知らん店のCMソング
「え、男の服着て良いんですか?」
「うん、だって女の子の服イヤでしょ? 私のワガママに付き合ってもらうのは週の半分くらいでいいんだよ」
「……べつに、嫌ってわけでもないですよ? その、お姉さんのワガママなら尚更……むしろ叶えたいっていうか……」
それで羞恥心が削れてしまうのは、現状私の欲するところではないのである。
「まぁ、将来を考えても女の子の服に慣れすぎるのは良くないよ、多分。うん」
「……そうですね。わかりました」
そんなわけで、ディア君には週の半分は男の子の格好で過ごしてもらうことになった。
一週間は奇数なので、一日分は好きな方の格好をしていいとしてある……さて、どっちになるかな? というのはシエスタの提案である。
さすシエ。自分で選択させるとかえぐいぜ。これは現状の意識が男の子もしくは男の娘のどちらであるかの目安にもなるそうな。
完全に男の娘に移行した暁には、また別の羞恥プランが待っている。計画的犯行……!
と、ここでアイシアが驚愕の表情を浮かべていた。
「えっ……ディア様、男、だったんですか?」
「……ボクは男です。言ってませんでしたか?」
「こ、こんなに可愛いのに……!?」
うん。こんなに可愛いのにだ。
「こんなに可愛いのに!!?」
「二度も言わなくていいじゃないですか……」
「まぁ、ディア君の性別はディア君だから。男はこんな可愛い生物じゃないよ?」
「……た、確かに……こ、こんな可愛いですもんね」
「なんでしょう。そこで納得されるのは不服な感じです」
そんなわけでディア君は週の半分くらい男の子の格好をすることになった。
どちらにせよ男装した女の子にしか見えないから私としては問題なしである。
本当についてるのか、定期的に確かめたくなるなぁ……
* * *
空間魔法の収納空間から魔道エンジン車『スター君2号』を遠隔で走らせているなう。
魔道具としてではなく空間魔法でブーンドドドドとおもちゃ遊びする要領で。
ブンドド楽しいです。
いやぁ、目撃証言とか、実際にどれくらいで飛ばしたらどれくらいで着くかとか、車体の汚れ具合や傷跡とか、そういう情報や証拠はあったほうがいいからね。うん。
と、そんな風に上空の窓から眺めていると、魔道エンジン車『スター君2号』の前方に魔物に襲われてる馬車を発見した。定番のゴブリンとオークか。間引いたけどまだ森から出て人を襲う程度には残ってたんだな。
迂回すべきだろうか……いや、ここは助太刀しておこう。なんか拮抗してるし。
私は収納空間からスッと運転席へと出て座る。魔道エンジン車『スター君2号』を
完全に交通事故である!
だがこの世界に魔道エンジン車と魔物の衝突事故を取り締まる法など無いのだ!
「ひゃっはー! お先に失礼しまーす!」
「え? あ、す、助太刀感謝す――」
感謝の声を後方へと置き去りにして走り去る私。よし、声かけもできたし十分だろう。私は収納空間に戻った。
いやー人助けしたわー。
「あるじ様ー、今日の晩御飯は海鮮スープなんていかがでしょう?」
「お、いいねー。っていうか料理も作れるのホントすごいな吟遊詩人スキル」
「旅の必須技能ですしねー。あと自分で作れた方が表現しやすいんですよ。ららら青き海の幸~、ふんだんに詰め込みし至高の一品~、香り立つフェンネルと潮の香り~、アサリの歯ごたえ~、クラーケンの切り身はサクッと切れ口の中で踊り~、ホロホロの白身魚は口の中で泳ぐ~、おお皆食べようアオヤギ亭の海鮮スープ~♪」
知らん店のCMソングを歌いながら冷蔵庫空間(につなげた箱)から材料を取り出すアイシア。
ソラシドーレやヴェーラルドで仕入れた食材は(ある程度は普通に使って、足りなくなりそうなら複製して補充するので)いつでも新鮮使い放題。料理も捗るだろう。
完成品をコピーするのもいいが、手作りしてもらう料理はまた格別。
というかできるだけ料理のコピーはしない方向でいく所存。生活費をちゃんと使って経済回さなきゃだからね。アイシアのおかげで食事に困らないし!
いやー、ホント掘り出し物だよアイシア。結婚するならやっぱ料理ができる人がいいよねー……って、いかんいかん。シルドン先輩の教え、シルドン先輩の教え。ふぅ。
危なかった。うっかりアイシアに絆されそうになるぜ……まぁ、絶対解放は出来ないんだけどね! 秘密も多いし。
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「あるじ様。郷土料理の作り方を歌った、料理の歌なんてのもありますよ」
「ああ、それウチの故郷にもあったな。あれはコロッケだったか……2番はナポリタンだったっけ。1番しか歌詞覚えてないけど」
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