あれがコアかな


 ダンジョンから地上に戻ったら知り合いの靴下を回収してくれるとのことで、連絡先を交換することになった。

 とはいえ、Eランク冒険者や新人商人としての身分証は流石に出せない。今の私は大魔法使いカリーナちゃんなので。仕方ないので、空間魔法を使うことにした。


 そこら辺の石を拾って、じゃりっと勾玉の形に加工。穴に革ひもを通して空間魔法をちょちょいとかけまして、通信機なペンダントの完成だ。


「はいこれ。この石が通信機になってるから、これに話しかけてくれれば飛んでくよ」

「ツーシンキ?」


 あ、そこからか。


「ほら、風の魔法で離れたところに声届けるやつあるじゃん? あんな感じで私に声が届くの。試しに話しかけてみて。調整するから小声でお願いね、大きな音はカットするけど」

「おう。……んん、あー、カリーナ?」

「おひょうっ」


 ささやき声が私の耳元に炸裂した。ASMRかよぉッ!

 耳に心地よくゾクゾクしちゃう音声作品だよぉッ!


「な、なんだ急に変な声出して」

「調整ミスったんだよ……いやこれはこれで。とりあえず身に着けてみて」

「おう。こんな感じか?」


 と、マシロさんは私が作ったペンダントを首に下げた。もふっとした毛のふわふわな谷間に挟まる石の勾玉。

 ドクン、ドクンと心音が聞こえる。……心音ASMRもいいな。咀嚼音とかも響いてきそうだ。うん、流石にマズいな。プライバシーが。


「……このままだと声とかいろんな音が私に筒抜けになっちゃうな。短く2回突っついたら声が届くようにしておくね」

「ああうん。まぁ早めに返すわ」

「そうして。あ、ブラックマンティスがまた出たりしたら呼ぶのに使ってもいいよ」

「あー……それは確かにあり得るな。ブラックマンティスが一週間たたずに退治されたのは初めてだから、何が起こるか分かんねぇもん」


 さらに言えばミスリルデビルの討伐は初らしい。ますますどうなるかわからないそうな。うーん、これは一週間くらい私もダンジョンから離れられそうにない……

 ……って、私の場合転移すればどこにいても一緒か。呼び出しに備えるくらいでよさそうだな。


  * * *


 で、その後ダンジョンのことについて更に詳しく教えてもらうことになった。


「ってことだ。他のダンジョンではまた別のルールがあるだろうが、ここでやっちゃいけねぇ事は分かったな?……もう色々と遅いけどよ」

「うん、まぁ、追加で言うとこの奥にあるダンジョンボスを倒すのはOKで、その先のコアは触っちゃダメなんだよね。分かった分かった」

「触ろうったって結界が張ってあって触れねぇんだけどな」


 言われなかったら空間魔法でぶち破ったりスルーしたりして触りに行ってたかもしれないな。


「よし、折角だ。コアを拝んで来ようぜ」

「え、大丈夫? ダンジョンボスって強いんでしょ?」

「ブラックマンティスのが十倍強ぇよ。おら、いくぞカリーナ」


 そう言って私を立たせ、先導するマシロさん。


「えー、ひとりで行けるよぅ」

「うっせ、お前ひとりで行かせてまたヤベーことになったらどーすんだよ!! いわばアタシが監視ってやつだよ!」

「それはそう」


 ま、ここは先輩冒険者の言うことに従っておきますか。

 ブレイド先輩のように頼りになる方の先輩っぽいし!


 ちなみにブラックマンティスの死骸については頭だけマシロさんに渡して、あとは全部私のリュック(を通じた空間魔法)の中にしまっている。ミスリルデビルも1切れだけ渡したので報告は任せたぞマシロさん。

 私のことは通りすがりのヤベー大魔法使いとかなんとかボカしといてくれ、ヴェーラルドの領主館に問い合わせれば実在を証言してくれるはずだから!



 というわけで、マシロさん同行でダンジョンボスに挑む事に。

 手加減? もうマシロさんに実力見せちゃってるから必要ないよね。なので、女王アリと思われる超巨大なアリは出現と同時にバラバラになった。


「覚悟してたけど、マジでダンジョンボスが瞬殺かよ。アタシでも1日かかるんだぞ」


 そう言って若干不満げにダーツを取り出して弄るマシロさん。活躍したかったね、ごめんね!


「……なぁこのダーツ、改めて見るとドワーフの名工が拵えたかのように寸分たがわず同じ代物なんだが……」

「あ! あれがコアかな。それと結界?」

「ん? ああ。そうだな」


 ボス部屋の奥へ進むと、緑色の結界が張られた通路と、その奥に台座に乗った黒い球が置かれていた。あれがコアってやつか。



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