全部正直に言ったら王様泣いちゃうよね


 さてさて。

 返納式の準備が進むドワーフの国テッシンはさておき、怪盗ヘルメスに盗まれた偽『破城壁槌ヘパイストス』について。


 こちらはヴェーラルド前領主夫人ことマリア婆から『神器を回収したので受け取ってほしい』と連絡があった。その際いくつか悶着があったとかも。


 ……うん。その、なんだ。悶着のひとつ、神器を追う謎の男ってのは私だね。

 とりあえず、先ぶれとして手紙を送ってから、ヴェーラルドへとやってきた。

 ポスト置いてあるからすぐ行けるんだよねー、これが。


「マリア婆ー、いるー?」

「待ってたよカリちゃん。はぁ、頭が痛い事態になってるねぇ」


 部屋に入ると、お茶会の用意がされていた。

 ホストはマリア婆で、露出が少なく部屋着なドレスを着ている。布と同じ色の糸で刺繍がたっぷり入っているのが格調高く、お貴族様だ、と一目で分かる。


 まぁテーブルに片肘ついてちょいちょい手招きしてるあたり、気安いけど。


 風呂友達フロメイトのおばちゃん侍女が椅子を引いてくれたので、「どもっす」と軽く挨拶して座る。


「いやー、ごめんね。丁度私もテッシンで色々しててさぁ」

「手紙にあった返納式だっけ? まぁ、私らでいろいろ落し処を探ろうじゃないか」


 うん、軽く事情を手紙で話したところ、落し処を探ることになった。


 王様とかにも面子とか事情があるわけだし。わざわざあんな治安の悪そうなところに本人が行くとか覚悟もあっただろう。

 それが全部私の連絡不足によるポカとかさぁ……しかも手に入れたのが偽物だぜ?


 全部正直に言ったら王様泣いちゃうよね。すげー良い人っぽいのに。



「あ、ミーちゃんも同席したほうが良い? 呼ぶ?」

「……まってくれ。そのミーちゃんってのは誰だい?」

「えっと……ドワーフの子だよ。本名なんつったっけかな……あー、まぁ、女王?」

「バーミリオン様かい!? ふざけんじゃないよ、流石に不敬が過ぎるだろ!?」


 動揺してカチャッと小さく茶器を鳴らすマリア婆。

 驚き方が上品だわ、多分私だったら紅茶噴いてるね。


「いやー、マリア婆とお風呂で知り合ったじゃん? 同じように知らなかったけど現地妻にしちゃってぇ。だから呼べばすぐ来るよ。大丈夫いい子だから」

「やめとくれ、胃が削れる。現地妻? 何したんだい……いやいい、言わなくていい。あー、眩暈がするわ」


 そう言って目元を押さえるマリア婆。

 なんかゴメンね。いやホント悪いと思ってるよ、少しだけ。


「まぁ、私に全部任せるって言ってたし、別にいいか」

「おいそりゃ全権大使ってことじゃないか。責任重大だね……」


 ともあれ、改めて状況を共有する。

 次の週末に『神器返納式』を行う事。テッシンにあるのが本物で、ヘルメスには偽物を盗ませた事。ミーちゃんが可愛い事。ディア君が天使なこと。あと新しくドラゴンとスライムを飼い始めた事。まぁ後半はほぼ雑談だったが。


「……もう驚かないって思っても次々出てくるねぇ」

「あはは、楽しい毎日だよ。神様に感謝ってね」


 マリア婆からは雑談ついでにディア君のお姉さん、クミンさんが色々ゴタついていることを聞けた。そういやまだ荷物預かりっ放しだものなぁ。


 ずず、とお茶を飲み、お茶請けのビスケットを食べる。

 ほんのりした甘さが口に広がった。うまー。……チーズとか挟んで食べたいかもコレ。


「偽神器については、本物って体裁ていで受け取ってもらえると助かるんだが。ついでにそのあたりは秘密裏に、公な形にはしたくないんだ。王が盗ませたってのも問題だしね」

「じゃあヒーラーの格好して出向くよ。あ、神器を追う謎の男ね、私の変装だから」

「やっぱりかい」


 おう。完璧な変装だと思ってたのに、マリア婆には話を聞いただけでバレてたか。


「手紙貰った時点で分かったんだよ。まぁ他に近衛兵の守護を完璧にすり抜けて部屋を出入りするような存在なくせにどこかおっちょこちょいな奴を知らないってのもあるが」

「フッ、私が凄すぎたのが決め手かな?」

「結局何しに来たんだか分からなかった、とキング様は仰ってたね」


 うん、本当はあの場で回収しようと思ってたけどうっかり忘れてたんだ。ゴメンて。


「あと、『泥棒はよくない』とか言ったんだって? キング様がいたく気にしていてね。あれはもしや神の使いだったのではないか、天罰が下るのでは、と」

「うん言ったね。言った」


 自分の事を棚に上げて言ったからよく覚えている。


「こう、神器の受け渡しの時に『褒美として今回だけは許す』とか言ってやってくれないか? 私からカリちゃんに何かお礼するからさ」

「オッケー、別にいいよ。あ、じゃあこのお茶菓子包んでもらえる? ビスケットとか絶対みんな喜ぶよ。チーズもあるといいな、挟んで食べたらお酒にも合うからミーちゃん達も喜ぶと思うし」

「……ったく、お人よしだねぇ。新品を缶でやるよ、好きなだけもってきな」


 おー、太っ腹! さすが前領主夫人だね! あんがとー!

 いやー、丸く収まりそうでよかったよかった。さすがマリア婆。



――――――――――――――――

(ビスケット数缶と引き換えに王様とカリーナちゃんに恩を売りまくるマリア婆。すごい手腕だ……!)


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あと2巻以降が出るためにもこの小説を拡散・紹介してくれると嬉しいです。

何、どうすればいいかって?


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