なっ!?(Aランク冒険者マシロ視点)
助けが要るか、だと!? 助けられるなら助けてみろってんだ畜生!
見ると、そいつはあろうことか目をつぶりながら、無防備にガサガサと音を立ててこちらにやってきていた。こんな状況で何してんだ!?
「おい、に、逃げろよ!! 何こっち来てんだッ! ブラックマンティスだ!」
ギチッ、とブラックマンティスがそいつの方を向いた。弱い方から仕留める気か、と、私が止める隙もなく飛び掛かっていく。
しまった――と思った次の瞬間、想像だにしない事が起きた。
ドワーフの剣すら切り落とす死の鎌が、そいつの頭に当たって砕けたのだ。
「なっ!? ブラックマンティスの鎌が砕けた!? どんな石頭だよ!?」
「あー、しまった。まぁいいやもう……エアカッター!」
そして次の瞬間。まるで飽きたかのようにつぶやきと共にブラックマンティスの頭が胴体と切り離された。
……は? 何が起きた?
頭が取れたことがまだ理解できていないのか、ブラックマンティスは鎌をやみくもに振り回す。すさまじい生命力だ。が、流石に当たらない。周囲の木の枝が若干切り落とされたがそれだけ。
若干、ブラックマンティスの動きが鈍くなり――その中からミスリル色の細長い触手が現れ、女に襲い掛かる。
ミスリルデビル。かつて1週間暴れた死亡直前のブラックマンティスの中から出てきたと確認されており、ブラックマンティスの本体だとも言われている。
「エアカッター! エアカッター!」
「な、な、す、すげぇ……ミスリルデビルが細切れに」
素早く、ドワーフの剣ですら傷をつけるのが精一杯で、討伐された記録の一切ないそいつが、女の魔法で細切れになっていった。
……強い。
ごくり、と自分の喉が鳴るのが分かった。ソロでAランクに到達したアタシだが、目の前のこいつはそれ以上だ。
「や、大丈夫だった?」
「おう。……アンタ何モンだ? 初めて見る顔だが」
と、ここで初めて目を開いた。
「じゅ、獣人だー!! しかもモフモフ系! かわいい!!」
「あ? テメ、獣人だからって……え、え? かわ、可愛いだとぉ?」
一瞬だけ、獣人は野蛮だとか言い出す輩かと思ったが、その声色と視線に込められた感情は非常に好意的なものだった。なんだこいつ。可愛いとか言われたのガキの頃以来だ。
……大概の奴はアタシを見て怖いとか、食われそうだとか言うんだが……
いや、こんだけ強いならきっとドラゴンですら「可愛い」になるに違いない。
その後、自己紹介を交わす。
こいつはカリーナというらしい。本名かは分からない。聞いたことない名前だ。これほどの強者が無名だとは考えにくいが、詮索はしないでおく。
……いや、詮索しないでおこうと思ったんだが、聞き捨てならないことを言い出した。
下層のルールや、扉番を知らない? どういうことだ!?
「ち、ちがくて。その、そもそも扉番って何?! 私が来た道にはそんなのなかったしっ」
「はぁ!? んなわけあるか、新ルートから来たってぇのか!?」
「あー、ハチの巣で塞がってたもんなぁ……扉もなかったし……」
「なんだそれ詳しく話せ!!」
「はひぃ……」
マジで新ルート発見だぁ!? 一大事じゃねぇか!!
「正確には道はあったんだけど、ハチの巣になってる部屋があってぇ」
「ちょっとまて地図がある。……どのあたりだ?」
「ここらへんかな。あれ? ここ道があったんだけど書いてないね」
と、あろうことか余白の部分をつんつんと指す。未踏領域じゃねぇか!
隠し通路を見つけたってのか!?
「ちょっとまてカリーナ、ここは間違いなく壁だったはずだ」
「え、うーん、言われてみればハチが通る時に自動ドアみたく開いてたかも」
「そんな条件が……って、コッチは助かるけど、そうベラベラ喋っていいのか? かなり金になる情報だぞ」
「迷惑かけちゃったし、マシロさんからの報告ってことにしといて」
「オーケー分かった。ったく、ワケわかんねぇが、ブラックマンティスを難なく倒す程の実力があるなら納得せざるを得ないな……」
カリーナはきっとどんな魔物も狩り放題で、金には一切困っていないのだろう。
「ほんっとごめんね。怪我してない? タダで治すよ」
「アタシゃ大丈夫だが、装備が少しイカれちまったな。ダーツも補充しねぇと」
「おっけ、直して補充するね。ダーツは何本あればいいの?」
「あん? 買ってくれんのか? そうだなぁ、なら詫びで50本くらい貰おうか」
どうせ金に困ってない奴ならそれくらい言っても、と思った軽口だったが――
「はいよ」
カリーナは、あろうことか目の前にザラザラと、アタシのダーツを50本出しやがった。
……は? 特注品で1本で中銀貨1枚するダーツだぞ。
なんで同じものを50本も持ってるんだ!? アタシそもそもコレ5本しか持ってなかったんだが!?
「……は? おいまて今どこから出した?」
「えーっと、鎧は……あー、ここ切れちゃってるね。直しとくね。ごめんね?」
「え、いやそれは別の時についた傷――って、あれ、鎧の傷が消えた!?」
カリーナが馴れ馴れしく触ってきたと思ったら、鎧の傷が消えた。
どうなってんだ!? そろそろ買い替え時かと思ってたんだぞ!?
「ああっ! よく見たら胸元に傷も!? 治すね!」
「おまっ、それは古傷――うぉ!? な、な、なんだよお前ぇ!? 傷消えたんだが!」
胸元にあったアタシの古傷まで消え失せた。
高位回復魔法!? 神官だったのかコイツ!? あれ、でも今
「喜んでもらえて何よりだよ」
「か、金ならねぇぞ!? お前が勝手に治したんだからな!?」
「うんうん、要らないから。あ、虫歯もあるのね、治しとくね」
「な、なんなんだよぉ!? アタシが悪いのか!?」
ワケわかんねぇ、ワケわかんねえ!!
こんなに施してきやがって、アタシに何しろって言うんだコラぁー!?
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