棚に上げておく



「……とりあえず、泥棒はよくない」


 私はそう言った。自分も泥棒しようとしていたことは棚に上げておく。


「うむ。しかしやむを得ない事情があるのだ」

「旦那」

「ヘルメス。ゴウェイ。よい。下がってくれ」


 そう言うと護衛の大男はスッと退く。命令に忠実だな。


 旦那と呼ばれた妙に威厳のある男は、私に向かって話し始める。


「……錬金王国は知っているか?」

「む? ああ。知っているぞ」

「滅んだ。神の怒りに触れてな」


 あ、うん。それも知ってる。っていうかやったの私。


「そして神は使徒様をこの世界に遣わせた。報告があったのはヴェーラルドだ」

「……む?」

「前領主夫人、マリアベル殿が接触に成功した」


 あ、うん。……なーんかどっかで聞いたことあるなぁー?


「証拠も確認している。海賊ゴメス。その拠点および神器『ポセイドン』の消失。拠点跡地は地下まで綺麗に切り取られていた。人の手ではあり得ないほど精緻に」

「お、おう」


 あ、うん。間違いねぇわ、これ私のことだわ。


「そして、使徒様は仰ったそうだ。神器を捧げよ、さもなくば、10年後にこの世界は滅ぶだろう、と」

「ちょっとまって?」


 微妙にニュアンス違ってるよ!! 思わずちょっと素が出ちゃったよ!


 あー、そういやマリア婆、上に報告するって言ってたっけ。それか。

 ん? じゃあもしかしてこの人、国のお偉いさん……ってコト?


「ゲフンッ!……あー、おぬし、何者だ? ただの泥棒の雇い主ではあるまい?」

「それはこちらも聞きたい。表に立っていた護衛は生きているか?」

「そちらは無事だ。怪我一つないし、命も保証しよう」

「ほう。あのコノエが音もなく、それも無傷で制圧されたか。恐ろしい実力者よ……」


 別に倒してないからね。まるっきり無視してこの部屋入ってきたからね。

 むしろいたのか、気付かなかったってレベルよ。


「ではこちらから名乗ろう。余はキング・パヴェルカント三世。パヴェルカント王国国王である」


 王じゃん! うわ、王じゃん!! どーりで威厳たっぷりなわけだよ!

 え、じゃあもしかしてそっちの護衛は近衛兵ってこと?

 うわすっげぇ、ガチガチの公務員じゃん。超エリートじゃん!!


「……その、若干の誤解があったようだ」

「誤解?」

「あー、いや、こちらの話だ」


 王様はまだ話そうと口を開く。


「まぁ、いきなりこのようなことを言われても信じられぬだろうが……真実なのだ」

「う、うむっ! この話は全面的に信じよう。ではサラバ」

「む? あ、話はまだ途中――」


 私は逃げるようにそそくさとその場を立ち去った。

 いや実際に逃げた。


 拠点に逃げ帰った。


 そして、私は自分の部屋に戻るなり、ベッドにダイブしてうつ伏せで足をバタバタさせた。



 ――原因、私じゃん!!


 神器狙われた原因が私だし、それを阻止したのも私!

 とんだマッチポンプじゃん!! 何も気付かず踊らされていた道化だよぉ!?


 恥ずかしかッ! おいどん恥ずかしくてあの場にいられんかったワッ!



 ってか、神様これ絶対お腹抱えて笑ってるヤツでしょ!?

 分かってんだからね畜生ーーー!!



 ぐぉぉ、ミーちゃんに申し開きできねぇ……!

 ……あとでマリア婆に文句の手紙書かなきゃ。もー!



 あ、やっべ。偽『破城壁槌ヘパイストス』の回収し忘れてた。


 ……

 ……

 ……知らんっ! もう知らーーーーん!! 私は寝るッ!!!!



――――――――――――――――――――

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