弱点を突くのが良いとも限らないわけだ



「我が敵を焼き払え、ファイアボール!!」


 ディア君の杖の先から、バスケットボールのような火の玉がまっすぐ飛び、グラスホッパー――キュウリくらいの大きなバッタ――に命中した。ごぅんと燃えるグラスホッパー。ピギィと空気をひねり出すような断末魔を上げて、こんがりと焼け死んだ。


「これくらいの小物なら火の玉で一撃だね」

「お姉さんの魔法には負けますが、これでもエルフですからね」


 えへん、と得意げに胸を張るディア君。

 ちなみにこのダンジョン、虫系が多く火属性が弱点な魔物が多いらしい。お高い杖のおかげもあり、あと百発でも千発でも使えるそうだ。



「あるじ様、ディア様。あっちから羽音が聞こえます。たくさんいそうです」

「げ、集団で飛ぶやつか……ディア君、ファイアボールで対処できる?」

「数と大きさによりますが、ファイアウォールなら抑えられるかと」


 おー、いい感じ。……っと、拳サイズのハチが4匹飛んできた。イエローホーネット。毒針攻撃には要注意っと。


「我が敵を阻め、ファイアウォール!」


 ディア君の魔法でハチが燃える。と、1匹回り込んできたのを私が空間魔法で切断。


「あれだね。4匹でたくさんって言われると、すこし拍子抜けするっていうか……うん、算数勉強しようか、アイシア」

「え? あ、はい。あるじ様が仰るなら」


 吟遊詩人として旅してた時に、お金とかどうしてたんだろう。


「しまった、討伐証明の針まで燃えちゃいました」

「あ、火魔法だとそういう欠点もあるのか。……このくらいなら大丈夫じゃない? 半分焦げてるだけじゃん」

「どうぞ、リュックに入れてください。あるじ様」


 アイシアが背中のリュックをこちらに向けるので、適当に突っ込む。当然、実際は収納空間に仕舞っている。が、後日サティたんと来た場合の予行演習だ。



「たしかホーネット系は胴体から蜜蝋がとれるんだっけ? ハニーワックスとかいう」

「あ! 装甲として重ねて塗ってるから、それも火魔法だとダメになっちゃいますね。すみません」


 ディア君が倒した分の蜜蝋は熱で溶け、地面に染み込んでいた。空間魔法を使えば回収はできるけど、そこまでするほどの素材でもない。


「弱点を突くのが良いとも限らないわけだねぇ。ま、気にしないでいいよ」

「次は頭だけを狙ったりしてみますか」


 そしてエビみたいないい匂いになってるけど。これも食えたりするのかな。

 焼く前に処理しなきゃダメ? そっかー。



「ところでひとつ気になったんだけど、ダンジョンの魔物、めっちゃいるじゃん。こう、狩り過ぎで枯渇したりしないの? どっから沸いてくるんだろ……」

「……どこでしょうね? ダンジョンってそういうもの、だとしか思ってませんでしたが」

「おやおや、あるじ様もディア様もご存じないのですか? では私がお教えいたしましょう」


 と、ここで元吟遊詩人のアイシアが得意げに語りだす。


「ダンジョンそれは魔の産まれいずる場所、ダンジョンそれはマナの還る場所。ダンジョンに満ちるマナが雫となりて、魔物は生まれ再び巡る――と、言われております」


 なるほど。ダンジョンは魔力を集めて、魔物の発生率を上げてる空間ってことなんだね。……なら討伐して間引きすればいずれ尽きるというか、減ってはいくわけだ。

 ただし、時間が経てばまた魔力がたまって魔物が生まれるようになる、と。


「へぇ、そりゃすごい。鉱石とかもそんな感じなのかな」

「ここのアーマーアントは鉄鉱石を食べて装甲を厚くするそうですから、鉱石等も産出しそうですね」


 無限に採掘できるじゃん。すげー。



 ともあれ、今日のところは様子見として潜ったので、浅い層で更に数体魔物を狩った後に、余裕をもってダンジョンから帰還した。

 収集した素材や討伐証明によって得られた稼ぎは、入場料を差っ引いても合計で銀貨3枚となった。

 うーん、サクッと潜ってこれなら、ガッツリ潜ったらもっと稼げそうだ。ダンジョンってば、なかなか美味しいかもしれん。


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