里長に挨拶


「遠路はるばる、ようこそいらっしゃいました、巫女姫様」


 あの後戻ってきたヨウキに案内され、里長に挨拶することになった。最初は小さくなったとはいえサンダードラゴンのアーサーが一緒であることにたじろいだが、すぐに持ち直して挨拶をしてきた。

 なかなかに筋骨隆々で額にはやはり2本の角が生えている大人の男性。すっと綺麗に頭を下げてくるが、それでも私の目線よりやや高いほどだ。

 

「……(ごにょごにょ)」

「ふむふむ。うんうん。……巫女姫様は、苦しゅうないとおっしゃっている!」


 ディア君が私に耳打ちして、私が話す。


 これはディア君が嘘をつくのが心苦しそうだったのでこうした。

 ディア君は私に「苦しゅうないとか言っときます?」と提案してくれる。私はそれを聞いて、先ほどのように答えたのである。


 名付けて、『嘘じゃないよ、私がそう言ってんだ作戦』である!


 ディア君は私を巫女姫だと思ってるから私の発言ならこれで巫女姫の発言として成立する。

 ヨウキちゃん達はディア君を巫女姫だと思っているから、私を経由したディア君の発言だと思って成立する。

 どちらも納得する折衷案というやつだ。


 尚、私はディア君が巫女姫だと思っている派。だって巫女だし姫だし、絶対可愛いじゃん。ディア君にピッタリ。ね?


「長旅お疲れ様でございます巫女姫様。もうしばしお待ちください、些細なものですが歓迎の宴を準備いたしますゆえ……」

「(ごにょごにょ)いや1日ですし……というか歓迎する余裕があるのでしょうか? ドラゴンに襲われてるんですよね?」

「……ふむふむ。巫女姫様はそのような物資を使う余裕を心配しておられる。まさかドラゴンに襲われているというのは嘘ではあるまいな?」

「!? (ごにょっ)そこまで言ってませんっ」

「あと晩御飯はさっき食べたのでいらないとのことだ」


 コンテナの中で普通に晩御飯食べちゃったよね。歓迎してくれるなら食べさせてもらえばよかった。


「い、いえ! とんでもございません! ドラゴンは我々の食料に興味がないようで、食糧庫は無事なだけでして。ええ、では明日改めて歓迎の宴を」


 なるほど、そういうことか。


「だそうです巫女姫様。あ。ってかアーサーって飯普通に食うよね? 食糧庫襲わないとかあるの?――って聞いてください」

「あ、はい。……アーサー、どうなの?」

『食糧庫に置いてあるのって穀物とか野菜、あと干した肉っすよね? 新鮮な肉の方が好きなヤツなんでしょ。森に獲物があるから狙ってないだけっすよ多分』


 尚、アーサーは小型モードだが、今は単語帳使わないでドラゴン語である。

 その方が威厳が出るからという判断だ。


「……(ごにょごにょ)で、アーサーなんて言ってました?」

「ふむふむ。ドラゴン曰く、そのドラゴンはおそらく備蓄より新鮮な肉が好きなんだろうと言っているようだ」

「……であれば、やはり生贄を差し出さねばなりませんな……」


 がっくりと項垂れる里長。


「いや我々、それが正しいのかどうかを確かめるために来たのだけど」

「む、そ、そうなのですかな?」

「そうだよ? あれ、ヨウキちゃんそこ伝えてないの?」

「いえ、言いましたが。父は思い込んだら人の話を聞かないタチでして……」


 なるほど、ヨウキちゃん里長の娘だったのか。親子だねぇ。


「まぁ今日のところは休ませてもらおう。宿を置ける場所だけ提供して欲しい」

「宿、を、置ける場所、ですかな?」


 首をかしげる里長。


「うん。ヨウキちゃんなら分かるよね? ここまで一緒に来たわけだし」

「あ……はい。確かにあの箱のほうが快適ですね。ええ。父様、裏庭がよろしいかと」

「む? まぁ、巫女姫様御一行がそれでよいなら。こちらへどうぞ」


 というわけで、今日のところは裏庭にコンテナを置いて、その中で休むこととした。

 小箱をホイポイなカプセルのようにぽいっと投げてコンテナに換えれば、どこでもお宿の完成だ。

 尚、里長は「なんと面妖な!? 都会の魔道具はすごいのぅ……これはワシらでも買える代物なのか?」とヨウキに言っていた。残念、都会でも非売品だよ。




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