口裏あわせてよ。ねっ!
やってきました冒険者ギルド。
厚着して色々怪しい魔法使い、ヒーラー氏の姿である。アイシアに頼まずとも厚着して顔隠すだけなので簡単に用意できるのだ。
「……なぁ、昨日扉番や門番にも見られてただろ? 今更姿隠して意味あんのか?」
「あっ」
そこに気が付くとは、天才かマシロさんや。
「オイ、今の『あっ』ってなんだよ」
「いや、昨日の姿は魔法で変装してただけでこっちが大魔法使いの真の姿だから」
「怪しすぎんだろお前」
「口裏あわせてよ。ねっ! ただの美少女じゃ舐められるしさ」
「まぁいいけどよぉ……変装する魔法なんてあんのか?」
ふむ。確かに他の姿に変身して見せろと言われたらちょっと厄介かもしれない。
……髪の毛の色とかを変えるくらいならいけるかな。
「マシロさん、ちょっと失礼」
「ん? なんだよ――うおっ!?」
私が空間魔法を展開すると、マシロさんの毛が白銀から漆黒へと変色した。
よし、成功だ。
「な、なんだこりゃ!」
「変装する魔法だよ。どう?」
「いきなり変な魔法かけんじゃねぇよ! 戻るんだろうなこれ」
まぁ光の反射をただ遮ってるだけだからね。自分にかけなかったのは、色を黒くする方が簡単だからである……でも全身の毛に対して魔法を展開し続けるのは結構キツイかったので、私はすぐに魔法を解除した。
「お、戻った」
「よし、これで準備は万端! いくよ、ギルドに!」
と、私は自分の声をヒーラー氏のしゃがれ声に変えて言った。
「へぇ、声色もそんな変えられんのか、芸達者だなカリーナ」
……もうちょい驚いてくれてよかったんだよ? 突然変えたんだし。
え、体毛の色変えられる方が驚く? それもそうか。
さて、そんなわけでマシロさんに付いてギルドの中へ。荷物を納品した時とダンジョンの成果を買い取ってもらったのとで既に何度か訪れているので、4度目かな。
マシロさんは当然迷わずカウンターに向かい、「例の件だ、奥へいくぞ」と受付嬢さんに囁いた。受付嬢さんは顔を真っ赤にして頷く。うんうん、分かるよ。マシロさんの声カッコ良くて心地いいんだよねぇ……
あからさまに怪しいヒーラー氏の風体に視線を集めつつも、マシロさんと受付嬢さんに先導されゆっくりと大物っぽく付いていく形でギルドの奥へ。応接室へと通された。
応接室で少し待つと、いかつく傷だらけの男が現れた。ライオンの鬣みたいな赤髪と髭であるが、人族らしい。カルカッサの冒険者ギルドマスターだ。
「白銀。その方が例のカリーナって大魔法使い、なのか?」
「ああ。昨日言ったカリーナって名前は、変装時の偽名らしい」
「うむ。昨日は我が友、カリーナの名と姿を使っていたのでな。ややこしくてすまん」
といいつつも、不遜な態度で頭は下げない。どうだ大魔法使いっぽいだろう。
「それとダンジョンの決まり事を知らず、トレントを狩ってしまったのも謝罪しておく。詫びと言ってはなんだが、これを渡そう」
先手を取って謝っておく。そして、ブラックマンティスの鎌をテーブルに置いた。
2つあるし、1つは上げてもいいよね。こっちは砕けてるし。
「これは……ま、間違いなくブラックマンティスの鎌! あ、いや、謝罪の方は受け入れよう。と、挨拶が遅れたが、俺はカルカッサの冒険者ギルドマスター、ガルオーンだ」
「うむ。ヒーラーだ」
がっちりと握手を交わす。尚、手袋の下では空間魔法で水増しして男らしい大きな手であるかのようにしている。ふはは、性別不詳のヒーラー氏ですぜ。
「あー、その。ヒーラー殿。このような物をもらってさらに不躾だとは思うのだが、状況が落ち着くまで協力を願えないだろうか?」
「うむ。昨日マシロさん――ごほん。マシロ殿にも告げたが、もとよりそのつもりだ」
私も知らずにトレント狩っちゃったし、もしまたすぐにブラックマンティスやもっと強い魔物が湧いてきたら私のせいだ。
というわけで、状況が落ち着くまでくらいのアフターケアはちゃんとしておく次第。これで誰か死んだら寝覚めがわるいからね。
「報酬も特に要らぬ、此度の件は我が原因であるしな」
私がそう言うと、ガルオーンは安堵のため息を零した。
やっぱお金は不安要素だったよね。ごめんねー、流石にマッチポンプでお金取る気はないから許してちょ。
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