鬼気迫る


 商人達は、傭兵に囲まれて帝国の町へと向かっていた。


「終わった……」

「うぐぐ……こんな、こんなはずでは……!」


 財宝を差し出さなければ、ドラゴンは商人達を追ってくる。

 つまり、商人達は帝国にドラゴンをけしかけた反逆者になってしまうのだ。


 言い逃れしようにも、商人は傭兵たちに見張られているし、傭兵たちは商人がドラゴンをけしかけたと証言するだろう。

 自分たちが先に見捨てようとしたのだ、傭兵たちも容赦しない。


「これからどうしたら……ハッ! そうだ、帝国軍ならドラゴンにも引けを取らない!」

「そ、それですぞ! おいお前ら! 私共に協力するのですぞ!」


 帝国軍。確かに、その総力を挙げれば、ドラゴン2体を倒すことも不可能ではない。

 実力主義の帝国軍だ。将軍クラスには、単体でドラゴンと渡り合えそうな猛者も居るのだ。


 一発逆転。ドラゴンを始末してしまえば、この取立を踏み倒せるのだ!



 しかし、傭兵は首を横に振った。


「断る」

「は!? なぜ!?」

「なぜ? それこそなぜだ。どこにお前らに協力する必要がある? お前らは傭兵を裏切った」

「雇い主に死ねと言われたら死ぬのが傭兵の仕事ですぞ!?」

「違う。俺らの仕事は戦うことだ。生贄になることじゃあない」


 戦って死ぬのと、捕まった後とはいえ勝手に生贄にされるのとでは話が違う。


「俺らはお前らを差し出せば助かることが確定している。無駄な戦いは必要ないだろ? 損耗を避けるのも、いい傭兵の条件ってな」


 商人なら損得勘定を考えろ、と鼻で笑う傭兵。


「し、しかしあのドラゴンが約束を破る可能性も」

「ドラゴンは誇り高い種族だ。そんで、約束を破ったりはしねぇと聞く。お前らよりよっぽど信頼できる」

「うぐぐ……」


 呻く商人を、傭兵は鼻で笑った。


「何、知っての通り、傭兵ってのも商人の一種だ。武力を売る商人。だから、同じく商人の事ぁ分かってる。全部、吐き出せよ。それがドラゴンの要求だろ?」

「し、しかし! そんなことしたらウチの商会が立ち行かなく……」

「知るかよ。お前らは道を誤った。文字通りドラゴンの尻尾に蹴躓けつまずいたってわけだ」


 それは、身の破滅と同義のことわざだ。

 通常は取引で取り返しのつかない大失敗をして破滅すること言うが、今回は相手が本物のドラゴンだ。ある意味、本来の使い方と言ってもいい。


「命だけは助かるんだ、どっかで下働きでもさせてもらえばいいだろ」

「そんな……」


 その後、傭兵たちは見事に商人達から諸々をかっぱいだ。

 わずか3日で商会や不動産を現金化し、ドラゴンの喜びそうな宝石や金貨銀貨に変え、鬼族の奴隷達も連れて里へと戻る。


 そうしなければ次にドラゴンに狙われるのは自分たちだ、と、理解していたのだろう。

 鬼気迫る手際の良さだったという。



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