茶番



 というわけで、祭具殿でのんびりお茶していたのだが、急に騒がしくなってきた。


「み、み、み、巫女姫様ぁ! ど、ど、ど、ドラゴンが出ましたッ!」

「あ。来た? 黒いヤツ?」

「はいっ! って、なんで見てないのに知ってるんです?」


 ヨウキちゃんが首をかしげる。


「そりゃ、下見で見てきたし知ってるよ」

「!! まさか、尾行つけられたってことですか?」

「あー。……そうかもね?」

「な、なんてことしてくれたんですかぁああ!!!」


 私の襟首をつかんでがっくんがっくん揺らすヨウキちゃん。やーん酔う。


「落ち着いて。大丈夫だよ、私達には、姫様がいるからね!」

「はっ、そうでした! お願いします巫女姫様、ドラゴンを鎮めてくださいまし!!」

「……お姉さん、行きますか?」

「おっけー。さ、お手をどうぞ」


 私はディア君の手を取り、エスコートする。ついでにアーサーも連れていこう。

 ドラゴンは律義に祭具殿の上空をホバリングしつつ様子見をしているようだった。


『姐さーーーん、茶番しに来やしたぜぇーーーー!! こちらでよろしかったっすかーーー!! 姐さぁああーーーーーーん!!』

「ひぃい! ドラゴンがすっごい怒ってます! あなたのせいですよ絶対!」

「いやぁ、それほどでも」

「褒めてませんよ!?」


 ドラゴン語の分からないヨウキちゃんには、どう聞いてもドラゴンの咆哮以外の何物でもないよな。よしよし、怖くないよー。


『わー、ブラックドラゴンじゃないっすか姐さん。間違いなく強いっすよ? でもやっぱりワンパンで?』

「だよ」

『おお、姐さん! ん? なんやサンダードラゴンがおるのう……そうか、お前も姐さんに……?』


 羽ばたきながら祭具殿の庭に下りてくるキリゴン。

 アーサーとキリゴンが視線を交わし、一瞬何か通じ合い、お互い大変だなという目をした。2匹とも。


 そしてヨウキちゃんはブラックドラゴンのキリゴンが庭に下りてきた時点で、腰を抜かしている。漏らしてはいないようだ。


「さぁディア君! ブラックドラゴンだよ!」

『お! そっちの嬢ちゃんが姐さんのオキニっすか! うっす! キリゴン、腹ァ見せてゴロゴロさせてもらいやす!! どうぞぉおーーーー!!』


 ズデェーン!! と横になるブラックドラゴンの巨体。

 ぎゃおーーーーん! と鳴き声が大きく響いた。


「わー、姫の前にはブラックドラゴンも腹を見せて服従だぁー!……ほら、撫でてあげてディア君?」

「……一体なにしたんです、お姉さん……」


 どこか呆れたようにそう言いつつ、ブラックドラゴンの無防備な――とはいえ、なまくらな剣や斧なら普通に弾く程度の装甲の――お腹を撫でるディア君。


『おっふッ! ドラゴン撫でるの慣れてやがる……ッ! テクニシャン……』

「あ、やっぱりここがいいんですね」

『あっあっあっ、ヤベッ、あ、姐さんッ、この子ヤベェぜ!? あ、そんな逆鱗をカリカリとかッ! ごめんよハニー……!』


 ビクンビクンと気持ちよさそうに体を震わせるキリゴン。


 これを見て、ヨウキちゃん達鬼族の面々は、


「……おお、ドラゴンを手懐けている……!」

「さすが巫女姫様!」

「ドラゴンが自ら撫でられに飛び込んできた! さすが龍に愛される巫女!」


 と、とても感動していた。やったね狙い通り。



―――――――――――――――――――

ディアカリーナ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る