とある商会にて。
ギドラーガ帝国のとある商会にて。
メイド服を着た鬼族の女性が、人間である主の商人と客人にお茶を出している。
でっぷりと太った男達が商談しているところに、カチャリとお茶を置く。
鬼族の女の首には奴隷身分を示す首輪が当然のようにつけられており、額の角は根本近くまで短く、平らになっていた。
「……そろそろ新しいヤツを仕入れる時期ですかなぁ」
鬼族の女の平たい角を見て、商人が呟く。
鬼族。それは人類に分類はされるが、非常に魔物に近い存在である。
そしてその『
疲労回復、体力増強、食欲増進、血行促進。……そして、特に鬼族の女の角は、精力増大の効果があるとされている。
――つまりは滋養強壮に良い、質のいい媚薬として高値で売れるのだ。
1人からは微量しか取れないため、角の粉末は同じ重さの白金貨と交換できるほどの貴重品だ。
ゆえに、帝国において角を取れる鬼族の女は秘密裏に取引される
「おや。となるとこやつはお役御免で? まだ若いし、娼館にでも売るのですかな?」
「ははは、魔物モドキを抱きたいというもの好きも結構いますからな。ま、角を完全に削り落とせば見た目は人間とさほど変わらない。十分使えますでな」
客の質問と、商人の回答に鬼族の女は顔を顰めた。
「おや。なんですかその顔は。ドラゴンに食べられそうになっているところを助けた私になにか不満でも? ほら、感謝を述べよ」
「……はい、ありがとうございますご主人様」
「ぶははは! それでよろしい。魔物モドキは討伐されないように精々媚を売ることですね」
ぺこり、と頭を下げる鬼族女性。心は一切篭っていない。
確かに最初は、生贄にされるところを助けられたかと思っていた。本来生贄になるはずだった自分が居なくなり里も困るだろう、いい気味だとさえ思っていた。
しかし、この商人に雇用契約と騙されて奴隷契約を結ばされ、その直後に騙されていたことを知った。
鬼族は、ドラゴンに生贄など要求されていなかったのである。この商人たちの狂言。鬼族の女を『仕入れる』ための詐欺だったのだ。
……それを、この商人は鬼族の命ともいえる角を
「殺して角を奪うのは下の下。回復魔法を併用すれば、何度か収穫できます。だから、生かして奴隷にする必要があったんですね。……教会へのお布施を払っても十分利益が出る商品なのがいいですわ。ぶっははは!」
とはいえ回復にも限度があって、鬼族の女の角は徐々に回復しきれず小さくなっていった。その結果が、今の平たい角である。
「いやはや、いい商品ですな。私もあやかりたいものです」
「おや。ではコイツを買い取りますかな? まだ角は少し残っていますし……このくらいでいかがかな?」
と、女の料金を走り書きする。角の残量や娼館への売買を考慮された、ギリギリの価格設定だった。良心価格、と言うには少し厳しいライン。
だが、客人の商人はそれを見てニコリと笑顔で頷いた。
「ええ、その価格で買いましょう」
「よろしいので? 返品は受け付けませんぞ」
「ええ、構いません。むしろ、そちらこそやっぱりやめる、は無しですぞ?」
「ではこの場で決済してしまいましょう」
と、お互いのギルドカードをコツンと合わせ、あっさり売買が終わる。
……奴隷契約はしているが、帝国において鬼族は人ではない。薬の原料ということで、奴隷商でなくても薬の免許があれば取引できる商品だった。
「それにしても、残っている角を全部売っても利益にならないでしょうに」
「なに、ほじくればまだまだとれますよ。十分利益が取れますとも」
「ああ! ほじくるのは盲点でした。次からは私もそうしましょう」
「うっかり頭の中身まで削らないよう気を付けねばなりませんな、はっはっは!」
その言葉に、鬼族を完全に人と思っていない言葉に、鬼族の女は意識が遠のく。
もはや絶望しかない。奴隷契約のせいで逃げることもできない。
「それでは私は『牧場』で新しい『原料』を仕入れてきますかな」
「おお。これでまた薬の流通が増えますな。良いことです」
「そうだ! よければ一緒にいきますか?」
と、商人が客人を誘う。
「おや、よろしいので? 秘密の『牧場』なのでは?」
「なに、そろそろ全部回収した方が良いと思いましてな。人手が欲しいのですよ。最近、妙に勘づいて『生贄』をどこかから攫って来ればよい、などと言っている者もおるようで」
「ほう。なるほどなるほど。魔物モドキふぜいが、人間に手を出したら殺処分も妥当ですな。……手伝ったら、当然分け前も貰えるのでしょうな?」
「ええ勿論」
ニヤリ、と笑い商人達は握手する。商談が成立した。
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(2巻の表紙絵が出たぞー!!!
ディア君ちゃーーーーーん!!!
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発売は4月22日ッ!! 3巻も出したいから買ってね!!)
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