履いたことねぇよンなもん
私カリーナちゃん! 助けた獣人冒険者マシロちゃん、クールでカッコいい彼女がピンチに陥ったのは私のせいでした、ごめーんね!
というわけで損害を補償したの。全力で。えへへ、大魔法使いカリーナちゃんにかかればこの程度造作もないよぉー?
はい。悪乗りしすぎた、ごめんねー?
マシロさんは「ワケわかんねえよーーー!」と騒いで可愛かったので暫く見ていたのだが、騒ぎ疲れたのかぜーはーと息を切らして地面に寝転がった。
尚、騒ぎにつられてモンスターが寄ってきたが、ブラックマンティスの死骸を見て逃げて行った。良い虫よけになりそうだねコレ。
「……そんで。何が狙いだ、言ってみろ」
ん? 今なんでもって言った?……言ってないな。まぁいいか。
「じゃあひとつお願いがあるんだけど」
「ンだよ畜生! やっぱりそうだ、何が狙いなんだ!?」
「マシロさんの靴下が欲しいんだけど……」
「靴下ぁ?……履いたことねぇよンなもん」
「だよねぇ。履いてないよなぁ」
ケモナー歓喜なモフモフ銀狼娘だが、その分野性味は強いというか、靴もサンダルだった。濃い体毛がそのまま靴下の役割を果たすため、履く必要もないのだろう。
……ん? いや待て。発想を逆転させよう。
「獣人ちゃんの初めて靴下、ってことで逆に価値が上がらないかな?」
「なんの価値だ!? 何の話してんだかサッパリなんだが」
「そうだね、私もよくわかんない」
なんもかんも、靴下好きの神様が悪いんや。
「で、他には?」
「え?」
「靴下がねぇんだから、他に何かあんだろ要求がよ!」
半ギレで言われる。でもなんだろう。ブラックマンティスを倒した私に怯えてるみたいな? そんな空気を感じる。言っちゃなんだが、なんか子犬みたいで可愛い。
「うーん……足の毛を剃って靴下にしてもらうとか?」
「なんだそれ、キモいな!? なんでそんな靴下にこだわるんだよ!」
「そうだよね、私もわけわかんない。ウチの上司が靴下好きなんだよぅ」
「お前、宮仕えなのか?……あー、そうだな、お貴族の考える事ってワケわかんないもんな」
うーん、神様に仕えるのも宮仕えなんだろうか?……宮って元々神殿って意味もあるし、間違いじゃないな。
ともあれ、マシロさんの態度が急に軟化した。これも神様のおかげってことなのだろうか。
「そんじゃ、トレントを狩ったのもお偉いさんの指示か何かだったのか?」
「え? いや、フツーに知らなかっただけだって。ごめんね、迷惑かけちゃって。あ、剣の予備作ろうか?」
「いい、いいって! もういいから!」
なんだ謙虚な狼さんだな。可愛いかよ。
「ったく、仕方ねぇな。じゃあアタシの知り合いで靴下履いてるやつに声かけて回収してやるよ。それでどうだ?」
「あ、新品の靴下は渡すよ。マシロさんの足裏の毛も貰えるかな、無理なく抜ける範囲で、かつニオイのきつそうな部分がいいんだけど」
「ワケわかんねぇな……別にいいけど、何に使うんだ?」
「とりあえず納品してみるよ。多分、お茶にでもするんじゃないかな」
「うわ、ぞわっとしたわ……くれてやるけどよ、今回限りだからな!」
と言いつつ、マシロさんはサンダルを脱いで、足にブラシをかけて抜けた毛と、肉球の隙間の毛をぷちぷちと何本か抜いてくれた。
「肉球……! えっちだ……」
「は? え、肉球が?」
おっと、思わず声が漏れてしまった。いやだって、すごく形のいい大きな肉球だよ!? 前世ではクマかトラかライオンかというくらいのレア肉球だよ!
「上司だけじゃなくて、お前も変わってんのな……」
あ、ちょっと引かれちゃった感。
そんなばかな。動物をモフモフしたいとか肉球をぷにぷにはむはむしたいというのは人の基本的欲求の一つではないのか? ほら、三大欲求のうち睡眠欲以外はいわば肉欲じゃん。これは肉球の肉なんだよ。つまり――
いやごめんうそ。冗談だってば。ね?
「あとこれ新品の靴下ね。サイズいくつか取り揃えてあるけど、足りなかったらあとで補填するよ。それとマシロさんも履いといて。そんで次会う時回収させてね?」
「……お、おう。替えまで用意してんのかよ。本気すぎんだろ」
「冗談じゃなくてガチだからね。仕方ないね」
ついでに足毛はもらったけど、マシロさんにも次会う時まで靴下を履いててもらおう。
え、毛が逆立って気持ち悪い? ……ゴメン、獣人の人向けの靴下の履き方とか知らないの私。
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