さっさと帰るんだな。お前にもかぞくがいるだろう
「――さぁ、最初の生贄は、Dランク冒険者! カリーナ・ショーニン!!!」
おっと、呼ばれた。いくぜーい。
そんなわけで私が闘技場の舞台に出てくると、すり鉢状の観客席は満席で、大いに沸き立っていた。
私は相手の後に出たのであちらの名乗りとか一切聞いてない。
けど、一番最初の試合だとはあらかじめ聞いていた。
まぁぶっつけ本番で戦うしかないね。
どうせ相手の名前聞いたところで明日には忘れるに違いないし、どうでもいいけど。
私は悠々と歩いて行って、闘技場の中央――周囲で複数のリングがあり同時進行でトーナメントが進められている中、私は中央の一番目立つリングに向かわされた。
いえーい、ディア君、アイシア、見てるー?
「にしても生贄ってひどいなー。ね、そう思わない?」
「……いつからここはダンス会場になったんだね?」
対戦相手に声をかけると、相手はのんきにそんなことを言った。
全身に傷がある、歴戦と言う感じの強そうな白狼獣人だ。
完全モフモフタイプの獣人で、その点もマシロさんと同じ感じ。
でもま、このテラリアルビーには白狼獣人がめっちゃいるらしい。それこそ、王様も白狼獣人なほどだとマシロさんから聞いた。
じゃあマシロさんも王族なんじゃね? と思ったけど、人口の5割が白狼獣人、そのうち1割が全身モフモフなんだって。だからせいぜい同じ祖先の遠い親戚くらいの話。
最大勢力だからこそ数も多いらしい。ほぼほぼ何の関係もないそうだ。
「人族の小娘よ。棄権するなら認めてやろう。……その格好で闘士としての覚悟ができているとは到底思えんしな」
「はは、ナイスジョーク。私は私の優勝に賭けた金貨82枚を背負ってるんだよ? 棄権とかするわけないでしょ。それともあんたが私に配当金の金貨820枚をプレゼントしてくれるの? あ、ファイトマネーと優勝賞金もつけてよね」
「……ほう! そうか、そうであったか。失礼した」
と、腰を落として無手で構える対戦相手。
「では、行くぞ」
「……って、審判の合図は?」
「戦いは既に始まっておるわ!!」
次の瞬間、白いモフモフが私の目の前に現れる。
うぉっと、瞬間移動したかと思った。そのまま拳が鳩尾を狙ってきたので、とりあえずそのまま受け止めておく。
「……ッ!? なんだこの感触……ッ」
「魔法だよっ」
そして私は相手の白狼の拳を掴み、ぐるんと背を向けながら腰で持ち上げて投げ飛ばした。背負い投げだぁ! 一本!!
「ぐ、ガッ……! 身体が、動か、ぬっ……」
「へへ、悪いね。ま、一回戦だしサクサク終わらせとこう」
空間魔法で相手の自由は奪っている。このまま相手は何もできず、動けないので私の勝利だ。
あ、勝利が確定したらちゃんと身体の自由は戻してあげるよ。もうしばらく固まっといてね。
……
「あれ? これもう私勝ちでいいんだよね? 審判さん?」
「え? あ、しょ、勝者……カリーナ選手……っ!?」
うん。勝ったぜ。
とはいえ、盛り上がりに欠ける戦いだったのは間違いない。心なしか会場もしーんとした気がする。
……背負い投げ一発であっさり決着とかつまらな過ぎか。私もディア君を見習ってマイクパフォーマンスでもするべきだろうか?
いや、周囲でも戦ってるわけだし、別にいいか。なんか近くのリングのやつ、こっちをガン見してて隙だらけなんだけど大丈夫なのかな。強力なライバル出現に気付いちゃった?
おっと、対戦相手の拘束を解くか。
「カハッ! な、なんだったんだ、一体ッ! 毒、ではなかったよな? 身体が全く動かなくなったぞ!」
「フッ。背中を強く打ち付けることでツボを刺激し、相手の行動を一時的に封じる特殊な投げ技さ」
「なんと……!!」
正直にネタを教えてやる必要もないので適当に言ってやると、白狼は信じたのか神妙な顔で頷いていた。
「ところで、えーっと。これ勝ったら控室戻るんでいいの?」
「……いや。この中央舞台ですぐに次の戦いを行う予定、であったな」
「ふーん。じゃあここで待てばいいんだね。ありがと。そんじゃ、敗者はさっさと帰るんだな。お前にもかぞくがいるだろう」
「……ああ」
さーて、第一試合も終わったし、次の試合に備えて屈伸とかしとこっと。
―――――――――――――――――――――――
(スタッフはこのまま進行していいのか困惑している!
第二試合の相手も戻ってきたのが獣王で困惑している!
観客もいきなりあっさり獣王が倒されて困惑している!
アイシアはドヤ顔だ!
そしてディア君は何かを察した模様)
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