おう、誰に賭けたよ?(一般獣人視点)


 『テラリアルビー・バトルトーナメント』。


 由緒正しい、三大大会のひとつにも数えられる大きな大会だ。

 この大会は『誰でも参加可能』ということもあり、国外からのエントリーも多く、参加者100人を超える巨大トーナメントとなる。


 誰でも参加できるとはいえ、大会のネームバリューもあり、参加するのは腕自慢の実力者ばかり。

 そして無名の選手が下馬評を覆して上位入賞するということもしばしばあり、賭博においても大変盛り上がるものだ。


 ――とはいえ。とはいえ、だ。

 この大会には、もちろんこの国の実力者が多数参加しており、その中の一握りである優勝候補と呼ばれるものが何人か居る。そして、ほぼ彼らが優勝を掻っ攫うのだ。



 『テラリアルビー・バトルトーナメント』の行われるコロシアム。その客席の立見席で、2人の獣人が話している。


「おう、誰に賭けたよ?」

「そりゃ我らがバルバロス様よ」


 白い狼獣人、バルバロス。

 テラリアルビーを治める国王であり、この国最強の男。

 首都テラリアワンの名前は、彼ら白狼族の鳴き声が由来だ。


 大会人気は勿論一番人気。

 優勝の常連であり、バルバロスの配当オッズは多くて1.2倍程度になる。


「だがよ、今回はバルバロス様があまりにも強すぎるってんで、ハンデみてぇなトーナメントになってんだろ?」

「それがいいんじゃねぇか! バルバロス様の活躍をドキドキしながらたっぷり拝めて、応援にも熱が入るってなもんよ」

「つってもよぉ、バルバロス様んとこだけ逆シードで20連戦とか流石になぁ」


 そう。今回はバルバロス自身の申し出により、趣向を凝らしてやたらと偏ったトーナメントになっている。

 バルバロスだけ、17連戦というハードスケジュール。その11戦目まで、相手は初戦で疲労0の状態でバルバロスと対峙する。

 バルバロスにとって10人程度は準備運動、11戦目からようやく本番だといわんばかりだ。


 しかし、いずれもこの大会に殴り込んできた実力者達である。

 さすがの獣王バルバロスでも疲労させられ、途中で敗退してしまうのではないか――と、言われていた。


「そう思うだろ? だからほれ、オッズ見てみろよ!」

「……おおっ! すげぇな、バルバロス様が3.2倍! しかも2番人気かよ!」

「1番人気はガロウ将軍だな」

「ガロウ将軍か。にしても、2.3倍かぁ。拮抗してるってことかな」

「だろうぜ」


 黒狼族のガロウ将軍。獣王バルバロスの右腕にして、ライバルでもある。

 二人が順調に勝ち進めば、バルバロスの15戦目、準々決勝であたる予定だ。


 そしておそらくそれが、実質的な決勝戦になるだろうと予想された。



「ま、さすがにバルバロス様でもこんだけの連戦となるとキツイだろ。俺はガロウ将軍に賭けるぜ」

「なんの! バルバロス様ならやってくれるに違いない!」

「ほう。んじゃ賭けるか? ガロウ将軍とバルバロス様のどっちが勝つか」

「いいぜ、負けたら今夜の1杯奢りでどうだ?」

「のった!」


 と、彼らは個人的にも賭けを決めて、ニシシと笑う。


「にしても、この10人はちぃっと可哀そうだよな」

「ああ。完全にバルバロス様の引き立て役だもんな」

「……だからかな?」

「何が?」


 ん? と首をかしげる。


「いやほら。10戦目までのバルバロス様の相手、のきなみ配当オッズが低いじゃん?」

「ああ。大体500~900倍だな」


 銀貨1枚を賭けて当たれば、金貨が5~9枚になるというとんでもない倍率だ。だが彼らはいわばバルバロスの生贄、それでむしろ納得できる。


「なのに、1戦目のヤツだけ配当オッズ10倍なんだよ」

「ハハッ。そりゃおめぇ、同情票が集まりまくったんじゃねぇの?」

「あー。特に初戦だもんな。一部ファイトマネーに還元されるんだっけ」


 言われて納得する。


「……それで8番人気ってのは逆にすげぇな!」

「まったくだな。お前も買ってやったら? 募金してやろうぜ」

「うーん、じゃあ中銅貨1枚分だけ買ってやるか」

「俺も中銅貨1枚分だけ」


 と、彼らは賭け札を購入しに行く。


「えーっと、なんて選手だ? フェイカーズのカリーナ? Dランク冒険者とかザコだろ」

「聞いたことねぇな。ま、初戦くらいは楽に勝ってもらいたいって、大会側の配慮だろうよ」




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