くっそ、アンタみてぇなお人よし、見捨てられるかよ!


 とりあえず『破城壁槌ヘパイストス』は返却。

 私達は見事ヘルメスから神器を守り切って、ミーちゃんから「ありがとう、大好き!」とほっぺにチューしてもらったのである。えへへ。


 あ、他にも報酬をくれるとか言ってたんだけどね、そのね。

 私達も『破城壁槌ヘパイストス』狙ってるから、受け取り難くて辞退したというね。


 ……いや、受け取れないって! 無理無理!

 それ受け取っちゃったら私どんな顔してミーちゃんとキャッキャウフフすればいいの!? ってなるもん!!


「で、ディア君。なんで模造品を作らせたの?」

「もう1個作ってもらうための予行演習になるかと思いまして」


 ディア君に疑問に思っていたことを尋ねると、そんな答えが返ってきた。


「もう1個? どうして?」

「こちらの事情を改めて正直に話して、今置いてある『破城壁槌ヘパイストス』は、神様に返納していただく、という方向で話をまとめられたらな、と思ってます」

「神様に返納」


 確かに私からしたら神様に納品する感じだけど、この世界の人にとっては返納に当たるな。


「で、返納したら展示が寂しくなりますよね? だから模造品を飾ってはどうかと」

「あー。展示でレプリカを置くのって結構あるもんねぇ。なるほど」

「え、そうなんですか? あ、言われてみればその方がいい面も色々ありますね」

「……知らないで思いついたの? すっげぇ」


 やっぱディア君天才じゃね? 自慢の子だよ。


「もちろん、お姉さんが正体を隠したいとか、ヒーラー氏を使っても神様との繋がりを話すのは嫌だというならまた話は別ですが」

「やー、うん、良いんじゃないかな喋っちゃって。私で。ミーちゃんなら信用できるし」


 っていうかミーちゃん現地妻だし。

 ドワーフの国から拠点に通じるドアもあれば便利だし、言わない理由がないな。


「お姉さんならそう言うと思いました。では交渉ですね。流石に時間がかかると思いますが……」

「ま、急ぐ旅でもないしね。じっくり説得しようか」



 じゃ、そのためにも盗まれた偽の『破城壁槌ヘパイストス』を確認しにいきますかねーっと。

 ……おお? なんと怪盗ヘルメス、もう国外。それもパヴェルカント王国へと逃亡しているじゃないの。


 メッチャ足早いね。某ゲームにおいてその名を冠する靴に速度二倍で走れる効果がついてるだけのことはある。どんな魔法使ったんだろ? 魔道具かな?

 ま、空間魔法には及ばないだろうけど。



 ……お、しかも丁度引き渡し現場っぽいな。折角だしヒーラー氏に化けて乱入しよっと。なんか最近ヒーラー氏の出番あんまりなかったし!


  * * *


 と、いうわけでなにやらスラムっぽいところ。

 まさかこんなところで神器の引き渡しが行われるとは思うまい。


 そう連中も思っていたのだろう、ヒーラーが現れた時、ぎょっとした顔をしていた。


「な、なんだお前。どこから現れた?」


 顔を覆面で隠している怪盗ヘルメスは、大声を上げることなくそっとナイフを構える。

 受け取り相手の方は護衛と思われる大男が音もなく間に割り入った。剣の柄に手をかけている。


 ……相当訓練されているな、多分。よくわからんけど。そんな感じがする。

 この腕前ならまっとうな仕事もあるだろうに、泥棒とその片棒とはね。


「何、『破城壁槌ヘパイストス』を盗んだのが何者かを調べておこうと思ってな」


 私はそう簡潔に要件を告げた。


「ッ! お、おいアンタ、俺ぁもう仕事は終わった。交渉するならそっちの旦那とやってくれ」

「ほう?」


 両手を挙げて、あっさりと依頼人を売る怪盗ヘルメス。

 一方で『旦那』と呼ばれた男は堂々とこちらを見ていた。

 うわ、絶対お偉いさんだ。威厳感じるもん。


「くっ……ヘルメス。貴殿は確かに神器を持ってきてくれた。報酬は約束通り手配しているから我々がここで死んでも問題ない。……ここから先は我々だけで対応しよう」

「マジかよ。……くっそ、アンタみてぇなお人よし、見捨てられるかよ!」

「物好きだな」

「う、うるせぇ! アンタらがいれば、この国はマシになると思っただけだ!」


 そういってヘルメスは改めて私に向かって敵意を向ける。

 護衛の大男もフッとニヒルな笑いでヘルメスにこたえて、私を倒す気満々だ。



 ……えー、何。なんか私が悪者みたいじゃん。泥棒したのはそっちなのに。





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