生贄を出さなければいけないらしい
フードを被っている女の言うことには、その女の故郷は現在ドラゴンに襲われており、生贄を出さなければいけないらしい。
『ふむふむ。つまり……どうでもいいってことっすね!!』
「え、助けてあげたりは?」
『いやー、今の自分姐さんのペットっすから勝手に助けらんねっす! それに、ドラゴンと会話できるのが凄いって言ってたけれど、生贄を要求されたってことはそのドラゴンと
「あれ? 言われてみればそうですね」
ということは、誰かがドラゴンと交渉をしたということだ。
「あ、あの、ドラゴン様。もう少しゆっくり……」
『は? 今ディア君ちゃんと話してんだよ。ってかお前が合わせろや下等生物。潰すぞ』
「ひぃっ!?」
アーサーの単語帳さばきについていけないローブの女だったが、『潰すぞ』をトントンと不機嫌そうに指されて怯えて後ずさる。
「こらアーサー。あんまり脅さないの」
『いやぁ、ついつい』
にしし、と悪戯っ気に笑うアーサー。無論本気だが、それは言わない。
で、もちろんドラゴンの表情を読むなんて初対面のローブの女には無理だったので、彼女からしてみればアーサーが
『でもドラゴンが生贄出せとか言ったんすよね? どうせ無知な下等生物がケジメ付けるべき何かをしちゃったんじゃないっすかね。良くあるのは卵の強奪とか』
「ああ、子供産む数は制限されてるって話ですもんね。奪われたら怒るのも当然か……」
『まぁどうせ無精卵っすけど。折角だから脅して食い物でも持ってこさせるか、くらいの感じじゃないっすかね』
「え? それで人を生贄に要求するんですか?」
『いや正直自分だったら人間はちょっと……
そういうものなのか、とディアは納得する。人間ともっと美味しそうな獲物を並べたら、事情がない限り美味しそうな方を取るだろう。
「あー、その。生贄って、どういう感じで要求されてます?」
「あ、はい巫女姫様!……ええと、どういう感じ、とは?」
「実際にどのように交渉されたかの話です。場合によっては、食べ応えのあるオークや魔石の方が好まれるらしいですよ? 具体的に人間を要求されたんですか?」
ディアがそう言うと、ローブの女は目を見開いて驚いた。
「……そ、そうなのですか!? 私の里では、ドラゴン様の怒りを鎮めるためには穢れを知らぬ処女を差し出す、というしきたりのようになっていまして」
『あー、しきたりタイプ。厄介なヤツだこれ。卵泥棒の首持ってこいとか要求してたのに、とりあえず生贄差し出したからケジメついたって判定になった後、ドラゴンの意思を無視して続いちゃうやつだと思うっす』
ドラゴンからしてみれば、下等生物の顔とかよほどじゃないと覚えない。『こいつが泥棒か、じゃあケジメつけたな、ヨシ!』となるらしい。
そしてその後も卵泥棒が出るたびにケジメを求めてドラゴンが襲ってきたら、成功体験を繰り返して生贄を捧げる、がしきたりになっちゃうらしい。
『よほど卵温めるのが苦手なドラゴンがいるんすね、きっと』
「そんなに卵温めるもんなんですか?」
『無精卵で練習するんすよ。かーちゃんが言ってましたわ。つーか自分もいつか奥さんできたら交代で温めるんだから、本番に備えて練習しろって卵押し付けられて練習を……母親の卵を押し付けられるのとかマジあれなんで……盗まれても別に、ねぇ? って感じで……』
「無精卵で……ああ、それでさっき『どうせ無精卵』って言ってたんですね」
『っすわ。本物を守るダミーで無精卵一緒に温めることもあるっすけど』
命からがらドラゴンの巣から卵を盗んできても、孵化することは稀と聞いたことがあったが、そういう卵事情があるのか、と。ちょっとおもしろい話に脱線しかけた。
無理もない、目の前のローブの人の事情より、
『まぁ、なので、多分色々勘違いがあると思うっすよ』
「ふむ。ちゃんと話をしてそのあたりの勘違いをただせば、生贄はもしかしたら不要かもしれませんね」
「そうなのですか!? あ、あの、巫女姫様! ああ、どうか、どうか我らを助けてください……!!」
と、頭を下げられるディア。
さて、どうしたものか。と、考える。
「とりあえず、お姉さんに相談してみますか」
そもそも、ドラゴンと話せるのが巫女なのであれば、本当の巫女はカリーナだ。あくまでディアは、カリーナに単語帳を使えと躾けられたアーサーに合わせてもらって話をしているにすぎないのだから。
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(カクヨムコン9応募作、
『いつかお嬢様になりたい系ダンジョン配信者が本物のお嬢様になるまで』
https://kakuyomu.jp/works/16817330667768391252
が、読者選考追い込みですわー!!
今日明日くらいまでなので★ぶんなげてあげてくださいましー!!)
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