混沌の

 しかし、私の目の前5cmのところでメイドホムンクルスは虫をひっこめた。


「……ナーンチャッテ。冗談です。インテリジェンス人型神器となればその格は最上位。この虫程度では効かず、ただ脳をほじくるだけでしょう」


 あ、あぶねぇ……私の冒険はここで終わるかと思った……!


「……にゃあ、人って脳ミソほじくられたら死ぬんじゃねーかにゃ?」

「それはそれで私の主の望むところではございませんので」


 そう言ってメイドホムンクルスは芋虫をメイド服の胸ポケットの中に仕舞った。


「おいレナ。一応聞いとくが、俺が主人じゃないのか?」

「はい、ご主人様はご主人様ですよ」

「その返答はどっちだ。ご主人様は『ご主人様』なので『主』とは違う、と言う意味か?」

「ご想像にお任せします、ご主人様……と、言いたいところですが、私の主がお客様にお会いしたいそうです」


 どうやらカオルは主ではないようだ。


「では失礼しますねご主人様」

「うごっ」


 カオルの首に手刀を入れるメイドホムンクルス。それ正面からやるヤツであってんの? 普通首筋じゃね? しらんけど。


「……ふんっ!」


 バキィ! と拘束をぶち破り、カオルがベッドから起き上がる。……その髪の色は、赤くなっていた。


「……喉が痛いのだけど、レナ?」

「はい我が主。喉をついて気絶させたので」

「ああそう……あー、あー。うん、喋るのには問題なさそうね」


 パチン、とカオルが指を鳴らすと私の拘束が外れる。


「おぉっと?……なんだカオル……いや、カオルじゃない、のか?」

「ええ。その通りよ」


 私はベッドに座り、にこりと笑うそいつを見る。


「初めまして、悪魔の使徒さん。私は混沌……の、魔王よ」

「あっ。……本物の混沌もがっ!?」

「まって。その名前は呼んだらダメ。コッショリ君展開してても感知されちゃう」


 手で口をふさがれる。柔らかい……ふぉっ……! 口をふさがれてるだけなのになんか妙にジンジンして気持ちいい……ッ!? 良い匂いするっ!


「いい? 私は、混沌の魔王よ。いいわね?」


 こくこく、と頷くと、ゆっくりと手が離れていく。


「……えーっと、その。混沌の魔王さん?」

「OK、それでいいわ」


 混沌の魔王はふぅ、と息を吐いた。

 そして、何やら靴下を取り出す。


「時間が無いから手短に言うわね。――あなたの後ろにいる悪魔。彼女を封印して欲しいの。レナが履いている靴下に、あの子が100年くらいこの世界の干渉をできなくする神器を用意したわ」

「……えーっと? 靴下型神器……ってことですか?」

「これなら間違いなくかかるでしょう?」


 うん、これは間違いなく引っかかる。あの神様特効と言っていい。

 そのあたりの事情も知っているのか……こりゃ本物だな。


「大丈夫、排除している間のエネルギー補給は私がやるから世界も滅びないわ。神器の回収は続けてほしいけどね」


 そのあたりの事情も知っているのか……こりゃ本物だな。(二度目)



「……しかし、その、なんでです? 恋人って聞いてたんですけど」

「…………」


 眉間を押さえる混沌の魔王。


「えーっと?」

「……あの子、ヤンデレっていうのかしらね……? 私にも少しくらい自由が欲しいと思わない?」

「アッ、ハイ」


 なんだよ痴情のもつれかよ。くっだらね!……あ、いや、くだらなくないです。命ばかりはお助けを!!


「ああ。別に私に協力するとかしないとか、そういうのは不要よ。勝手に利用させてもらうだけ。……私に会ったことは内緒にしてもらうから記憶は弄らせてもらうけどね」

「脳クチュ!? 脳クチュはさすがにちょっと! やられるのはちょっと!」

「大丈夫よ。私、プロだから。あと別に頭開いたりはしないわ、魔法でチョイチョイだから」


 あ、それなら大丈夫ですわ。先生、よろしくお願いしまーす。


「それじゃレナ。『黒幕』としてこの子に同行しなさい」

「かしこまりました、我が主」

「じゃあね、時空神の依り代。記憶は、整えといてあげるわね」


 そう言って、混沌の魔王は目を閉じ、髪の色はカオルの金髪に戻った。 



――――――――――――――――――――――

(もうそろそろコミカライズが開始されますよー!

 8/27(火)よりComicREXにて! 紙の雑誌で! コミカライズじゃああ!!!)

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