マジ知らなかったんですけど。

 朝からたぎっちゃう気持ちを抑え、身だしなみを整えて、ディア君と合流。


「今日はどうするんですか?」

「そうだねぇ、観光でもしよっか? サティたんもどう?」

「あー、ごめんカリカリ。私そろそろ行かないとだ」


 サティたんは行商の予定が詰まっているらしい。


「てか、カリカリは余裕だねぇ。ここの定期便、便乗し損ねたら次は半月後くらいだよ……って、定期便使わないのかカリカリは。ちょっと羨ましいかも」

「ま、よそのスケジュールに悩まされない気楽なスローライフ行商だからね」

「って言っても、販路まだ少ないでしょ? 店に卸してるようじゃ利益も少ないだろうにねぇ。あー、冒険者で稼いでんのかぁ」


 うーん、確かに冒険者としての稼ぎの方が大きい気がする。木こりとか。

 ちなみに普通なら行商人は販路を開拓して、ギルドとは関係ない一般人相手に商売することで利益を上げるらしい。マジか、知らなかった。


「カリカリの卸してたハチミツとかあるじゃん? あれ、店頭価格見てみなよ。少なくとも卸値の2倍から3倍くらいにはなってるからさ」

「えっ、マジで? ボッタクリじゃない?」

「そうでもないよぉ。そのくらい貰わなきゃ生活できないんだから、行商って。……カリカリ、マジでなんも知らないんだねぇ」


 言われてみれば、本来徒歩であれば1ヶ月もかけて売りにきて、しかも魔物や野盗に襲われる心配も込みで、そのうえで利益が少なかったら話にならないもんなぁ。


 実際、いまだにリュックがパンパンになるほどの量を仕入れたこともない私には、本来カルカッサへの行商はまだ早すぎた。利益が出なさ過ぎて。


 ちなみに馬車持ち且つ酒免許を持ってるサティたんは、お酒に限りギルドから補助金がもらえるらしい。なのでいちいち客を見つける手間を省く代わりにギルド指定の店に卸すことで、十分利益になるそうな。

 なにそれそんなのあるの? 取引が安くなるだけじゃなくて? マジ知らなかったんですけど。商人ギルドでそんな話聞いたっけか?


「商人ギルドじゃそこまで説明してくれないからね。既得権益、ってわかる? でもまぁ、補助金自体は国の方針で出るんだよねぇ」


 つまり、既に権利と利益を得ている人がそのまま得をするために、あるいは自分の子供とかに引き継がせるために黙っているということか。なんたるこった。

 え、違法じゃないの? 聞かれたら答えるなら違法じゃないのか。そっかー。


「フツーは商人の親とか師匠に習うもんだからね。商人になるなら常識だけど……」

「そういうのいなくて。サティたんはいたの?」

「いたよぉ? 飲み比べで勝って酒免許とこの魔法のリュックを奪ったんだからねぇ」


 ふんす、と得意げにぺったんこな胸を張る褐色幼女商人、サティたん。

 既得権益はある程度数が決まっているらしい。そして魔法のリュックはお酒限定で見た目以上の容量があり、保全の加護がかかるらしい。リュックに入れた酒は最適な状態を保ち、瓶が割れたりもしないんだとか。


 ん? それってもしかして神器なのでは……いや、よそう。サティたんが持ってるならそれは神器でも適切で健全な使い方をされてるってことさ。それに冒険者ギルドでも木こり用のマジックバックとかあるらしいし、そこまで特別なものじゃないだろう。


「ま、それでも沢山の商品をいっぱい運ぶことで利益になるわけだからね。私は自前の馬車で稼ぐためにも、ここいらでカリカリとはお別れだよぅ」

「むむむ、残念。もっと愛を語らいたかった……」

「うん、私もだよカリカリ……昨夜分けてもらったマッサージ機、カリカリが売り出すまではちゃんと秘密にするからね」


 あ、そこちゃんと売ってたんだ私。おそらく実演で。


「私もサティたんの靴下、大切に使うね……!」

「それは意味わかんないからマジで困惑しかないなぁ」


 この体に埋め込まれた性癖が悪いんや……うん。マジでキマるからなぁ、サティたんの使用済み靴下。クンカクンカしただけでやべーの。こりゃ神様も100点出すわ。



 と、そこにディア君が手紙を手に割り込んだ。


「そうだサティさん。こちらをどうぞ。入国審査を受けるための紹介状です」

「んぇ?……マジ!? いいの!?」

「問題ありません。ただ、審査は真面目にやってもらうように書いてありますから、虚偽の理由を述べたりしないほうが良いですよ」

「うんうんありがとうございますディア様! お礼に今夜カリカリを抱いていいよ! 性的な意味で!」

「ちょ、恋人に売られた件。サティたん、私を捨てるの!? 昨日はあんなに激しく愛し合ったのに! 記憶ないけど!」

「ごめんねぇーカリカリ。しょせんお遊びの恋人なのよねぇ」

「くぅっ、お遊びの恋人だったぁ! 私弄ばれちゃったよぅ! でも好きーーー!」


 そんな風に茶番劇をしていると、ディア君はやれやれと肩をすくめた。


「……そういう冗談も、エルフの国では言わないほうが良いですよ。ええ。エルフは恋愛も誠実な方が好まれますから」

「はーい。ごめんね、ちゃんと愛してるよカリカリ、お酒の方が好きだけど」

「うんうん、私もだよサティたん。あれ、私はお酒よりサティたんの方が好きだよ?」


 照れながらも受け流すディア君。もう少しだけ茶番で楽しむ私たち。

 というか、ディア君? 発言の意味を理解している……だと? このおませさんめっ! 可愛いぞっ!


「あー、行商の予定組みなおさなきゃなぁ。うふふ。んじゃ、カリカリ。アイ姉のことよろしくねぇ~」


 そう言って、サティたんはひらひらと手を振って笑顔で出立していった。

 また会おうサティたん。その日まで靴下を温めておくんだな!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る