身動き取れないところで殺されます」と説明をする。
怒るリユーに「授業料を請求しましょうか?」と悪びれないズエイ。
クオーが「いや、ご教授感謝します」と言ってリユーを大人しくさせると「クオー殿はキチンと会話のできる方ですね」とズエイは微笑んだ。
ズエイは改めてクオー・ジンとリユー・ジンに何があったかを聞いた。
初めは答えようとしないリユーだったがクオーはキチンと答えた。
本土…王都でクーデターを企んだ一派がいた。
蜂起前にクーデターは潰されたが、問題はその一派にジン家の人間が居た事だった。
ジン家とはいえ遠縁の者で命までは取られなかったものの一族郎党皆平民にされる所で武芸自慢のクオーとリユーに欲望の島に赴き、買い付けるのではなく「神のカケラ」を取ってくれば謀反人から一定距離のジン家の人間は不問とするという話になり、刑の執行は延期になり、延期中に結果を出さなければならなくなったという話だった。
ありていな話だと聞きながら思ったズエイは「時にお二人は神のカケラをご存じなのですか?」と聞く。
「少しだけです。王都でも一部の人間に販売していて、それを手にすれば人の身で人ならざる能力が手に入る道具と聞き及んでいます」
クオーの説明に無反応のズエイに向かってリユーが「違うのか?」と確認をする。
「少し違います。この世界の権力者達が持つ異能の力、超常の力は全て神のカケラがもたらしたものです。そして神のカケラはこの欲望の島でしか得ることが出来ません。そして何故最後の希望を超えて島の中央を目指す者達を保育士と呼ぶのかを知る必要があります」
「保育士とは?」
「まず、神のカケラは誰にでも見つけられるものではありません。神のカケラが人を選びます。それを手にしたら育てるんです。子供と同じです。巣立てるようにするのです」
この説明にリユーが「それで保育士か…。まあいい。そして最後の希望には毒を撒いてくる奴らがいるからそいつらをなんとかしながら神のカケラを見つけて帰還すれば父上達は助かるのだな?」と確認をした。
ズエイはバカにするように笑うと「おやおや、リユー殿は浅慮でございますね」と言う。
「何?」
「おそらく低ランクの神のカケラでは見向きもされませんよ」
「低ランク?ランクがあるのか?」
「ええ、火を放つ神のカケラにしても拳大、頭大、人の大きさと分かれます。それに保育士の育て方一つで同じ神のカケラでも性能に違いが出ます」
リユーはズエイの話を聞いて「成る程な」と言って「クオー?」と確認をするとクオーは「聞いてある。せめてBランクなら3つ、Aランクなら1つと言われてるよ。リユーは話を聞かなすぎだ」と言った。
ズエイはそれを聞きながら少々無理のある内容にこの2人を送り出した連中は出来もしない無理難題をふっかけて期限切れで責任を取らせようとしている事を理解していた。
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