ちょっと”動いた”だけだが?



 洞窟の中に突然現れたレリーフ入りの大扉。ボス部屋の扉、らしい。

 とはいえ、ダンジョンのラスボスではない。それはこのボス部屋を抜けたさらに下層へ行ってからの話。いわば中ボス部屋だ。


「誰が用意してるんだ、こういう扉って。アイシア知ってる?」

「ええと、ボスが外に出ないようにする魔道具ですね。冒険者ギルドの酒場で扉を付けに未開発ダンジョンへ潜った人の話を聞いたことがあります。凄腕冒険者に護衛を依頼するらしいですよ」

「あ、これってちゃんと人がつけたものだったんだ」


 扉が付いてるのは開発済みのダンジョンの証ということだ。

 そして、このボス部屋のボスも、倒したところでそのうち復活するらしい。この扉の効果でその内側に固定沸きするとか。便利ぃ。


「え、カリカリ、本当に攻略するの? ボス部屋?」

「するよー? ほら、ここまで楽勝だったでしょ。ボスも大したことないんじゃね?」

「ボス部屋はちょっと話が違うよぅ。……死んだらオシマイなんだから、わざわざ危ない場所に行く必要はないでしょ? 私たちは商人なんだしさぁ。冒険者に行かせて素材を買い取る側だよぉ。ね?」


 おっと、サティたんに止められてしまった。


「大丈夫ですよ、サティさん。ボク達なら安全に倒せますから。作戦もあります」

「そなの? 聞かせて?」


 と、ディア君がサティたんを説得する。私も初耳なので聞いておこう。


「まず、ここのボスはレッドホーネット。取り巻きはイエローホーネットです。で、こいつらは総じて火に弱い。そしてボクは火魔法が使えます」

「あー、ディアさん火魔法使えるんだ? 使ってなかったけど」

「素材がとれなくなりますからね。自主的に封印してました」


 でも、ボス戦なら話は別だ。


「取り巻きの素材は諦め、ファイアウォールで一網打尽にします。レッドホーネットだけを相手にするなら、カリーナお姉さんはまず負けません」

「そうだね。私なら楽勝だ」


 取り巻きがあっても楽勝だけど、サティたんの手前、言わなくていいだろう。


「レッドホーネットだよぅ? イエローホーネットより3倍は早いし大きいけど、大丈夫?」

「フッ、私を舐めてもらっちゃ困るぜサティたん。場所によっては舐めて欲しいけどそれは今夜してもらおうかな? なんてね!」

「うーん、ダメそうならすぐ逃げられるようにねぇ?」


 ちなみにレッドホーネット、深層では雑魚として出現する程度のモンスターらしい。

 (最奥ではマザーホーネットという女王バチが巣と共に待ち構えているんだとか。ちゃっかり情報収集していたディア君とアイシア、すげーなおい)


「いざとなったら私も本気だすからねぇ」

「サティたんの本気……気になるなぁ」

「お金がね、かかるんだよ……高いお酒使うから……」

「ア、ハイ」


 サティたんの奥の手については期待しない方がよさそうだ。必要もないし。



「あるじ様、ディア様。僭越ながらこのアイシアが、扉を開けさせていただきます!」


 アイシアが両開きの扉に手をかけて、ぐっと開けると――そこの部屋には、5匹のイエローホーネットと1匹のレッドホーネットが居た。うん、赤い。そして子犬くらいデカいぞこのハチ。こっわ。生理的にぞわっとするから近寄らんといて。


「炎の壁よ、我が敵を阻め、ファイアウォール!」


 ディア君が魔法を唱えると、炎の壁が現れてイエローホーネットを飲み込んだ。あっという間に素材はしんだ。なーむー。


「お姉さん、後は任せます!」

「はいよー、っと。これどうしたらいいのかな」


 と、私はレッドホーネットの後ろに回り込み、その薄っぺらい羽をむんずとにぎってぶちっと引きちぎった。はい、これでもう飛べないねェ。


「え、早っ。カリカリ、今なにしたの?」

「何って……ちょっと”動いた”だけだが?」


 キリッと格好つけて言ってみる。言ってみたかったこのセリフ。

 まぁ実際は空間魔法で瞬間移動&レッドホーネット固定とかしてたから全然動いただけではないんだけどね。しかも瞬間移動のタイミングをサティたんの瞬きに合わせるためにサティたんの方見てた。可愛いお顔が真剣で好きだった。ラブ。


「……カリカリ、本当に強かったんだねぇ」

「まぁね!」


 サティたんに笑顔を見せつつレッドホーネットの頭をもぎとり、初のボス戦は終了した。


――――――――――――――――

(祝、100話!

 あ、書籍化の進捗ですが、秋頃発売になりそうです。多分めっちゃ書き直す)

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