全身毒人間の可能性


 レッドホーネットを屠り、アイシアのリュックに突っ込んだ。

 手で丁寧にもぎ取ったので素材として割と完璧な状態である。

 イエローホーネットとは採集できるワックスの質が違って、ちょっとお高く上質なんだとか。買取価格も上昇するぜ、やったね。


「カリカリさぁ、冒険者の方が向いてるってぇ絶対」

「えぇー? そうかなぁ。そんなことないよサティたん。なんなら私のとっておきの商品をサティたんに見せてあげてもいいんだよ? それをもって商人に向いてる証明としようじゃないの」

「とっておきの商品? ちょっと気になる……どんなお酒なの?」

「お酒ではないなぁ」


 あ、でもカリーナちゃんポーションを作ったからそれをお酒で割ってもらうというのも……ないな。回復量多分激ヤバだし、下手したら毒だ。

 ビタミンAが豊富過ぎるシロクマやアザラシの肝臓は、人間には毒になるんだって聞いたことがある。同じことがマナとかにも言えるんじゃないかなって。


 ん? じゃあマナたっぷりの私の血とか舐めたら、下手すりゃ死ぬ……? 怖っ、私ってば全身毒人間の可能性出てきたわ。


「目標だったボスも倒しましたし、帰りますか」

「あれ? ディアさん。中層は見に行かなくていいの?」

「ええ。サティさんが居ますし、安全第一ということで。中層にはアント系、スパイダー系が多く出てきますからね。アントの酸は鉄を溶かすんですよね?」

「うげぇ。そうなんだよぉ。あんまり遭遇したくないから、引き返すのはありがたいねぇ……」


 げんなりするサティたん。武器の酒瓶も鉄製だし、鉄を溶かす敵は敬遠したいんだろうな。……もしかして中層に行きたくなかったからボス部屋前で尻込みした感じ?


「ところで、他の冒険者と全然会わないね。アイシア、避けたりしてる?」

「はい。なるべく避けてますよ。それと、ここの冒険者、メインでは中層で活動してるというのもありますね」


 そういやアイシアが買ってきてくれたダンジョンサンドイッチも中層のモンスター食材だったようだ。

 で、中層への下り階段は他にもあるらしく、こういったボス部屋も複数あるんだとか。中層をメインに活動する冒険者達は最短の固定ルートで中層まで向かうらしく、ほぼボスの出ないボス部屋(出ても通りすがりに即退治されるためすぐ開通する)もあるそうな。


 逆に、こうして腕試ししたい冒険者はその固定ルートを外れて探索したり、ボス部屋を開けて挑んだりするわけだ。



「じゃあ、中層以降は今度サティたんが居ないときに気が向いたらいこうかなぁ」

「はい。お姉さん、少しだけ階段の方見ておきます?」


 お、いいね。ここで座標を記録しておけば、ダンジョンにいつでも入り放題だものね。

 私ならつまり、素材をとり放題ってことだよ。フフフ。



  * * *



 ダンジョンから帰宅した私達は、素材を売りに行くことにした。

 中ボス、レッドホーネットのほぼ無傷な素材……もしや騒がれるかな? と思いつつ、一切何事もなく換金されたのはちょっと拍子抜けだった。うん、下層じゃザコ敵だもんね。


 というわけで、アイシアを含めて4等分。1人あたり銀貨8枚の稼ぎとなった。


「ポーターが居ると稼ぎがいいねぇ」

「普通はもっと少ないの?」

「うん、持ち切れない素材とか捨てるんだよね」


 なんともったいない。私によこせ。


「まぁそれを拾って食いつなぐ低ランク冒険者もいるんだよ。ほら、冒険者孤児とか」

「冒険者孤児」


 いわゆる親が冒険者で、依頼やダンジョンにて亡くなったタイプの孤児である。たまに親がクソで、ここに放置されてどっか行ってしまい冒険者孤児になる例もある。

 (基礎知識さん調べ)



 尚、これ見よがしにデカいリュックを背負ったアイシアポーターが居なければ、そういうのがポーターとして雇ってくれと寄ってきたり、後ろをついてこられたりしてただろうとのこと。


「なんていうか、危なそうだねぇ」

「そうだね、雇う側も雇われる側も、付いていく側も付けられる側も色々とねぇ。私なんてこの見た目じゃん? ソロだとナメられて襲われることもあるんだよねぇ、返り討ちだけど」

「さすサティ。惚れなおしたわ」


 まったくダンジョンとは恐ろしいところよのぅ。



―――――――――――――――――

(3月いっぱいは毎日投稿します!

 そのあとは書籍化作業とかあるからわからん。1巻からガッツリ書き直す予定。

 推定書き下ろし&加筆修正率、70%↑かなぁ……)

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