ただの安全装置だよ


 ドラゴンの名前はアーサーに決まった。

 なんか過去の英雄の名前らしい。私にはペンドラゴンな感じに聞こえるけど、これって意訳されてたりするんだろうか? まぁいいや。


「良い名前もらえて良かったねアーサー君」

『いやー、どうもどうも! にしてもディア君ちゃん可愛いっすね! 背中に乗せてあげたら大喜びで!』

「やっぱり男の子はドラゴンとか好きなモンなんよな。強くてかっこいいし」

『ハハハ、姐さんには敵いませんって……って、男の子? え? ディア君ちゃん雄なんすか!? みえねー!』


 アーサー君はディア君を二度見してた。


「ちなみに私がつけたら次の候補はタマだったからな。ディア君には感謝するように」

『うっす! ディア君ちゃん、あざーーーっす!!』


 ディア君に向かって単語帳の「ありがとう」のページを開いてぶんぶんと振るアーサー君。

 心底喜んでいるな。うんうん、それでいいのだ。


『あー、ディア君ちゃんが雄でもイケる気がしてきた。馬車より全然アリっていうか、尻尾にまたがってほしいっていうか』

「ディア君に手ぇ出したら晩飯がドラゴンハートてめぇの心臓の生け作りになるが?」

『ひぃ! すんませんすんません! 姐さんのツガイを取るわけないじゃないっすかぁ! 可愛いペットの戯言っす!』


 い、いや、ツガイじゃねーし。そういう意味じゃねーし。

 となんか照れていると、お風呂上がりのマシロさんが声をかけてきた。


「おいカリーナ、アーサーはなんて言ってんだ?」

「なんでもない雑談だよ。……マシロさん大丈夫? さっきまですごく警戒してたみたいだけど」

「当たり前だろ、ドラゴンだぞドラゴン! 常識を考えろ――って、お前に言っても今更か。はぁー」


 なんだよぅ、私に常識がないみたいに。その通りだけど。


「あ、そうだ。そろそろロゼッタの町に着くんじゃねぇのか? 町中で出してやるなよ」

「あー、うーん。門での顔見せは必要だろうし、騎獣置き場につないどく感じでいいのかな?」

『えー、自分、姐さんについていきたいっす』


 単語帳の「不満」のページを開いて掲げるアーサー君。

 無茶言うなよ君ドラゴンやぞ。


『ドラゴンより物騒な姐さんが普通に入れるのに不公平っす!』

「いっそ人に変身とかできないの? そういう魔法とか」

『ないっすね。まぁニンゲンとの子供を作ったドラゴンとかはいるんでそれが転じたデマじゃないっすか?……あー、ファフニール派閥ならあるいはっすけど』


 魔法とか呪いとかを探求するのが大好きなドラゴン派閥らしい。

 が、少なくともアーサー君が人に変身できないのは確定のようだ。


「ま、絶対目立つし町中は連れて歩けないよ。それとも見世物にしてパレードする?」

『あ、でも小型化のスキルならあるんで! ウルフくらいのサイズにはなれるっすから、それでどうにか!』

「あ、そうなの? ちょっとやってみてよ」

『ウッス 小型化!』


 しゅぽんっと小さくなるアーサー君。元が馬車サイズだったのに対し、今は中型犬くらいのサイズになった。

 そして単語帳がぽてりと床に落ちた。小型化が有効なのは本体だけらしい。


「これならまぁギリギリ連れて歩けるかな? あとはペットらしく首輪つけとくか」

「お、そりゃいいな、従魔っぽさが出る。というか、せめてテイマーとして登録しとけよ? ヒーラーの方でもいいからよ」

『自分、首輪なくても別に逃げたりしないっすよ?』

「ん? 何言ってんのアーサー君。これは勝手に元のサイズに戻ったら首が絞まって死ぬだけというただの安全装置だよ」

『げぇ!? 姐さん容赦ねぇー! でもそこが素敵っす!』


 これを着ける自信があるなら、まぁ同行を認めてやらんでもない。もちろん、門で連れてく許可がでたらだけど。

 そう伝えると、アーサー君は割と素直に首輪を受け入れた。


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