軽く釘をさす簡単なお仕事です。
改めて王様から神器を受け取ることになった。
マリア婆がポストを城に持って行ってくれるので、私はヒーラーに変装して合図待ち。
合図をもらったら王様から神器を受け取り、ついでに「今回は許すけど、人から盗むなよ」と軽く釘をさす簡単なお仕事です。
……お、合図の札がポストに投函されてきた。じゃあ行ってきまーす。
* * *
窓はないものの、それなりに豪華な部屋。王城の隠し部屋らしい。
そこにいたのは、私以外には3人。
一人はマリア婆。お貴族様モードのシックなドレスだ。先日お茶会したときよりフォーマルな感じで、祭壇に置かれたポストの隣に立っている。
一人は王様。王冠を被り、赤いマントを身にまとったいかにも王様という格好のまま、祭壇に、というか私に向かって跪いている。
最後の一人は先日も見た護衛の大男。こちらも青い鎧を着て、王様の斜め後ろに控えつつ跪いている。
「……
マリア婆との打ち合わせ通りにセリフを言うと、王様が顔を上げ
……えっと、これからどうすんだっけ? とマリア婆を見る。
「使者様。こちらは我が国の王、キング・パヴェルカント三世にございます」
「う、うむ。先日会ったな。あまり話が出来ずすまなかった」
「いえ! 使者様、こちらこそ先日はとんだご無礼を」
そう言って再び頭を下げる王様。
ご無礼? なんかあったっけ……むしろこっちがご無礼しまくった記憶しかない。
「使者様、こちらの近衛騎士団長、ゴウェイが剣を向けたそうで」
あれ、剣抜いてなかったよね? 柄に手をかけてた程度じゃん?
「そんな事あったか? 職務に忠実な良い臣下だとしか記憶にないな、大事にせよ」
「は、ははぁ! ありがとうございます使者様」
祭壇から延びる赤い絨毯の上とはいえ、床に頭が付く勢いで頭を下げていく王様と護衛の人。
ってか、私超偉そう。気まずいよぅー。
マリア婆、これでいいんだよね? 私超偉そうにしておけって言われたけども!
「陛下、使徒様が困惑しておりますので、そのくらいで」
「はっ」
改めて顔を上げる王様。
「使者様のお時間を頂戴するのも心苦しいので、早速神器の方を」
「はい。ゴウェイ」
「はっ」
そう言うと護衛の大男――近衛騎士団長は小さな袋から神器『
それはまずマリア婆に渡され。そしてそれを
「確かに預かった。――ああそうだ。神器返納の褒美として、今回だけは泥棒をしたことを許す。我の伝達不足もあったのでな。テッシンには我から話を通しておく」
「……はっ! ありがとう存じます!」
どこかホッとした顔になる王様。
「改めて伝えると……
「そ、そうでしたか。早合点を……」
「マリアば、げふん。マリアベルよ。その点、誤解させてしまったようだな」
「大変申し訳ありません。私の落ち度でございます」
「よい。こうしてひとつ神器を手にできたのだからな」
と、私はここで空間魔法で天井に穴を開く。
その先は『やたら発光して眩しい空間』。そして、偽神器を空間魔法でふわりとそこに仕舞った。
「おぉ……これが、神の御業……!」
実はこれ、神器返納式のためにミーちゃん達と検討中の演出である。
王様がこれほど感動してるし正式採用してよさそうだなぁ。
「そうだ、折角だしついでに貴殿の身体の不調も少し治してやろう」
「え?」
と、私は祭壇をよっこいせと降りて、王様の頭にちょんと手を触れる。
マッサージLv5ならこのくらいの接触でも十分に効果があるのだ、さぁ肩こりを解消してやるぜ!
ってか体内がボロボロ。王様ともなるとそこらへん大変なんだね。ストレスで胃が……
……胃ガンだこれ。えいスキャン。……んんー、転移はしてないな。じゃ、ついでだし空間魔法で摘出。空いたトコは適当に整えコピペして詰め。
手足生やすより楽でいいね!
「こ、これは……身体が軽く……臓腑の痛みが、消えた……!?」
「うむ。なにやら病気だったようだな。病巣があったので取り除いておいた」
「あり、がとうございます……使者様……!」
ポロポロと涙を零す王様。
どういたしまして。お仕事大変だろうけど頑張ってねー。
「では我は帰る。仕事もほどほどにな」
「使者様の御帰りです」
マリア婆が『一体何したんだい!?』と目で言ってきた。王様が泣いて見えないのをいいことに凄い顔。
ええと、治しちゃまずかった? こりゃあとで反省会かなぁー……バックレちゃだめ?
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