え? 送り狼?
マシロさんと別れて宿に戻る。
別に転移魔法を使って拠点に戻ってもいいんだが、せっかくここまで来たので歩いて帰ろうといった次第。
しっかし、せっかく神器を見つけたものの、手に入れることはできなかった。残念。
流石に町を一つ壊滅させるような事はできないもんなー。カリーナちゃん、こう見えて平和主義なんだぜ?
というわけで、別の神器を何か探したい所存。マリア婆から情報は貰えるけど、私は私で探したほうが良いのかもしれない。
でもぶっちゃけマリア婆より詳しく調べられる気がしない。マリア婆は前領主夫人のお偉いさんで、いろんな伝手があるもの。空間魔法の使い手の私よりよっぽど手広く噂は耳に入ってくるだろう。
そんなことを考えながら適当に歩いてたところ、周囲がなにやら騒がしい事に気が付いた。なにやら喧嘩をしている様子。えー何何? 私も野次馬するー。
「てめぇ、ウチの娘に手ぇ出そうたぁふてえ奴だ! おら!」
「うっせー! 義父さん、娘さんを俺に下さい!」
「やるかボケぇ!! 俺を倒してからほざけ、雑魚が!」
おー、求婚の儀式か。いいねぇ!
酒場のオヤジ的な全身モフモフなトラのおっさんと、熊耳のムキッとした冒険者風の男が殴りあっていた。獣人バトルである。いいぞ。
一応言っておくと求婚してる方が熊耳冒険者。
あ、どっちが勝つか賭けもやってんの? 私はモフモフが好きなのでおっさんの方に賭けよう。一口ちょーだい。
「父さん! そこ! ベリーもガンバれ! さぁ、どっちが勝つか張った張った! 二人とも、もう少しで締め切るからそれまではどっちも倒れないでね!」
そして取り合いになっているトラ耳の娘さんが賭けの胴元のようである。
賭けに勝ったら一口につき一杯お酒が飲めるそうな。どちらにせよ売上じゃん、逞しい。
「カーシャ! だから毎度言ってるが父親を賭けの対象にするんじゃない!」
「ははは、俺はカーシャが言うならそれまでは手加減しておくぜ!」
「は? てめ、舐めてんじゃねぇぞおらぁ!」
トラおっさんの一撃が熊耳の顎を捉え、熊男は殴り飛ばされた。
「がははは! 俺様相手に手加減なんて百年早いわ!」
「う、うぐぐ……」
熊耳男、ダウン!……ワン、ツー、スリー! カンカンカン! 決着!
「ねぇ、こういうのって日常茶飯事だったりする?」
「ああ、わりと。ここなんかは求婚があるたびおやっさんに防衛されてるよ」
ふぅん。元気なことだねぇ。というか、そんなに求婚されてんのか。モテモテじゃんあの子。
ともあれ賭けに勝った私は、酒場で酒を一杯御馳走になった。ひっく。
* * *
「あれ、カリーナじゃねぇか。なんだ、飲んでんのか?」
「ふぇ? マシロさんだぁ。やっほー!」
ふわふわとお散歩してたら、マシロさんに声をかけられた。
「ったく、こっちは色々忙しいってのに暢気なもんだ。ああ、爆弾については明日には詳しいやつが調べてくれるらしいぜ」
「そーなのかー」
「完全に酔っぱらってんなぁコレ。……大丈夫か?」
「だいじょーぶだいじょーぶ、私さいきょー、むてき、きょーじん……あれ? 順番間違えたかな……とにかくだいじょーぶぅ」
「ダメそうだな。おい、宿はどっちだ? 送ってってやるよ」
「え? 送り狼? 狼獣人なだけに? えへへ」
と、肩を貸してくれるマシロさん。
あれ、でもマシロさんは冒険者カリーナちゃんとは紐づけてないんだよなぁ。
ってことは、このまま宿帰ったらダメじゃん?
「今夜は泊めて……?」
「あん? べつにいいけど」
「やったぁ! 今夜はマシロさんをモフモフして寝るぞぉ!」
「それは勘弁してくれと言いたいとこなんだが……ま、いいか」
かくして私は、マシロさんのおうちで一晩過ごした。ひっく。
翌朝、朝いちばんにマシロさんに土下座することになったのは言うまでもない。
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