は?(Aランク冒険者マシロ視点)
「は? トレントの木材を持ってたバカがいる!?」
「そうなんだよマシロ。なんでも、大規模伐採跡があったから便乗した、とか言ってたが」
「んな予定なかっただろ、どういうこった」
下層へと下りるボス部屋の扉。そこの扉番から声をかけられその情報を聞いた。
カルカッサダンジョンの下層、そこは森林エリアとなっている。
この森は普通の木にトレントが多く混じっているものの、トレントは通ってきた道を隠し迷わせようとするだけで襲い掛かってくることはない。
しかし、そのトレントを狩ろうものなら、黒い悪魔――ブラックマンティスが現れる。
ブラックマンティスはバーサーカータイプのモンスターだ。目についた冒険者も魔物も区別なく襲い掛かり皆殺しにする。例外は木に擬態したトレントくらい。
そして
逆に年に一度、大規模伐採を行いわざとブラックマンティスをおびき寄せて森林エリアの魔物を一掃してもらう、という事もしているわけだが……
「まだその時期じゃないだろ? フカシじゃねぇのか?」
「そうなんだが、奴らが伐りたてのトレント材を持ってたことは間違いなくてね」
「いつブラックマンティスが出てもおかしくない、ってことか」
こうなると3日は様子見して、もしブラックマンティスが確認されたら1週間封鎖だ。
まったく、バカなことを。
下層へ続くこのボス部屋の扉の前にどうして扉番が配置されてるか、どうして毎度「トレントを狩るな」と声かけされるかを知らないのか。
恐らくバカ共は降格処分となるだろう。損害分を請求されるかもしれない。
「申し訳ないが、急いで声掛けしてもらえるかな。今奥にいるパーティーは4組。うち1組は伐採跡を確認させてる奴。報酬はあまり出せないが、白銀への緊急指名依頼ってことで」
「まいったな、今日は軽く蜘蛛狩りの予定だったんだが」
「白銀の鼻が頼りなんだ。頼むよ」
「しゃーねぇ、帰ったら一杯奢れよ」
同じ町の冒険者を見捨てるのも後味が悪い。アタシはこの依頼を受けることにした。
* * *
2組を探し当て声をかけ、3組目。運の悪いことに、ブラックマンティスは3組目のそいつらに襲い掛かろうとしていた。
「あぶねぇ!」
その黒い鎌の一振りに、アタシは割り込んだ。ぐ、ドワーフ製の剣じゃなかったら切り落とされてたぜこれは!
受け流しつつ、ダーツで目を狙う。が、赤い複眼は正確にその軌道を捉えて最小限の動きで回避。くそ、カマキリ野郎が。
「ひぃっ!? あ、白銀……っ」
「さっさと逃げろ、悪魔が出たと扉番に伝えて封鎖!」
「す、すまねぇ!」
見たところCランクの冒険者。コイツらではブラックマンティスに抵抗すらできない。
放置しておけばアッサリ殺されて次はアタシ、となれば、アタシが割り込んで時間を稼ぐのも同じこと。むしろ生存者が増えて、扉番に悪魔の出現も伝えられる。
あとは、なんとか生き延びるだけ……って、それが一番面倒なんだ。
スパイダーの群生地にでも誘い込めれば、蜘蛛になすりつけておさらばできる、ハズ!
――と、ギリギリの戦闘中にそんな事を考えたのがいけなかったのか、パキリと嫌な音がした。
剣がヤバイ。このままだと折られる! とっさに転ぶように転がって、剣が折られるのを回避する。が、その代償に追い込まれてしまう。
「くっ、こんなところで……!」
と、そんな時だった。
「おーい、助け要る?」
「えっ!?」
場に似つかわしくない、のんびりした女の声がした。
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