ちょっと乗ってみたいよなぁ!!!


 さて、車が出来た。

 とはいってもブレーキやら安全装置やらが一切ない、エンジンをつけただけの巨大ミニ四駆のような代物である。一応は自走可能ってだけ。


 そう。一応は自走可能なのだ!


 ……ならちょっと乗ってみたいよなぁ!!!



 というわけでギルド証を使って「カルカッサへ向けて行商へ行きます」と町の外に出て、少し離れたところから魔道エンジン車『スター君2号』に乗り込んだ。

 (1号はあの石模型ミキサー。そして0号(木製)は手直しした状態で私の部屋に安置してある)

 入手に際しては、親切なヒーラーおじさんがくれたということで通す予定!


「はい、というわけでカルカッサへ向けて出発進行ー! いえーい!」

「いえーい!!」


 と、ノリのいい返事を返してきたのはアイシアだけで、ディア君は不安げな顔をしていた。


「本当に乗って大丈夫なんですか?」

「まぁ事故っても私の魔法があるから平気平気」

「事故になるまえに止めてくださいね!?」

「……全員に防御魔法かけとくね」

「事故になるまえに止めてくださいよ!?」


 ハハハ。おねーさんに任せたまえ。

 動力源のところにゴブリンジェネラルの魔石をセット! スイッチオン!


 バギュン! とムチウチになりそうな勢いで車が走り出した。

 あっぶね、無敵状態スターモード全員にかけてなかったらヤバかったかも。


「ひー、あああ、あるじ様っ、ガタガタ揺れますぅ、あだっ!」

「喋ると舌噛むよーっとと、サスペンション無いと揺れがやべーわこれ」

「お、おねえさん、曲り道です、が、これ曲がれます?」


 うーん、それは無理そう。ハンドル全然効果ねぇんだわ。

 早すぎて曲げても滑ってる感。木の車輪はグリップ力無くてだめだわ。ってか削れて壊れそう。


「一旦スイッチ切るねー」

「は、はひ」


 パチン、とスイッチを切ると、慣性の法則にしたがって暫く進んだ後、曲道を直進して草の上をガタンガタン地面の凹凸に合わせ揺れながら、ようやく魔道エンジン車『スター君2号』は止まった。


「……エンジンの中身、壊れてませんか?」

「どれどれ空間把握スキャンっと……あー、ピストン何本かヒビ入ってら。ギアも割れて欠けてる。ちょっと魔石が強すぎたのもあるかなぁ」


 走らせただけだったが、エンジン回りはボロボロだった。

 いきなりトップスピードになったのだ、負荷もとんでもなかっただろう。せめて金属製ならなぁ。うーん、というか坂道発進とか絶対無理だぞこれ、アクセルペダルってどういう仕組みで速度調整できてたんだろうか。


 とはいえ、動いた。

 空間魔法を使わず、人を乗せて走ったのだ。魔道エンジン車『スター君2号』が。

 アイシアが車体から身体を出して後方を見る。スタート地点ははるか後方にあった。


「おー、だいぶ移動しましたね、あるじ様」

「だね。これは案外イケるよ。どう思うディア君?」

「……改善したい点は山ほどありますね。防御魔法のおかげで風を感じませんでしたが、本来は風も凄かったと思いますし」

「そうだね、風防、フロントガラスも要るね。サスペンションも欲しいなぁ」

「これは色々とやりがいがありそうです」


 そう言ったディア君の顔は、なんだかんだでわくわくと心躍らる男の子の顔をしていた。

 ……


「いやまって! ディア君、もっと女の子して!」

「な、なんですか急に?」

「ディア君、自分が女の子の可愛い格好してるの忘れてない? もっとこう、恥じらって良いんじゃないかなぁ」


 私がそういうと、ディア君はぽりぽりと頬をかいた。


「そんなこと言われても、流石に女の子の服でもずっと着てたら慣れますし……今更二人相手に恥ずかしがっても仕方ないというか」

「ぐぬぅ!」


 慣れ。それは由々しき事態である。

 開き直った状態は神様の求める羞恥心スパイス的に薄味すぎるのだ!


 これはよろしくない、よろしくないですよ!?

 なんかこう……羞恥心を、羞恥心を稼ぐアプローチを……!!


「! そういえばディア君。前にお風呂入ったのいつ?」

「え? あー……そういえば最近は入ってなかったかも……」


 そう。魔道具作成に没頭したりなんだりで作ったお風呂をそんなに使っていないのは私の方で把握済みなのだ!

 そんなディア君を抱き寄せて、私は鼻を近づけてくんくん、と嗅ぐ。フリでもいいが嗅いでおく。


 ……なんか花のような甘い匂いすんだけど?

 何、エルフってそういう感じなの? えー、風呂入らなくてもすげぇ良い匂いじゃん……でも私は心を鬼にして言う。


「ちょっとにおうね」

「……!? そ、そうで、すか?」


 おっと、顔を離して改めてみればディア君は顔を真っ赤にしていた。

 うんうん、初恋のお姉さんに体臭を嗅がれてくさいとか言われたら恥ずかしいよね!

 よし、もう一押しだ。


「うん。これは……ちょっと徹底的に洗わないとダメだねぇ! 今日は一緒にお風呂入ろうか、三人で!」

「かしこまりました、あるじ様!」

「ええ!? ひ、一人で入れますから!」


 よーし、よし! 耳まで真っ赤だ!

 ディア君が恥ずかしがって断るのは想定済みよ。フフフ。

 まぁ同意されても一緒にお風呂入るくらい別にどうってことないんだけど。下の棒なんて前世で見慣れてるしよ。


「ふぅんー? ちゃんと耳の裏まで洗うんだよ? セッケンも用意しておくからね」

「洗いますっ」


 ……あー、でもこういう強引な手段で恥ずかしがらせても、また慣れられては困る。慣れさせないように何か考えなければなるまい……

 一時しのぎのために過激な手段を取ると、それはどんどんエスカレートしていくもんだからな。あー、どうしたもんか。


「あれ、じゃあ私だけあるじ様と一緒に入るってことでいいですか?」

「……ん?」


 なんかそういう事になって、アイシアを体中隅々まで洗うことになった。

 ついでにマッサージの練習相手にもなってもらったので私は満足です。




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(2月いっぱい休まず毎日投稿したから★やコメントで褒めてって下さい())

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