わぁ、濃厚


「つまりサティさん。あなたは、エルフの国のお酒が飲みたいがゆえに、行方知れずの姉をダシにしようとした、というわけですね?」

「その通りですごめんなさい」


 椅子に座ったディア君に向けて、頭を床につけて深々と謝罪するサティたん。

 ちなみに冒険者ギルドで払っていた銀貨は、ガチでお酒の情報のための情報料だったらしい。私が目撃してたのを知ってて利用しようとしたんだとか。


 え、情報収集の依頼は出してるけど『姉の』とは言ってなかったって? おお、確かにそうだね。すっかり騙されちゃったよ。うーん、賢くて好きすぎる。

 きっとアイシアがいなければ、ディア君も普通に口利きしてくれただろう。


 そしてなにより、本当に探してたんだ、と言い張らずにアッサリと「嘘でした」と認め謝罪する素直さが大好きです。ラブ。



「ディア様。私からも謝罪します。この子はお酒が飲みたいだけなんです。お酒を飲むためだけに商人となった子なので……」

「あ、じゃあ私も謝るよ。紹介したの私だし。ごめんねディア君」

「……アイシアとお姉さんの顔を立てて、許します」


 サティたん許された! よかった!


「うー、カリカリもごめんよぉ。靴下あげるから許してね」

「うーん、許す! あ、今ここで脱いでね、洗浄禁止だよ。それが許す条件だからね」

「あう。うー、わかったよぅ……」


 恥ずかしがりながら、ブーツを脱ぐサティたん。そのとたん、部屋の中の湿度が少し上がって、しょっぱいニオイが広がった気がした。わぁ、濃厚。


「うわサティ、どんだけ履いてたんですかそれ」

「お、お姉ちゃんには関係ないでしょ!?」

「あるじ様、窓開けてください窓。くさくてたまりません」

「~~ッ!」


 言葉で煽るアイシアに、涙目になるサティたん。

 そしてサティたんはその濃厚靴下を、ちらちら周りの反応をうかがいながらすぽんっと全部脱ぐ。

 赤みがさした柔らかそうな足裏を左右二回晒したところで、脱いだ靴下を手に洗浄しようとし、禁止してたのを思い出したのかとりやめて、褐色肌でもわかるほどに顔を真っ赤にして私に渡してきた。

 大変可愛くごちそうさまです。


「ほんと、ごめんね。カリカリの顔に泥を塗るようなことしちゃって」

「ん、許した!」


 受け取った蒸れ湿りホカホカ靴下を、私は胸の谷間経由で収納。

 ……

 指についたニオイだけでご飯食べられそうな感じ!

 ぐぐぐ、私の性癖がヤバい! おのれ神様……



 ……あと、神様に納品するんじゃないから別に羞恥心まで煽る必要はなかったかもしれんな、と気付いたのは今更になってからだった。

 とりあえずサティたんには替えの新品靴下をプレゼントしておく。



「ところで普通にお酒目的ですって言って入国できないの?」

「できますよ。だから姉の生死不明を利用しようとしたのが許せなかったんです」


 あー、ディア君お姉ちゃんっ子だもんなぁ。クミンさん元気かなー。

 手紙で男の子の服を使う許可をもらったときは元気そうだったけど。


「んー、これはサティたんが悪かったなぁ。次から気をつけようね」

「そうだねカリカリ。……次はバレないようにちゃんと死んでる叔母を使うよぅ」

「それならバレないな。良いアイディアだ、さすがサティたん!」

「いや良くないですよ!? 全然反省してないじゃないですか!」

「う、エルフは冗談が通じない……」


 まぁ冗談を披露するタイミングは悪かったかもね。


「でもアイ姉が無事生きてたのは嬉しいよぉ。まさかソラシドーレにいたなんて。巨乳の足元は見えないってやつだねぇ」


 それ灯台下暗しみたいな意味のことわざなん? もれなくロリペッタンなドワーフが言うとなんか含みを感じるけども。


「無事ってほど無事でもなかったけどね。なにせ両腕欠損、顔と喉が潰されてたし」

「なにそれ吟遊詩人セットじゃん。え、どゆこと?」


 私はサティたんに「ヒーラー氏が治してくれたんだけども」と元の状態がどうであったかを説明した。おかげで安かったとも。


「うわ……その、なんかごめん。数年もそんな状態だったなんて知らなかったよ。だからディアさん怒ったんだねぇ。ほんとゴメンね?」

「大丈夫。なんか錬金王国も滅んだらしいし、きっと私の恨みが神様に通じたのよ」

「あはは、一人の力で国が滅んだら大変だよぉアイ姉」


 神様に通じてないのを知ってる私はそっと目をそらした。横殴りしてごめんな?


「でも、そっか。それじゃあ私がアイ姉を買い取るわけにもいかないねぇ。引き続き奴隷生活がんばって。カリカリがご主人様ならまぁ悪いようにはしないでしょ」

「ん? まぁ確かにアイシアを解放するわけにはいかないね。うん」


 アイシアを解放するために所有権の買取交渉とかをしてくるかと思ってたので少し拍子抜けである。

 あ、治療費上乗せになると金貨5枚増えて高いからかな。それだけあったらどれくらいのお酒が飲めるかを考えたら、確かに買い取れないところだ。




 結局その日、アイシアはサティたんに貸すことになった。

 姉妹で積もる話もあるだろうて。もちろん秘密は守らせるけどね。


「まさかサティたんとアイシアが姉妹だったなんて驚きだったねディア君」

「そうですね。ドワーフの家族の話も初めて聞きましたが」


 エルフは基本一夫一妻制で、ドワーフの多夫多妻制はだいぶ理解しづらかった様子。

 利便性はおおいにあると思うけどね、多夫多妻制。自分の血をちゃんと残せるかという意味では分からなくなってくるけど。



 さて。


 アイシアがサティたんの部屋で寝ることになったけど、私とディア君の目の前には1つのベッドに2つの枕。当初宿の方に『私とディア君がベッドで寝て、アイシアは床』と伝えてたからね。


「で、どうする? このままこのベッドで一緒に寝る? 収納空間の拠点出す?」

「……サティさんがいつ来るかわからない以上、今日のところはこのまま寝るべきだと思います!」

「だよねー。私もそう思ってた。今日のところは狭いけど我慢してねディア君」


 まぁ明日にはサティたんの予定とかも分かって収納空間の拠点も使えるだろう。

 というわけでディア君と一緒のベッドで添い寝した。


 もちろんディア君には女の子の服に着替えてもらったけどね!!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る