高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変に対応する


 いやー、複乳だったんだねマシロさん……膨らんでるのは一番上だけだったけど。

 あれだ、男の乳首みたいな。何でついてるか分からない存在らしいね。2番目以降。

 まぁ朝起きたらその3番目のを吸ってたわけだけど。寝ぼけて。

 朝に「起きたか」と聞かれて「ハイ」と答えたらゴチンと殴られたのはここだけの話。


「アタシの事をここまで好き勝手したのはカリーナが初めてだよ。ったく」

「ごめーん」


 ちなみにマシロさんのおうちに泊まると決まって即収納空間内のディア君に連絡いれておいたので無断外泊ではない。アイシアに用意してもらっていた晩ご飯については時間停止保管庫に入れてもらっているはずなので今夜食べる所存。


 ちなみにマシロさんはこのカルカッサに住居を持っていた。土魔法で作ったらしい四角い土壁の建物だったが、魔道具もあり火や水は問題なく使える様子。トイレも当然スカベンジャースライムなので問題なしだ。


「マシロさん、カルカッサには長く住んでる感じ?」

「ん? あー、かれこれ5年はいるぜ。なんだかんだ獣人が多くて居心地いいんだよ。アタシみたいな毛むくじゃらな奴は、この国の他の町だと結構浮くしさ」


 カルカッサは獣人の国との国境が近いらしく、分かりやすい獣人が多いんだとか。


「獣人の国! そういうのもあるのか。詳しく聞かせてよ」

「いいぜ。とはいっても、ここから一番近い獣人の国は小国だけどな」


 獣人の国も、他の種族の国と同様に複数あるらしい。言われてみりゃそりゃそうだ、人間の国だけ複数あるとかあり得ないもんな。

 で、ここから一番近いその国、テラリアルビーは獣王バルバロスが治める国。

 小国だが、首都にはコロシアムがあり観光客も多いらしい。


「コロシアムかぁ」

「テイムした魔物と戦うこともあったぜ。ありゃ楽しかった」

「あ、その言い方。マシロさん出たことあるんだ?」

「おう。こう見えて大会で優勝したこともある。小さいやつだったけどな」


 にしし、と得意げに笑うマシロさん。ワイルド可愛い。


「私も出てみようかな、なんかこう、トーナメント的な?」

「おう、そんときゃお前に全額賭けるから声かけてくれ」

「きゃっ、私のこと信じてくれるんだね! マシロさん可愛い!」

「お前に誰が勝てるってんだ?」

「あらやだ、こんなか弱そうな女の子を捕まえて」

「か弱い女の子はダンジョンボスを瞬殺しねぇよ?」


 それはそう。


「あ、それで思い出した。カリーナをギルドまで連れてこいとか言われてたんだよ」

「えー面倒くさい」

「仕方ねぇだろ、トレント大伐採してブラックマンティスとミスリルデビルを始末した奴だぞ? つーか、先手取って顔出さねーと名前で確認されると思うけどそこんとこどうなんだよ、大丈夫か?」


 おっと。この世界のギルド、案外ハイテクで管理がしっかりしてるの忘れてた。

 カリーナちゃんの名前で照会されたら『カルカッサにいるカリーナ』として紐づいてしまうところ。


「名前言っていいって言っちゃったのは早計だったなぁ」

「おい、もしかしてカリーナって偽名でもなんでもなく本名なのか?」

「あ、そうか。偽名だったことにしちゃえばいいのか。ふふふん」


 ここはヒーラーの出番かもしれない。まぁこのためだけにアイシアを改造するのは面倒だし、今回は私が変装すればいいか。


 仮に冒険者ギルドから後々カリーナちゃんに問い詰められても、『確かにカリーナは私ですけど……え、ブラックマンティス? 何のことですか、私タダのEランク冒険者です! そんなことできると思いますか?』と、言い張れば解決である。よし!


「なぁカリーナ。私の勘なんだが、浅はかな事考えたりしてないか?」

「浅はかだなんてそんな。私の天才的知略を舐めないで欲しいね」

「……んで、どーするって? 大魔法使い様よ」

「偽名だったことにして、高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変に対応するのだよ」

「えーっと。つまり?」

「いきあたりばったりの場当たり対応!」


 私がそういうと、マシロさんは「マジかコイツ」とうろんげな目を向けてきた。


「冗談だよ、冗談」

「ホントかよ。アタシが言うのもなんだが、もうちょっと真面目に生きたほうが良いぜ?」

「マシロさんが可愛くてついからかっちゃっただけだって。ホントはもうちょい考えてるって」

「……頼むぜカリーナ、アタシの正気が疑われちまうからよ」


 とりあえずギルドは一緒に行くよ。あ、ヒーラーに変装はするけどね。


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