ごめーんね!
「や、大丈夫だった?」
「おう。……アンタ何モンだ? 初めて見る顔だが」
ずっと目をつぶったままというのも何だ、目を開けて挨拶しよう。
ぱちっとな……
「じゅ、獣人だー!! しかもモフモフ系! かわいい!!」
「あ? テメ、獣人だからって……え、え? かわ、可愛いだとぉ?」
そこには、白銀の狼耳に尻尾、マズル(犬特有の口と鼻が突き出た形状のこと)まであり、全身モフモフな狼お姉さんだった。銀狼と呼ぶに相応しい凛々しさと愛らしさを感じる。背は私より頭一つ高いだろう。
いや、その。モフモフした毛皮の鎧着てるのかとおもってたんだよね。
獣人自体はハルミカヅチお姉様で見たことあったけど、耳と尻尾だけだったじゃん。こっちは全身モフモフのケモナー歓喜のやつじゃん。はぁー、すっご。
「おっと失礼。自己紹介だったね。私はカリーナ。……えーっと、しがない魔法使いだよ」
「アタシはマシロ。白銀のマシロっていえばこの町ではちょっと名の知れた存在なんだぜ……あー、なんだ? その、悪意はねぇんだな……? 助けてくれてあんがとよ」
「どういたしまして。あ、私のことについては口外しないで欲しいなぁ」
「わーったよ、聞かねぇ。命の恩人だしな」
そういってマシロさんはちらり、と黒いカマキリを見る。うん、黒いね。そして細切れになって動かなくなったハリガネムシ……ミスリルらしい。これ全部ミスリルなら剣が打てるくらいありそうだなぁ。どんぐらい含有してんだろね。
「信じらんねぇ……ブラックマンティスとミスリルデビルが、こんな」
「なんかマズかった?」
「マズいこたぁねぇんだがよ。アタシの知る限り、こいつらを倒した奴は居ねぇんだわ」
「そんな強いのコレ」
「ダンジョンの懲罰的モンスターだよ。ダンジョンの環境を大きく破壊したりすると現れる悪魔さ。一週間暴れまわって死ぬまで下層を封鎖して放置するしかなくなる……って、ここに来る途中の門で聞いただろ?」
「え? ごめん知らない」
「聞き逃してたってのか? 扉番があんだけ口酸っぱく言ってたじゃねぇか、ここから先の木は伐り倒したらいけないって」
あっ。
「ま、マシロさん。木を伐り倒すとどうなっちゃうの?」
「だから、コイツが現れるんだよ。どっかのバカがトレント材欲しさに伐採したんだってよ。ここのトレントは、手を出さなきゃ無害だってのに」
奇遇だねぇ、私の収納空間には、先日ここで狩ったトレント材がたんと入ってんだ。
「ごめんなさい。それ私だ」
「……あン?」
「ち、ちがくて。その、そもそも扉番って何?! 私が来た道にはそんなのなかったしっ」
「はぁ!? んなわけあるか、新ルートから来たってぇのか!?」
「あー、ハチの巣で塞がってたもんなぁ……扉もなかったし……」
「なんだそれ詳しく話せ!!」
「はひぃ……」
どうやらこのお姉さんがピンチに陥っていたのは私のせいだったらしい。
なんてこった、ごめんなさいマシロさん。私はハチの巣を壊滅させて、その奥にあった道を通ってやってきたのを洗いざらい白状した。
「ったく、ワケわかんねぇが、ブラックマンティスを難なく倒す程の実力があるなら納得せざるを得ないな……」
「ほんっとごめんね。怪我してない? タダで治すよ」
「アタシゃ大丈夫だが、装備が少しイカれちまったな。ダーツも補充しねぇと」
「おっけ、直して補充するね」
お姉さんの装備をスキャンする。あー、剣が随分刃こぼれしちゃってる。ダーツと思われる棒手裏剣っぽいものも1本しかない。革鎧やブーツも傷だらけだ。ま、今回は私が迷惑かけた感じだし、空間魔法で補償するのも止む無し。
「ダーツは何本あればいいの?」
「あん? 買ってくれんのか? そうだなぁ、なら詫びで50本くらい貰おうか」
「はいよ」
ザラザラと複製したダーツ50本を地面に山積みにする。ついでに剣の刃こぼれと歪みも補正しておこう。金属疲労も直すぞー……むんっ。はいおっけー。
「……は? おいまて今どこから出した?」
「えーっと、鎧は……あー、ここ切れちゃってるね。直しとくね。ごめんね?」
「え、いやそれは別の時についた傷――って、あれ、鎧の傷が消えた!?」
私が鎧を撫でて傷を埋めたところを改めてお姉さんが撫でて驚く。
ちょっと楽しくなってきた……いや、仕方ないんだよ。お詫びの補償だから! 全力でお詫びしなきゃだから!
「ああっ! よく見たら胸元に傷も!? 治すね!」
「おまっ、それは古傷――うぉ!? な、な、なんだよお前ぇ!? 傷消えたんだが!」
「喜んでもらえて何よりだよ」
「か、金ならねぇぞ!? お前が勝手に治したんだからな!?」
「うんうん、要らないから。あ、虫歯もあるのね、治しとくね」
「な、なんなんだよぉ!? アタシが悪いのか!?」
いやー、悪いことしてお詫びしてんの私の方だから。ごめーんね!
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