把握した!


 腰を抜かしていたヨウキちゃんが復帰し、ディア君によって犬のように手懐けられたブラックドラゴンを見る。


「……え、触っても大丈夫なヤツなんですか?」

『ぐるぁあああ!! 勝手に触んじゃねぇよ人間がヨォ!! 姐さんに許可とって出直して来いッ!!』

「ぴぃ!?」


 触ろうとして吠えられ、再び腰を抜かした。可愛い鬼だこと。


「おお、どうやらドラゴンが気を許しているのは姫様だけみたいだね」

『え? いや姐さんが言うから……あ、そういうことにしてるんすか。うっす了解っす!』


 ニィッと牙を見せて笑うキリゴン。凶悪な笑みに、鬼族はたじろいだ。

 ディア君はアーサーで慣れてるので特に気にせずそのまま撫でている。


『や、お互い大変っすね兄弟。あ、自分はアーサーっす。元の名前は(翻訳不能)っすけど』

『……そうやな兄弟。俺は(翻訳不能)だが今はキリゴンじゃわ……で、姐さんって何者なん?』

『自称人族っすけど、ドラゴンより上位存在なのは間違いないっすね。あと今撫でてるディア君ちゃんは普通のエルフっすけど、姐さんの寵愛受けてるんで傷ひとつでも付けたら殺されるっすよ』

『……御忠告、有難く受け取っておく』


 ちなみにこの会話は単語帳も使われておらず、ドラゴンと私以外には伝わっていないぞ。


『それと今は猫獣人も同行してるっすけど、そっちは多少雑に扱っても大丈夫っす。鬼族は殺さない程度にテキトーでOKっす。場合によっては殺しても良いっす』

『人間共の細かい区別つかねんじゃが』

『とりま姐さんとディア君ちゃんだけ分かってりゃいいっすよ。あとは生意気ならボコっちゃっていいかなって』

『把握した!』


 ドラゴン同士で会話しているのを鬼族の人達は畏怖しながら遠巻きに見ている。


「姫様、そろそろドラゴンに生贄について聞かれてみては?」

「え? あ、はい。……えっと、ドラゴンさん。生贄ってどういう感じになってます?」

『あれ、これ普通に答えていいんでしたっけ? 自分ら特に要求してないって』

「ん? はい姫様。ふむ、ふむふむ。なんと! ドラゴンは生贄を要求した覚えがない!?」

『あ、これ何て言っても別にいいやつだったんすね姐さん』


 そりゃキリゴンの言葉は私とアーサー君にしか分からないからね。

 私はディア君から聞き取ったというていでドラゴンの事情を話す。


「ほうほう、ここ十数年、生贄を要求したことはないそうですね。人間を食べたりもしていないと。これはどういうことですか?」

「え!? そんなばかな。それでは、ウチの姉は一体どこに行ったというのです!?」


 鬼族の女中さんの一人がそう声を上げた。姉が生贄として捧げられたのだろう。


『どういうことっすかね姐さん? 俺ぁやってねぇ事をやったって押し付けられるのが堪らなくムカツクんですわ。下等生物如きがよぉ……!』

「えっ、姫様、ドラゴンはなんと……ほう、ほうほう! 森の中で女を連れていく男達を見たことがあると!」

「そんな……!」

「これから里に行くので、全員残らず顔を出せと! 話はそれからだとおっしゃっているそうです! いやぁドラゴンがそう言うなら仕方ないよね!」

『あ、はい。姐さんはどうぞご自由に俺ン事使ってください。適当に鳴いときますわ。ええ』


 というか、先に茶番の流れを言っといたでしょ。ディア君に撫でられてるうちに頭ン中からすっぽ抜けたか、このおバカドラゴンめ。


「じゃ姫様はそのドラゴンに乗って行きましょうね。おら、姫様乗せろ」

『痛っ。うっす』


 私が軽く足を蹴ると、乗せやすいように頭を下げるキリゴン。


「……なんかすみませんね、ドラゴンさん」

『いえ。姐さんにゃ絶対服従なんで。気にせんでええっすわ』


 ディア君はドラゴンの言葉は分からないハズだが、なんかディア君とキリゴンと通じ合っているようだった。




――――――――――――――――――――

(作者の別作品、

 『絶対に働きたくないダンジョンマスターが惰眠をむさぼるまで』

 のコミカライズ10巻が 3/25(月) に発売よ!


 そしてこの小説の2巻が4月に発売予定ですわ!!

 ついにディア君が書籍に出てきますわ!!

 Ixy先生のイラストめちゃかわ……早くお見せしたいですわぁ!!)

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